軸を持たない独楽みたいな

 独楽こまと呼ぶそうだ。紐で回すと、軸を中心に回転するところを見る事ができる、あのコマだ。僕には、これ以上うまく説明する事ができないから、話題を別にしようと思う。


 いや、結局は自分の話なのだ。軸も持たずに回ろうと試み続ける無鉄砲なのだ。ジャンルは定まらず、文体はぶれてばかりで、書きたかったあの風景は、あの会話は、まるで蜃気楼のように辺りを覆うばかりなのだ。だから、僕は未だに、書こうと思った話を書けた覚えがない。


 それでも、何か書き記そうと試みている。僕にはまだできる事が残っていると、意欲だけは人一倍ある。いや、それだって本当は欠けてばかりだ。ただ文章だけが連なっていくばかりだ。僕の意識を離れて、手を離れて、どこか遠くへ飛び去っていくばかりだ。僕は、ここで一人取り残されているだけなのだ。


 だから軸を持たない独楽なのだ。絶えず回転し続ける、回転不能な独楽なのだ。だから実際には、回転するだけの運動エネルギーさえも発生していない筈なのだ。それなのに、何か成し遂げたつもりでいるのだ。馬鹿なのかもしれない。


 僕の文章には価値がない。だから、それを創出しようとしているんだろう。今その最中なんだろう。うまくいかないものだ。価値のある文章である為には、まず認知されなければならない。そして、僕にはそれさえもない。だからここにはひとりよがりがいるだけだ。回る事のできない独楽が一つあるだけだ。


 書こうと思った話は、ついに消え去ってしまったようだった。

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