桜高専文芸部

ふぁんどりぃ

第1話 高専のドアを叩く

 日本全体が寒空の下に晒される1月の夜。

 東京から30キロ離れた田舎か都会か微妙な地域で、黒いスーツ姿のサラリーマンたちが行き交う中、リュックサックの底が抜けそうな程に荷物を詰め込んだ、子供にも大人にもなりきれない中学3年生たちが駆けて行く。


 彼らは自転車を路上に止めて鍵をかけること無く、乾いた大人から見れば羨ましいほどの熱気が窓から溢れる学習塾へと入っていく。

 この時期、現代社会を生き抜いている読者の皆様であれば予想がつくだろうか。彼らは、まさに高校受験の渦中なのだ。


 私立や国公立高校の推薦に合格し、将来へのステップアップのチケットを手に入れて、1人ずつ居なくなる学習塾。この日は丁度、公立の一般試験から数えて2週間前である。受験勉強のシーズン中で熱気も最高潮に達している頃だろう。


 その中で1人、公立の一般試験を前日に控えている中学生「武世 信」。入塾前までは偏差値40だった武世は、塾に入ってから学習方法を学んでからと言うもの、あれやこれやと能力を伸ばしていき、気が付けば偏差値60近くまで達していた。

 

 そんな彼が志望していた高校はどこか。

 高望みのし過ぎなのかもしれないが、応募しなければ入れない。

 しかし、合格したら『他の公立高校』を受けることはもう出来ない。

 だけども、彼は合格できるレベルまで努力してきた。


 ここまで来たら、やってみるしかない。

 普通の高校とは違う、『高等専門学校』のドアを叩く日が目の前までやって来た。

 

 ***

 高等専門学校、略して高専。5年かけて工学・商船・経営・デザイン等の専門教育を施すことで、実践的技術者を養成することを目的とした教育機関である。

 ***


 翌日、武世は都内にある高専を受験することになる。国語・数学・英語の試験だが、全て高い点数を取らなければ入れない。彼は国語と英語をなんらくクリアして、苦手の数学も今まで以上の成績の残すことが出来た。

 

 2週間後、門前に張り出された掲示板に彼の受験番号があった。

 高専のドアを叩いて入ることが出来たと同時に、高校生活を送ることが出来なくなった瞬間である。

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