暗躍パーティ始動
「……なるほど。となると、あの『黒猫』とか言う犯罪組織の連中の本当の雇い主というのは……」
合点がいった。
元々、新参ゆえに勢力拡大に困っているという『海風商会』が、彼らを従えているという事に違和感を感じていたのだが……
「あいつらの雇い主は、通商連合そのもの、ひいてはアクロシティという事になるのか」
「それじゃ……フォルスさんが変になっていったのって……」
「……可能性は高いな。何か吹き込まれたのかは知らないけど、商会を隠れ蓑に自分達の思惑どおり行けばよし、駄目でもあいつにやらせて、自分達は罪をなすりつけて美味しいところだけ戴く……なんとも胸糞悪い連中だ」
「そんな……それじゃあ、私は何のために……」
震える声で呟いた星露に、正直に思った通り告げる。ショックに打ちひしがれる彼女だったが……
「なら、チャンスなんじゃねーの?」
「……え?」
「操られているだけなら、戻す手段だって何かありそうな物だろ」
「あ……!」
ハスターの言葉で、彼女の目に生気が戻る。
思わぬハスターのファインプレーにふっと笑い、すぐに気を引き締めた。
「というわけで……私達の今後の方針は、だけど」
地図上で、壊れたために新しく用意した、海風商会を示す駒を動かしながら解説する。
「イリス誘拐後、逃走するこの船を途中で捕まえる、と。こちらへ来るアクロシティの飛空戦艦たちについては……」
ちらっとリュケイオンの方を見ると、彼は頷く。
「ああ、任せろ。こっちは僕の望む客だからね、受け持とう」
「本当に勝てるんだろうな。やっぱりダメでしたなんて言うなよ?」
「はっ、お前なんかに心配されずとも、役割はきっちりこなしてやるよ」
「はいはい、せいぜい私たちのために時間稼ぎよろしくな」
「「……フンッ」」
腹立たしく思えて仕方がないその顔から、顔を背ける。
全く、こんな事情でなければ、絶対にこんな奴に協力なんてしないというのに。
「……お前ら二人、本当仲悪いのな」
「あはは……大丈夫でしょうか……」
そんな私達二人を、残る二人は苦笑して眺めているのだった。
「それより、会場の皆に危険は無いんだろうな?」
イリスを助けられても、他が全滅でした、では洒落にならない。
「ああ、連中も、
やけに「できれば」という部分を強調して言うリュケイオンの言葉。
「なるほど……つまり奴らは、自分達が、悪者……新参者の野心家の商人に攫われたお姫様を助けた英雄、という筋書きに持っていくつもりなのか」
「ああ、世界にとっての重要な存在を守れなかった各国への糾弾も視野に入れてるだろうよ」
そうして、自分達の元に『御子姫』を置いておく世論向けの口実とする訳だ――ということまで考えて、胸糞が悪くなる思いがする。
「……タチの悪いマッチポンプだな」
「それが、あの連中のやり口だ、分かったかよ天族」
そう苛立たしげに吐き捨てるリュケイオンだった。
「なぁ、やる事は分かったけどよ、なんでこんなまどろっこしい事をするんだ? わざわざ一度指を咥えて見てなんていないで、先に姫様を助けに行けば……」
ハスターの言葉に、リュケイオン以外の面々が呆れた表情をする……星露でさえも困ったような顔をしているのだからよっぽどだ。
「……え、俺、何か変なこと言った?」
「くく、まあ僕としてはその案で暴れ回っても構わないんだけどね」
「やめてくれ、頼むから」
意地の悪い笑みを浮かべているリュケイオンを制する。こいつが暴れたら、きっとこの島がなくなってしまう。
「多分、君は勘違いしていると思う。たしかに向こうは各国との戦闘は避けているが、アクロシティは四国……まぁ実質は三国だけど……を相手取っても、自分達が負けるとは思っていないんだよ。ただ、今なら楽な手段を取れるから、面倒を避けたいだけで」
そこで一度リュケイオンに視線を送り、確認を取る。
彼は軽く肩を竦めただけだったが……どうやら間違っていないようだ。
「もし、奴らの計画を先に潰した場合……予測される動きは、こうだ」
いちいち説明するのも億劫だったが、駒の配置を変えて見せる。
飛空戦艦の駒二十機は……大闘技場やイスアーレスの街を包囲するように取り囲んだ。
「これって……」
「ああ。あの場から連れ出せなかった場合は、今度こそ強硬手段に出るだろうね」
呆然と地図を見ているハスターに、頷く。
その結果、戦場になるのは街中や、各国貴賓のいる大闘技場だ。おそらく被害は甚大なものになるだろうし、世界中が大混乱となるのは想像に難くない。
「それに……その場合、戦う以前に街全てが人質になる。そうなったら、イリスは戦わない道を選ぶだろうね……」
「そ、そうなのか?」
「ああ……」
なんせ、あの大闘技場だけでもイリスにとって致命的な、イーシュクオル皇妃殿下がいる。
仲良くなったあの皇妃殿下のお腹には、子供が居るという。
そんな彼女を戦火に巻き込ませる事は……きっと、あの子には無理だ。
そこに、更に何万もの無関係な街の人の命が乗れば……きっと、立ち上がれはしまい。
「だから……心底癪だけど、私達はこいつの思惑どおりに動いて、こいつにこの艦隊を相手にしてもらうしか選択肢は無いって事だ」
「はは、よく分かっているじゃないか、王子様?」
忌々しげに、「計画通り」とでも言いたそうな悪どい顔をしているリュケイオンを睨みつける。
完全に手のひらで踊らされているのは腹立たしいが、だからこそ協力を得られたのだから僥倖だったのだと無理矢理に自分を納得させ、深々と溜息を吐き出した。
「さて、方針は決まったが……手勢が足りないな」
向こうには、フォルス以外にもまだまだ多数の「放浪者」が控えているはずだ。殲滅ならまだしも、救助となると少々手に余る。
「あ、だったら頼みたい事があるんですが……」
そんな私に向かって挙手したのは、ここまでおとなしく話を聞いていた星露だった。
「とりあえず、あの忍者の子……ハヤト君に、信頼のおける商会の人達に宛てた、今回の顛末をしたためた手紙を届けて貰っているんですけども」
「ああ……なるほど、出掛けているのはそのためだったのか」
たしかに商会の人間をこちらへと取り込めるならば、向こうの戦力を削いだ上でこちらの数も増やせる。
あとは、元プレイヤー達を取りまとめていた彼女の人を見る目を信じるしかない。
「それで、私達にやって欲しい事とは?」
「はい。ほかにもう一人、戦力としても期待できそうな人……フラニーさんを助けて欲しいんです」
「フラニー……ああ、レイジとやり合ったあの女の子か」
「はい……彼女、フォルスさんに不利益を与えられたという事で、酷い目に遭っているらしくて……もしかしたら、助けたら協力してくれるかもしれません」
たしかに、あの娘ならば戦力としては申し分無い。
問題は、戦う意思があるかどうかだが……それは、彼女の心の強さに期待するしかないだろう。
「……そうだな、その価値はありそうだ。場所は分かるか?」
「は、はい! 恐らくですが、フォルスさんがあらかじめ取っていた団員用の宿のどれかじゃないかと。場所は……」
イスアーレスの地図に、いくつか丸をつけていく星露。
――こうして、奇妙な混成パーティが暗躍を始めたのだった……
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