第5話 シゴトの叫び

 ラバーズからの甘い誘惑に耐え、無事にスポーツドリンクを買うことが出来た俺は、汗だくで待つ後輩の為に部署に戻る。


「ほい、買ってきたぞ〜。」

「あ、ありがとうございます…ゴクッ…ゴクッ…プハーッ!生き返るぅ〜!」

「良い飲みっぷりだなぁ、酒飲んでるんじゃないんだから。」

「しょうがないじゃないですか、さっきまで喉カラッカラでしたし。しかも先輩戻ってくるの遅かったし。」

「あ、あ〜そうだったか?すまんすまん。」

「それになんか話し声も聞こえたし、誰と何話してたんですか?」

「はぇ!?あぁ、そ…そうだな…ハハハ…」


 言えない。1人で胸がデカいとか叫んでたり、セクシーなお姉さんの精霊みたいなのに後輩との交際強要されそうになってたとか絶対言えない。言えるわけが無い。言ったら何かしらの罪に問われて捕まるレベルだもの。


「あ、あれだ!ようやく仕事が終わったから解放感で叫んでたんだよ、アハハハハ…。」


 なんだよその返答!不自然すぎるだろ!囚人が久々にシャバに出たときでも叫ばねぇわ!俺捕まった事ないからわかんねぇけど!流石に怪しまれるよなぁ…。


「あーそうだったんですね、わかります!一気に呪縛から解放された時って叫びたくなりますもんね!だったらミカ先輩と一緒に叫びたかったなぁ〜。」


 信じちゃった上に共感しちゃったよこの子!え、この子解放感で叫びたくなる時あるの!?だったらめっちゃ心配なんだけど。あんまり人前でそれやっちゃダメだからね?凄くバカっぽいよ?あ、でもこの子大量の仕事こなしちゃったんだわ。天才だったわ。これがマイペースか…。まあ恐ろしい子!


「てか一緒に叫びたかったってどゆこと!?」

「へあっ!?びっくりしたぁ…いきなり叫ばないでくださいよぉ…。」


 おっとつい心の声が。


「ああ、すまない…。」

「…先輩は私と叫びたく無いんですか?」


 え、何その質問。初めて聞かれたよ?


「い、いやぁ、そんなことは無いぞ?一緒に叫ぶのもたまには良いもんな。」


 たまには良いってなんだよ、山登頂したときぐらいにしかやんねぇだろ普通。


「じゃ、じゃあ一緒に叫びます?」

「え?お、おう。」


 おい何か一緒に叫ぶ雰囲気になってきたぞ!初めて味わうよこんな雰囲気!


「それじゃ、万歳三唱!」

「ば、万歳三唱!?」


 俺ら当選でもしたんか。


「せーの…」


「「バンザーイ!バンザーイ!バンザーーイ!!」」


 本当にしちゃった万歳三唱。でもなんだろ、なんか悪くねぇな。


「意外とやってみるもんだな、万歳三唱。」

「そうですね、ミカ先輩!」


 五十嵐めっちゃ笑顔じゃん。それにめっちゃ眩しい。人って万歳三唱で笑顔になれるんだなぁ…。


「それでバンザ…ミカ先輩」

「お前今バンザイ先輩って呼ぼうとしただろ」

「す…すいません…。」


 アバンギャルドな間違いカマしたのに、めっちゃ顔赤くなってるぞうちの後輩。なんだそのガチ呼び間違い。ちょっと面白いじゃん!ズルい!いやズルいとかじゃなくて、


「で、俺になんて言おうとしたんだ?」

「あ、いや、その…もう時間遅いですし、焼肉は厳しいですよね…。」

「あぁ〜、そういえばそうだなぁ。俺も五十嵐も汗だくだしな…。焼肉久々に食いたかったなぁ…。」

「…それで、提案なんですけど…」

「お?なんだ?」

「明日って土曜で会社も休日ですよね?」

「そういえばそうだったな、俺たち華金に何やってんだよ…。」

「なので!明日、一緒に焼肉行きませんか!?」

「あ、明日?なるほど…今日の続きを明日やるってことか…それ良いな!明日行こう!焼肉!」

「え、良いんですか!?やったぁ〜!!ミカ先輩とヤッキニクゥ〜!!あ、勿論ミカ先輩のオ・ゴ・リ・で♡」

「ったく、しょうがねぇな。まあ奢るつもりだったから構わんが。」

「よっ!先輩!水っ腹!」

「それを言うなら太っ腹だ。」

「そうでした、エヘヘ。」


 こうして俺と五十嵐は、明日焼肉に行くことを約束し、それぞれ帰路に着いた。そして俺は帰路の途中でとんでもないことに気づいてしまう。


「あれ?よく考えたら約束の内容って、デートじゃね?」

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タロット〜道を示すモノ達〜 鴨トンボ @kamo-tonbo

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