第3話 怪奇!魔術師の男

 謎の男からタロットカード貰った俺は、そのまま帰宅し、貰ったカードを眺めていた。


「改めて見ると普通のタロットカードだな〜、そもそも何がスタンダードなのか知らんけど。」


 カードの見た目は何度見ても、何の変哲もないタロットカードである。曰くどころか精霊的なものも感じない。もしかして騙された?いや、タダなんだから騙されるもクソもない。それとも自分が鈍感なだけ?でもあの男も店も消えてたもんなぁ…


 と思い悩んでても仕方ない。


「はぁ〜…風呂入るか、湯船沸かさなきゃな。」

『お風呂なら沸かして起きましたよ。』

「お、マジ?サンキュ〜…え?」


 なんか声した。俺一人暮らしなのに。


「あの〜…どちら様…?」


 声は帰り道に会ったアイツでは無い。アイツより少し落ち着いた声だ。その声は耳には入っているが、部屋を見渡しても影すら見えない。


『後ろです、あるじ。』


 声のする方へ振り向く。


「本当にどちら様!?」


 振り向いた視線の先には、マントを羽織り、とんがり帽を被り、杖のようなものを持った、いわゆる「魔法使い」のような容姿をした男が立っていた。


『申し遅れました、私は"魔術師マジシャン"。主を手助けするモノの1人に御座います。』

「えーと…もしかしてローブ羽織った人のお仲間ですか?」

『ローブを羽織った…ああ、"愚者フール"ですね。彼は我らと主を繋ぐ役割を担っております。』

「な、なるほど…。それであなたは何の役割で?」

『私は基本的に、主を幸福に導く"指南役"といったところでしょうか。もちろん身の回りのお世話もさせて頂きます。』


 うん、やっぱ胡散くせぇ。あのローブの男…フールさんだっけ?なんか似た雰囲気あるなぁ…


『あ、私含め我らのことは呼び捨てで構いませんよ。』


 あ、了解でーす。あとナレーションには口挟まないで、マジシャン。


『申し訳ございません。以後、気を付けます。』


 うん、聞き分けは良いみたい。てかマジシャンは「我ら」とか言ってたけど…


「もしかしてフールとかマジシャンみたいなのが22人居たりします?」

『仰る通りでございます。場面、用途に合わせて様々なモノが主をお導き致します。』

「スーツみたいな紹介だな…。あ、例えばこの"恋人ラバーズ"は恋愛運上がるとか?」

『はい、具体的に言えば"良い恋愛"へ導くモノでございましょうか。』

「へぇ〜なるほどなぁ、じゃあこの"スター"は高速パンチ出来たり、"教皇ハイエロファント"は宝石撃てたり、"戦車チャリオット"は剣が使えたりとか…、あ!マジシャンって火出せる?」

『ど、どうでしょうか…?詳しいことはそのモノしか…あ、火は出せますよ。』

「マジで!?じゃあここで…は流石に無理だから、いつか見せて。」

『か、かしこまりました。』


 あ、マジシャンちょっと引いてる…。だってカッコイイじゃん。高速ラッシュとか男の子の夢じゃん。うわぁ…他のカードもすげぇ気になる〜!


「じゃあこの"運命の輪ホイールオブフォーチュン"ってのは」

『それは使用しなくて構いません。』


 マジシャンが俺の言葉を遮るように、先程とは低いトーンで発言する。


「使用しないって…能力とか無いんですか?」

『あるとは思いますが、主には必要無いかと。』

「は、はぁ…」


 先程の丁寧な説明口調とは違う、少し冷徹な話し方をするマジシャンに俺は少し不安を覚える。


「…風呂入ろ。」

『少しぬるくなっておりましたので、温め直しておきました。』

 

 優しい説明口調に戻るマジシャン。


「ありがと、その話し方の方が良いよマジシャン。」

『畏まりました。』


 こうして俺とカード達の奇妙な関係が始まった。




「…フール?居る?」

『なんで御座いましょうか、我が主。』

「フールって砂操れる?」

『…やったことないので分かりません。』

「そっかぁ、…ちなみに"隠者ハーミット"って」

『茨は操れませんよ、多分。』

「そ…そっか。…読んだ本は本棚戻しといてね。」

『…はい。』



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