タロット〜道を示すモノ達〜
鴨トンボ
第1話 キリフダノオト
「はぁ…いつからこうなったんだろ」
俺は朝からどうしようも無い疑問を口にしていた。
名前は「
我ながら「つまらない人生」を過ごしていると。
子供時代は親に恵まれ、家族への不満は特に無かった。小・中・高・大と学生時代を荒れる事無く過ごし、何事も無く就職して今に至る。良くもなく悪くもない、平々凡々な人生である。
そんな現状を「悪いことは起こってないからいっか」と正当化しながら、俺は今日も凡庸に通勤するのであった。
職場に着いて早々、朝から元気な声が響き渡る。
「ミカ先輩!おはようございます!」
と、くだけた敬礼をしながら挨拶するこの女性社員は「
「はい、おはようさん。相変わらず元気だね君は。」
「それが私の取り柄ですからね〜」
「元気なのは良い事だ。だか人の名前はちゃんと言いなさい。俺はミカじゃないミカドだ。」
「え〜、でも"ミカド先輩"より"ミカ先輩"の方が可愛くないですか?」
「俺を可愛くするな…」
この通り、彼女はとてもマイペースである。
「まあいい。先週頼んだ資料、明日までだが進捗はどうだ?」
「あーあれですね!もう出来てますよ〜。はいどーぞっ。」
「いつも仕事が早いな君は。どれどれ…うん、いつも通りの100点満点だ。」
「へへへ、やったぜ」
マイペース過ぎて仕事が早い。それがこの後輩である。
暫くして、平凡な自分ですら嫌悪する存在が現れる。
「三門っ〜!この前言った資料まだ出来てねぇのかぁ!!!」
朝っぱらから俺に対して声を荒らげるおっさんは「
「その資料なら3日前に提出したはずですけど…?確認しました?」
「ふざけんな!俺が確認してねぇってことはまだ出てねぇってことじゃねぇか!さっさと出せ!」
職場に怒号が響き、暫くしてまばらに小声が聞こえてくる。
「また三門いびりか…可哀想に」
「あの部長も懲りねぇな」
「なんであの人部長になれたんだろ」
そんな中、五十嵐が声を上げる。
「このファイルじゃないですか?部長の机に置いてありましたよ〜」
「ああ、カナちゃん。そうだったのねぇ、ありがとうね。今日も可愛いねぇ〜」
「あ、どうも…」
いつもの部長のセクハラムーブを苦笑いで受ける五十嵐。そして部長から俺へのパワハラムーブは続く。
「でも俺が記憶に無かったってことは、それほど三門の資料が酷かったってことだろ。やり直しだ!やり直し!」
どうやら部長は字が読めないらしい。義務教育の敗北である。そしてまた五十嵐のターン。
「そうですか?三門先輩の資料見てみましたが、部長の無茶な指示通りに纏められている上に、要所要所でわかりやすくしてくれてるので、新人の私でも見やすいですよ?バカでもわかる資料ですね!」
無垢な笑顔で論破し、遠回しに部長を「バカ以下」呼ばわりする仕事の出来る新入社員。
「そ、そうか…カナちゃんが言うならしょうがないなぁ…三門、ちゃんと今日も仕事しろよ。」
お気に入りの新入女性社員に論破され、ダメージを負いながらも俺に捨て台詞を吐き、職場を後にする仕事の出来ない部長。あんたが一番仕事しろ。
そして俺は、共に戦ってくれた新人に感謝と謝罪の言葉をかける。
「ありがとな。いつも巻き込んですまんな…」
「大丈夫ですよ〜、ミカ先輩には色々教えて貰ってますし。なんなら、部長の撃退方法はミカ先輩直伝じゃないですか。師匠〜」
「良い弟子を持ったものじゃ、ってやかましいわ」
「やっぱミカ先輩ノリいいわぁ〜推せる」
「勝手に推すなよ。まあ迷惑かけたことにゃ変わりない。昼、好きなもん奢るよ。」
「マジっすか!?やったー!じゃあマ〇ドで!!」
「安っす。奢りがい無ぇな…まあいいか」
そんな会話の中で、とある同僚が「奢る」というワードを耳に入れてやって来た。
「マッサンがマ〇ド奢ってくれるってマジ!?」
早々厚かましいことを言ってきたこの女性社員は「
「来やがったな女豹め…いやハイエナか」
「誰が美しい女豹だコラ」
「余計なもんつけんな、あとハイエナな?」
「ハイエナってどんなんだっけ」
「うっそだろお前」
こんな感じで、ノリは良いが少し抜けている。学生時代は一軍ぽい見た目だったが、威張ること無く誰にでも接し、助けを乞う者には手を差し伸べ、筋の通らない人間には誰であろうとつっかかる、みんなの姉貴的存在である。そのスタンスは今も変わらない。
「そういや、マッサンまたあのハゲデブにいびられてたな。アタシなら1発殴ってるわ、なんなら今から殴りに行くか」
「やめとけ死ぬぞ、部長が。それにお前はあの『忌まわしき事件』を繰り返す気か?」
『忌まわしき事件』とは、かつて部長のセクハラの被害者の1人だったリーが痺れを切らしブチ切れ、挙句の果てに元ボクサーで現インストラクターの強面な旦那様・「二階堂
「あーそんなことあったねぇ、あの時はすまんすまん」
「軽いな…、それにその後勇くんが、「迷惑かけたから」って有名店のプリンを部署全員分買ってきてくれただろ?もう聖人どころじゃねぇよ…」
「あったあった、あのプリンうまかったな〜」
「あのな…あんまり勇くんに迷惑かけんなよ…」
「へーい」
空返事をする同僚はすぐさま話題を戻す。
「そんなことよりマ〇ドだマ〇ド!アタシはビッグマ〇クで!!あとコーラ!!!」
「高校球児かよ…って、リーは一緒に来ないのか?」
「今抱えてる案件が片付かなくてねぇ、優雅にランチとは行かねぇのよ…そ・れ・に、若い子と2人で行った方が雰囲気良いじゃん?」
変なノリを作る友人、そしてそのノリに後輩がノってしまう。
「凛先輩…!お気遣いありがとうございます!それでは遠慮なく…2人で行きましょうか、ミカ先輩♡」
俺に近づき上目遣いする後輩。可愛いとは思うが、守備範囲に反応はしない。
「キミらは何がしたいんだ…まあ冗談はさておき、大変なら案件手伝うよ。その代わり、昼飯代はちゃんと払いなさい。」
「私も出来ることがあれば手伝います!また凛先輩と飲みに行きたいですし」
「お前ら…!あたしゃ良い友人と良い後輩ちゃんを持ったよ…よっしゃ!ギア入ってきた!凛様本気出しちゃうぜぇ!!!昼飯よろしくっ!」
と親指を立てサムズアップする熱血友人。
「じゃあ、リーの気合いが入ったところで、俺らも昼飯買いに行くか。」
「はい!ミカ先輩!」
やる気に満ち溢れた同僚の為に支援する後輩と俺。
これが、平凡だが悪くは無い俺の日常である。
『今回もダメだったか』
『次の主はどうする』
『アレはどうだ』
『駄目だアイツじゃない』
『あ…あの雰囲気』
『あのコ良いんじゃない?』
『良いツラしてんなぁ』
『じゃあ決まりだな』
『今回も楽しみだな』
『次なる主よ』
『我らが仕えよう』
『我らに願いを、主に幸福を』
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