第4話

疲れた…


とにかく疲れた…


 


「はやく帰って夕飯食べよう…」


 


そう彼女が言う。賛成と私も言い、お互い心底疲弊した顔で帰っていった。疲労と心労で明らかに目が死んでいる男女は目を引くのか知らないが、周りが明らかに引いていた気もするが知らない。そんなことを気にするほどの余裕もない。


家につくと、彼女が我先にと布団の上へとダイブする。


 


「はひー、つかれたぁ…」


 


「おい、私の布団だぞ、どけ」


 


「は?私の布団でもあるんですけど?え、なんですか?こんないたいけな美少女から安住の地を奪うんですか?罪悪感とかないんですか?」


 


「なんで、自分に罪悪感を抱かなきゃならんのだ、私も疲れてるんだ、どけ」


 


「うぅ、ひどいです…でも仕方ないですよね…私なんて所詮いきなり出てきた美少女ですし…」


 


わざとらしい演技だが目の前で女性が悲しそうな声でそんなことを言っている状況はちょっと罪悪感がでてくる…それにしてもいきなり出てきた美少女ってパワーワードすぎない?いや、実際そうなんだけど、何も間違ってはいないんだけど、言葉にすると意味不明すぎる、なんだいきなり出てきた美少女ってわけわからん


 


「はぁ、はいはいわかりました、譲ればいいんですね譲れば…」


 


「わぁい、やったー、ありがとぉ!」


 


世の美少女はこうやって人生のいろんなところで得をしているんだなぁ…というか自分のわりに適応はやくない?そんなにはやく美少女であることを利用できるものなの?私ってそんなに順応性高かったの?結構意外なんだけど。そう思いながら私は座椅子の上に座る、それにしても疲れた…


 


「なぁ、夕飯どうする?」


 


彼女が私に問いかける。


 


「冷蔵庫の中何が入ってたっけ?」


 


「肉とか、玉ねぎ、ジャガイモとかだったきがする」


 


「んー、ルーはもうないよね確か?なら肉じゃがで良くない?」


 


「おっけー、なら私が作るよ」


 


「マジで?助かる」


 


「いや、さすがにいきなり出てきた人に対してお金結構使わせたしね、お礼よお礼」


 


えー、聞きました奥さん、あのこ滅茶苦茶えらくない?あのこ私なんですよ、意味不明ですね。この申し出は正直めちゃくちゃ助かる、結構疲れてるし作るの正直くそだるい。なにより、美少女の手作り肉じゃが食べれるってマジ?中身が自分とはいえ普通にうれしい。


 


「じゃあ、作るし布団譲るよ」


 


「ありがと、なにか手伝ったほうがいい?」


 


「いや、狭いしいいよ、むしろ来ても邪魔なだけだし」


 


そりゃそっか、もともとここは一人暮らしのための家でそれ相応に部屋は狭い。キッチンも狭く、最初使ったときはまな板が半分ほど流し台の方へと飛び出ているのを見て目を疑った。コンロも一口しかない。いや、十分使えるんですけどね。ちょっと不便だなぁぐらいで。


その狭いキッチンで彼女が野菜の皮をむき、切り、深めのフライパンの中へと入れていく。


…なんか良い、美少女が自分のために料理を作っているのを見ると自分がリア充になったかのような錯覚を覚える。あれの中身自分だけど。というか、世の中のリア充どもはこれが普通っておかしくない?格差社会じゃない?許せねえ…


30分ぐらい経つと、肉じゃがも完成したようでテーブルの上を片付けるように言われた。完成した肉じゃがの見た目はまあ普通。それはそうだ、中身は自分なのだから今まで自分が作ったことがあるものと同じようなものが出来上がるだろう。


 


「「いただきます」」


 


食べてみると味の方は、うん、普通。普通においしい、べつにいままで自分が作ってきたのと同じような味。お互い話すこともなく黙々と食べていると彼女がなんだかそわそわしているような気がする。


 


「どうかした?」


 


「い、いや別になんでもないけど」


 


なんでもなくはないだろ、わかりやすすぎる。自分ってこんなにわかりやすいのか?自分のことだから気づいていなかっただけ?


 


「いや、なんでもなくないだろ、別に自分同士なんだから気使わずに言えよ」


 


「……あじ」


 


「鯵?鯵なんて使ってないじゃん」


 


「味!味覚!お味はどうですかってだけ!」


 


「お、おう、普通だけど」


 


「そ、そう、普通か…そっか…」


 


えぇ、なんでちょっと悲しそうな顔してるんですか…なに?美味しいって言ってほしかったのか…?


 


「いや、まあ普通、普通においしいよ…」


 


「ほんと!?い、いや知ってたけどね、でもそういうことはちゃんと言ったほうがいいよ、うん」


 


「お、おう…」


 


中身が自分っていうのが信じられなくなってきたんですけど、なんかかわいくない?見た目もそうだけど中身も。気のせい?ほんと!?の時の笑顔と相まって普通にちょっとときめいたんですけど、やめろ変なナルシズムが生まれてしまう。戯言は置いておいて実際どうなんだ、ほんとに自分なのか?私がこんな性格だとは思えないんだが…それとも本当にこんな性格だったのか…?ただ客観視ができていなかっただけ…?


 


「どうかした?」


 


「い、いやなんでもない」


 


考え込んでしまったのか、彼女が声をかけてくる。まあ、気にしても仕方ない。結局どうであれ彼女とは暮らさざるを得ないのだ、さすがにやっぱ無理とか言えないです。そんな鬼畜生にはなれません。彼女はちょっと訝しんだものの気にせず夕飯を食べている。それに倣い私も食べる。


 


「「ごちそうさまでした」」


 


「作ってもらったし、さすがに後片付けは私がする」


 


「ん、了解」


 


そう言って、彼女の分のお皿ももって流し台へと移動し、皿を洗う。皿を洗い元の場所へ戻ると


 


「シャワー先浴びていい?」


 


と私に聞いてきた。


 


「別にいいよ」


 


「おっけー、じゃあ浴びてくる」


 


なんかめっちゃリア充っぽくない?今の。ん、というよりシャワー浴びるんですよね?ってことは服ぬがなきゃですよね?


 


「まって!服脱ぐならここで脱がないで!お風呂場で脱いで!」


 


「あ、うん、そうだね、了解」


 


危うく変態紳士の名を欲しいままにするところだった…

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