映画『歳とりて』

ひとりで泣いている子を見つけたら


(声をかける?)

(警察を呼ぶ?)

(目線をあわせて)


「どおしたの?」

嘔吐いていた子が顔をあげる

目は赤く、とろり、と涙が零れた

見知らぬ人に声をかけられて

呆然としていた


(しばしの沈黙)

(膝に置かれた手)

(ちょっと痺れてきた足)


口を一文字に

何も言いたくないようだった


(困った)

(無視するべきだったか)

(周りに人はいない)


「もう平気そう? お家かえれる?」

カラフルな絵の具箱を手に

こどもは走って行った


(悪い人みたいだ)

(悪いことしたなあ)

(周りに人がいなくてよかった)


道路のベンチで泣いていたくらい

悲しいことがあったんだ

家の人にも話せなかったか

話す前だったか

ひとりで泣いて


(立ち上がる)


行き場のない気持ちを溢れさせ

しくしくと泣いていた

はあ、と溜息をつく

すう、と空気を吸う

あんな、素直に感情を出せてた幼い頃

まだ許された時間


(歩く)

(考える)


今日の空気は湿っぽい

優しくされたかった時間は

大人にとって、湿り気が強く

中途半端なアンニュイが心を抱きしめた

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