映画『虚妄のドラゴンに夢を見る』

ドラゴン芥川龍之介がいる

私の前で横たわる

私は飛んでいるドラゴンしか見たことがない

目の前のドラゴンはドラゴンだろうか

飛ばないドラゴンはドラゴンではない

翼も折れてない

それは化け物

白目ではない

それは凶器

爪が欠けていない

それは自傷

角がある

それは矜持


ドラゴンは飛ぶモノ

私は見上げるモノ

死んだドラゴンはそのまま飛び続け

灰になるまで飛び続ける

年号がいくら変わろうと

飛び続けるドラゴンたちを知っている

望遠鏡の課外授業

目がぎょろり

翼は少し千切れ

うろこが剥がれ

とこどころに剣がある

それがドラゴン


元気に飛ぶドラゴンも

よろよろすれば闇に消え

私たちは思い出せなくなる

それがドラゴン


「ずっと飛び続けていやになったのですか」

「……」

「なぜ死なないのですか」

「……」

「私の前にいる、あなたは誰ですか」

「……」

「あ」

「もうしんでおる」


肉を食え

翼を食え

腸を食え

目玉を食え

余すところなく食べよ

角と爪は粉にして

酒と一緒に呑むといい


「そのような話、聞いたことがありません」


骨は隠して粉にせよ

毎年の生まれ日に呑むがいい


「食べても私はドラゴンになれません」


けらり

それは笑う


ドラゴンを、食べたかったのか

見上げるなにかになりたいか

おまえはわたしに焦がれたか


ばかを言え


けらり

それは笑う


人に取られる前に食え

おまえは運のいいやつだ

寒い空にはもうあきた

だれにも知られずきえるのだ

だからおまえは運がいい

消えたわたしを知るのはおまえ

ずっと死ぬまでわたしをおもえ


「私には、とてもとても背負いきれません」


けらり

それは笑う


だれでもいいのだ本当は

偶然おまえに会うただけ

人生ずっとわたしを食せ

人生ずっとわたしを思え


「あなたは、ドラゴン、なのですか」


けらり

けらり

けらり、けらり


おまえには、わたしが、なにに、みえるのだ?

わたしは、おまえを、のろうのだ、わたしのすべて

もっていけ、そしておぼえよ、こののろい

おまえをむしばむ、こののろい

いっしょう、おまえは、わたしをおもう


「……知っています、あなたと同じドラゴンを」

「ずっと飛んでいるドラゴンを」

「あなたはそのカケラなのですね」


<<ドラゴンは言う>>


ああ、わたしはすべてを許さない

だから、

<<おまえだけを許している>>


その遺書は儚くも花のように今もあり続ける

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