一日一編集『七月の映画』

朶骸なくす

映画『幽明の子』

 人伝に聞いたのですが

 ある旅人が両親を恨んで旅にでておりました

「知らぬところで私を殺しているのです」

「本当でございますか」

 困惑気味の家主は嫌われ紫煙を吹き出した

「それはそれは眼前のあなた様は幽霊で?」

「貴方は怨霊が見えるので?」

 ハハッと男は返す。これはなんぞや

 目の前にいるのは、人間か悪霊か

「では、逃げているのですか」

「まさか追われる真似はしてません」

 怨毒えんどくの旅路、家主は囲炉裏の炭を火箸で整える

 産み親から逃げてきたのだ

 殺してはおらん

 しかし両親を殺めて旅にでたようにいう

「では、あなた様はなんでござんしょう」

 火がはじければ背後にあった鉈を持つ

 しかし旅人の眼差しは家主を見ていた

「殺して下さるな」

 凶器が少しばかり持ち上がる

「なぜじゃ」

 家主を射抜いたまま

「私はいつかの子でございまする」

 旅人は答える。あなたの子だと

「知らぬ」

 子は巣立ち妻は楽土。旅人は静粛に語る

「いつかの子でございまする」

「輪廻転生極楽浄土行けぬ私は逢着ほうちゃくの旅」

「呪われておるのです。この咎は世の祝福」

「まだ見ぬ父母を探す旅」

「この恩讐、恨み辛みと旅路の果てに」

「巡り会うは父母のみぞ。殺して下さるな」

「二度、殺して下さるな」

 瞳は閉じられ、

 何度、旅人は寂寥せきりょうの顔を何度父母に見せたことか

 これは夢なのか、旅人は目の前の男を親と言う

 静かに家主は鉈を手放し居直ると火箸を乱す

「あなた様は水子なので」

「いいえ、ただの旅人でございます」

「いつかの世であなた様を殺めると」

「おそらくは」

 日が昇るころには旅人は消え

 家の主人のみが残されました

「おいたわしや、あの子は幽明ゆうめいに棄てられた」

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