第11話 オリヒメとヒコボシ⑪
ヒコボシが部屋へ入ると、織姫がカサネと並んで待っていました。
「ごめんなさい。私がヒコボシを待っている事が出来なくて、ホントにごめんなさい」
そう言うと、織姫は泣き崩れました。
「オリヒメ・・・君は、オリヒメなんだね!」
そう言うと、ヒコボシは織姫を抱きしめました。
ヒコボシは、織姫の涙を拭ってやります。
「・・ヒコボシ、出会ってたのね、私達、出会ってたのに・・・うううう」
「あの時、オレの格好は酷いモノだったし、それに片腕、片目で顔に切り傷だから、誰もヒコボシとはわからなかったよ」
「いいえ、私は、声を聞いたらわかるわ・・・わかるハズだったの。でも、あの時は、カサネの身体になったばかりで、握り飯を恵んであげましょうと思っておにぎりを作ってたら、女中頭に小言を言われて。それで、ちゃんと注意はしなくちゃって、そればかりに気を取られて、あなたのことをよく見てなかったし、よく聞いてもいなかったの。ごめんなさい」
「いや、それを言うなら、オレこそあの時・・・もうよそう。もういいんだよな。こうして出会えたんだから。そして、一緒になれるんだから!」
ヒコボシは織姫を、もう離さないとばかりに、きつく抱きしめました。
「ヒコボシ、愛してるわ」
「オリヒメ、オレも愛してる」
そうして、二人は熱いキスをするのだった。
「お二人とも、ご飯が冷めちゃいますよ」
カサネが頃合いを見て言いました。
カサネの給仕で、二人一緒に食べました。
あ~~ん、とかもあったりしました。
二人の椅子は、どちらが引き寄せたのか、密着していました。
カサネは、そういう二人の様子を見て、自分がオリヒメとして新婚生活を送っていたことを思い出し、羨ましく思いました。
そして、そんなにくっついて食べたら、食べにくいだろうとかは言いませんでした。
オリヒメは、なぜまた自殺をしたのかを語り、なぜかこの織姫の身体の中に入ってしまったと言いました。
織姫は、ヒコボシの妻になることを想い悩んで自殺しようとしていたところ、オリヒメが心の中に入り込んで、心が一つに融合してしまったらしいのです。
最初は、織姫としての気持ちもあったのですが、どうやら、オリヒメのヒコボシを愛する気持ちの方がとても強く、そして、織姫の心はオリヒメのヒコボシとの想い出を知ることで、逆にヒコボシに親しみを覚えたようでした。
そして、心はいつの間にか一つのモノになり、ヒコボシを愛する気持ちはとても強くなったとのことでした。
こうして、二人は婚礼を上げるのでした。
織姫にくっついていた童は、カサネの指導を受けながら、ヒコボシの館で織姫のお世話ができるように修行を始めました。
さて、新婚のヒコボシに、婚礼してすぐに、城を築き、他国からの侵略に備えるように命令が下されました。
その場所は、あの彼らの故郷でした。
実は、あの場所が戦場となったのは、隣国に近いためでありました。
そして、ヒコボシは今まで知らなかったのですが、あの故郷の、二人を分け隔てた大きな川は、今では、水が枯れて、空を覆っていた雲もなくなっていたのでした。
そのため、森を抜けて、その川を道として、隣国ばかりでなく他の国も侵略をしてくる可能性があったのです。
事は急がねばなりません。
俄かに忙しくなり、築城も夜を徹して行われました。
ヒコボシは、先頭に立って、築城を急がせます。
織姫は、多くの大工や人足達の労を労おうと、提供する食事が滞りなく行われるように気を配り、給仕も先頭に立って行うのでした。
ヒコボシは、豪勢な屋敷や家具を売り払い、織姫も自分の持ち物を出し惜しみなく売り払い、支給された以上の額の金銭を用意し、迅速に事が運ぶように手を尽くしました。
こうして、この国の
やがて、隣国が他の国と示し合わせて、ヒコボシのお城を攻め落とそうと
ですが、ヒコボシの活躍で、あっさりと戦は終結するのでした。
なに、簡単な事です。
ヒコボシは、その能力を生かして、攻めて来る大将の首を次々と落としていったのです。
指揮系統が混乱し、統制が取れなくなった敵達は、討ち取られたり、逃亡したりと散々な目にあいました。
そして、他国とは不可侵条約を結び、隣国からは賠償金や貢物、一部の領土の割譲、そして、ヒコボシに隣国から美しい姫が嫁いできました。
その姫は、ヒコボシを怖がるどころか、とても愛してくれました。
それから、ヒコボシは、オリヒメとその姫との間に、7人の子供を授かり、皆がその誕生日が7月7日でした。
それぞれの誕生日プレゼントをあげるのに、それぞれに、紙に願いを書かせたり書いてやったりしました。
それが、巷の庶民に伝わって、 7月7日は短冊に願い事を書く風習が出来たということです。
また、7という数字は、幸運を呼ぶとも言われ出したのは、この時からだと言われています。
天宮では、ヒコボシ達の様子を天女達が見ておりました。
天女達のウケが良いことに、婆に化けていた天女はほくそ笑んでいました。
常日頃、無聊をかこっている天女達は、時々、人間界に降りてきて、いろいろと仕出かすのです。
実は、今回も、そんなところだったのでした。
オリヒメがカサネになっていた時に自殺するように仕向けたのも、隣国の姫をヒコボシの嫁に恙無く導いたのも、そして、何よりトコヨの実を食べた事で河を出現させたのも、みんな、この天女が仕組んだことでした。
おわり
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