結婚
バブみ道日丿宮組
お題:犯人は作家デビュー 制限時間:15分
結婚
葬式に呼ばれたから、かつて彼女だった人の実家に来たのだが……。
「死んでないじゃん」
「死んだのは小説の中の私だよ。葬式はその中で行われてるの」
お茶を出してくれたのは容姿がほとんど変わってない彼女だ。
『同じ30代なのか?』と疑問に思うほど若い。
もともと幼女に見られてたから、ある種の合法がここに存在してる。
「……(ゴクリ)」
指を思わず確認した。指輪はなかった。つまり独身。
ロリコンの旦那さんはいないらしい。
「どうしたの? 手なんか見たりして?」
「別になんでもない。些細なことだよ」
ふぅと一息。
「それでなんで死んでもない人の葬式に呼ばれなくなちゃいけないんだ?」
電話で話してくれたおばさんは、共犯者だろう。
玄関で迎えてくれたとき、若干申し訳無さが見て取れたものだ。
「実はね。結婚しようと思うの」
「結婚か」
それ僕にいう必要あるのか? 呼ばれる必要あるのか? なんだ嫌味か?
「そんな不機嫌そうな顔しないでよ」
「無駄な時間過ごさせるのだから、そうもなる」
すぅと彼女は書類をテーブルの上に置く。
「相手はあなただよ。ほら、名前書いて」
「何言ってるんだ」
ほんと何を言ってるんだか。
「どうしても結婚生活というのを味わいたくて。そうでなきゃ先に進めない」
「いや……相手いないの?」
「みんな容姿が幼いから嫌だって。唯一付き合ってくれたのはあなたじゃない」
そうだったかな。
みんなかわいい、お人形さんみたい、抱きしめたい、とかたくさん言ってたような記憶しかない。
「結婚なんてしなくてもルームメイトみたいなのでもいいじゃないか」
「これから相手が見つかる気がしなくてさ。元彼のあなたなら受け止めてくれるかなって思ってさ」
トンと、ボールペンがテーブルに置かれた。
「さぁ書いて書いて。そして引っ越し!」
「拒否権はないの?」
「ないでしょ。どうせあなたも相手見つからないだろうしさ」
ふふんと笑われた。
確かに僕も容姿が幼く、相手に選ばれることが少ない。
だからといって、期間が空いた相手と結婚するのかと言われると、正直微妙である。
「大丈夫。最初だけだよ。あなたと過ごした日々はとても良かったもの。それがまた続くようになるだけ」
「そうかな」
彼女と過ごした日々はそれはもう楽しいなんて言葉が言い表せないくらい楽しいものだった。
それがまた生まれるというのであれば、彼女の言葉は正しいのかもしれない。
「僕のこと好きなの?」
「そうよ。まだ好き。小説の中でカップルにしちゃうくらい好き」
その表現はよくわからないが、好意はあるという。
僕はどうだろうか。また彼女を愛せるだろうか。
「とりあえず、書くだけ書いちゃって。あとはどうにでもなるから」
「うーん、わかった」
嫌いじゃないし、まぁいいかと記入するためにボールペンをとると、彼女がまた笑った。
かわいい。
間違いなく、世界で一番かわいい。
そう思えるなら、この結婚も悪くはないものなのかもしれない。
結婚 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri
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