第81話 カージノでお買い物

 ホタルの部屋へと上がって行った二人を見送りながら思った。

 東雲さんに怪我をさせてしまったのは俺の注意力が足らなかったからだ。


 もっと悪意に対して敏感に察知できるようにしておかないとな……

 俺ならまだ何とでもなるけど、ホタルが一人の時に狙われたりしたら、今のホタルのスキルだけでは、絶対に安全とは言えないし。


 必要な物は俺が魔道具で用意すれば、ホタルにも最低限魔道具を発動するのに必要な魔力量はあるから、なんとかなるか。


 拉致される可能性を考えれば、まず必要なのは転移の扉だな。

 武器は……聖魔法が使えるなら必要は無いか。

 でも、先日の夢幻さんとの会話じゃないけど、いきなり血管詰まらせて殺す事は出来るとしても、それじゃぁ困るしな。

 戦闘能力を失わせるような発動の仕方を考えなきゃいけないな。


 夢幻さんに相談して、いい方法が無いか考えよう。


 しかし……悪意に対しての予知か……


 俺のユニークスキルである予知はオグリーヌからの報酬でレベル3に上がったけどパッシブで発動するような状況ではないからな。

 現時点では今まで十五分先くらまでの一瞬を静止画で見る事が出来る程度だったのが、一時間先くらいまで指定できるようになった程度だ。

 もっとレベルが上がったら使い勝手が変わってくれればいいんだけどな。


 それから十分ほど経過したところで三台の車が到着した。

 東雲さんが要請した警察の車両だ。


 それに合わせて着替えを終えた東雲さんがホタルと一緒に降りてきた。


「東雲さん。大丈夫ですか?」

「はい。足の傷は塞がりましたし、背中の防弾チョッキに銃弾を受けた場所も少し痛みましたが、骨折もしてないようですし、蘭さんの治療で痛みも無くなって来たので私はこのまま襲撃犯の取り調べに向かいますけど、小栗さんと蘭さんも事情聴取を受けて貰う事になりますので、一緒に来て頂けますか?」


「あー、しょうがないですね……どう答えたらいいんでしょうか?」

「虚偽の報告をすると後々面倒になるので、そのままの報告がいいと思います」


「魔法で倒したって言うんですか?」

「そうですね。大丈夫です、ここから話が漏れる可能性はありませんので」


「解りました」


 鑑識班の人達が現場の調査をしている間に玄関前に転がされた三人の襲撃犯は、ガムテープで巻かれたまま警察車両に荷物の様に積み込まれ、俺とホタルは別のセダンタイプの車両に乗せられて、警視庁へと連れて行かれた。


 斎藤社長には警察が到着する間に連絡を入れておいた。

 とりあえず事務所へと来るそうだ。


 車の中でホタルが話し掛けてくる。


「こんな時間から取り調べとか、お肌に悪いです」

「ホタル……緊張感ないよな。ホタルが一人の時に狙われたりしたら困るし、自衛手段を作っておかなきゃいけないな」


「そうですねぇ。私の魔法だと心臓とか脳とか動きを止めてしまうかもしれないので、とりあえず、さっき東雲さんと二人の時に少し話してたんですけど、東雲さんと部屋をシェアして使うことにしました。なにかあった時にやはり側にいてもらった方が心強いですし」

「そうなんだ。それは俺的にも安心だな」


 警察での取り調べは俺達は襲われた方だし、一時間もかからずに解放されたが、東雲さんは一応警察病院に、そのまま入院になった。

 外傷は残って無いけど出血量が結構多かったので、輸血をするそうだ。

 

 事務所に戻ると斎藤社長も到着していて、まだ事務所の玄関回りは鑑識係の人が調べていた。


「社長、遅くにすいません」

「大丈夫です。それより小栗さんは怪我は無かったんですか?」


「東雲さんに庇われて怪我をさせてしまいましたが、俺は大丈夫です。もう少し危険に対して敏感に対応するように心がけます」


 鑑識の人に質問をされ犯人の立っていた場所の位置関係などを聞かれ、とりあえず今日は遅いのでまた後日来るということで戻って行った。


 ホタルがコーヒーを入れてくれて斎藤社長とソファーに座って話した。


「それで相手はどこの勢力だったんですか?」

「国家とかがバックに付いてるような感じではなく、裏社会系の相手のようですね」


「裏社会ですか……狙いはJLJが持つ莫大なカージノ利権の事だと思いますが、それだったらもう少し搦手でくるような気もするんですよね。むしろ宗教的な盲信者などのほうが、今回のような通告なしの襲撃をする可能性が高いんじゃないでしょうか?」

「なるほど……確かに犯人側から何か要求があったりしたわけでは無いですし、いきなり襲われるのはおかしいですよね」


「はい……警察がちゃんと相手を特定してくれればいいですけど、宗教が相手だと何も言わずに自殺してしまう可能性もありますから……」

「なんだか理不尽ですね……自殺しても、何も願いはかなわないし命令を与えた人はきっと信じている神様とは何も繋がって無いと思うんだけどなぁ」


 まだ宗教と決まった訳でもないし、今の時点では俺達は身を護る事を考えるしかない。

 もしポーラ王女が巻き込まれたりしたら、きっとシリウス陛下は相手の勢力を全滅させるくらいはしそうだからな。


 ◇◆◇◆ 


 翌朝は七時前には夢幻さんと藤崎さんが出勤して来たので、ホタルと四人でカージノへと転移をした。

 午後からはパーフェクトディフェンダーズ社のタイラーさんとの約束があるから早く済まさないとな。


 夢幻さんが日本で用意した十億円分の純金は、カージノでは十二億ゴル程の価値になり、魔力をレベル十、知能をレベル五まで上げ、ポータースキルもレベル二で取得した。

 ホタルは魔力と知能をレベル五、ポーターをレベル二に上げ、七千四百万ゴルを貸したが、シリウス陛下が年棒、一億ゴルの給与をくれると言っていたから、十分お釣りがくるだろう。


 藤崎さんはバーサーカースキルを売ったお金があるので知能のレベルを六まで上げていた。

 ホタルや夢幻さんと違ってIランクだからもう一種類しか覚える事が出来ないので、知能以外のスキルはまだ取得していない。


 四人でギャンブリーの街を歩いていると夢幻さんが奴隷商に行ってみたいと言うので、フローラたちを購入した奴隷商へと立ち寄った。

 

(夢幻さんがスキルに全額を使わなかったのはこれだったのか……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る