第27話 陞爵
「アズマよ、余から、この国の爵位を授けよう。伯爵位だ。領地も用意するが希望はあるか?」
「領地なんかいただいても、管理できませんので……一応この国の爵位を教えていただけますか?」
シリウス王が教えてくれてこの国の貴族制度はこんな感じだった。
この国では位階制度が存在する。
第一位が現在の国王と王妃、および成人前の王子と王女となる。
王が王位を譲った場合は先王も第一位である。
第二位は王族、これは成人した王子、王女、それと現王の兄弟となる。
第三位は公爵家、王家と血縁の深い貴族家。
第四位は侯爵家及び辺境伯家。
第五位は伯爵家。
第六位が子爵家。
第七位が男爵家。
第八位が準男爵家。
第九位が騎士爵家。
準男爵以上は領地持ちで世襲可能だが、騎士爵は一代限りの名誉爵位となるそうだ。
「人のいない場所であればどうだ? これまでこの国の海岸線は潮の満ち引きで、満潮の時期には五キロメートルほども内陸に下がる部分であったので、この大陸の周囲は幅五キロメートルに渡って、今までは使えなかった新たな土地となる。その部分であれば現時点で領主もいないので、開発も好きに行えるぞ?」
シリウス陛下の言葉に以外に食いついたのはホタルだった。
「先輩、絶対貰っておいた方がいいですよ? 海岸線ならこれから絶対地球の科学文明を取り入れたりする上で重要な土地になりますから」
「そうなのか?」
「間違いないですって。国王陛下。海沿いの土地の開発に関しては自由に行って良いのですね?」
「うむ、問題は無い」
「では陛下、その海沿いの土地をよろしくお願いします」
「それでは、ギャンブリーのある第九街区サジタリウス地区の海岸線をアズマ伯爵の領地と定めよう」
その一言で、かなりの広さの土地が俺の領土となることになった。
オーストラリア大陸とほぼ同じ規模の大陸の海外線だと、二万キロメートルはあるのだ。
十二分の一としても、長さ千六百キロメートルの海岸線が、幅五キロメートルに渡って俺の領地ということになった。
日本の感覚でいうと、へたな県よりはるかに広いぞ。
人口は当然ゼロで、今までは一年の半分は海中に水没していた土地だから、ほとんど砂浜とマングローブのような樹木しかない。
エビやカニは豊富にいるそうだ。
ただし、この大陸の土地だから当然、魔物化しているエビやカニも数多く存在するだろう。
強そうだよな?
「先輩、この国の貴族ならそれらしい名前を持って居た方がよくないですか? 小栗東の名前だと絶対日本から、なんか言われる気がしませんか?」
「それもそうだな。この国での名前か……全体的に文明が中世フランスっぽい感じだし、『エスト・ペティシャティ』とかどうだ?」
「先輩……いつの間にかフランス語も覚えてたんですね。東と小と栗を繋げただけって……どうなんですか?」
「さすがに解ったか。でも、それっぽくていいだろ?」
「ですね。じゃぁ私はリュシオルとでも名乗りますか?」
「いいんじゃね? ホタルは貴族位では無いから姓は必要ないのか」
俺とホタルの新たな名前も決まり、この国の貴族としての地位を手に入れることになった。
「エスト・ペティシャティとリュシオルだな。その名で登録して置こう。リュシオルには王国の
「ありがとうございます。ポーラ王女の出立はいつからにされるんですか?」
「準備ができ次第で問題無かろう」
「それでは、ポーラ王女とザックさんとアインさんの服装を準備してきますね。先輩! 日本に転移お願いします」
ホタルに言われて、俺は日本の自宅へと転移をした。
そのまま、外へと出て車に乗り込み、郊外のショッピングセンターを目指す。
「先輩、やっぱり日本の夏は暑いですね。護衛用のナイフとかでも薄着だと隠して持つのは困難ですからどうしましょう?」
「そうだな。マジックバッグはカージノ王国では一般的なのかな?」
「私は、見たことないですけど……アンドレ隊長たちも狩りに行くのに、荷馬車ひいてたじゃないですか?」
「確かにそうだな。でも目立たないようにと考えれば、他に手段も無さそうだし、向こうに戻ったら作っておくか」
「って……先輩作れるんですか? 私も欲しいです」
「ああ、ホタルのも作っておくよ。自分の好きなバッグ買ったら、それの内側に貼り付けるような感じで作ろう。俺は、インベントリがあるから必要ないけどな」
「先輩! バッグ買って貰えるんですか? あざぁす!」
「どこの体育会系だよ……」
そんな話をしながら、車のラジオのスイッチを入れると、少し困ったニュースが流れていた。
『ただいま『ダービーキングダム』の乗員、乗客で遭難後に行方が分からなくなっていた、元サッカー選手のカール・シュナイダーさんと『ダービーキングダム』の一等航海士であった、ダニエル・オバマさんの二名が太平洋に展開してたアメリカ海軍の、空母により救助が確認されました。
その時に、同じく乗客であった、アンドレさんとミッシェルさんの二名も生存は確認されましたが、そのまま新大陸へと戻ったということです。これで、七名の行方不明者のうち、安否の確認がされていないのは三名となります。『ダービーキングダム』のシェフであった、アダム・バローさん。乗客で日本人の小栗東さん。蘭蛍さんの三名です。一刻も早い安否の確認が待たれます』
「先輩……私たち行方不明者なんですね……」
「まぁそうだろうな。アメリカやイギリスはおそらくアンドレ隊長からの報告で無事を把握しているのは、間違いないだろうけど、今はどう発表するのかを、考えている状態なんじゃないのかな?」
続けて、ラジオが放送を行っている。
『太平洋に突如現れた新大陸からの生還者の出現により、新大陸の情報入手が世界各国の急務となります。また米国海軍からの情報によりますと新大陸周辺は見えない壁のような物が存在しており、報道ヘリなどの民間機や船舶はくれぐれも近づく事が無いようにご注意ください、本日夕方十八時からは衛星写真の解析による、新大陸関連の特別報道番組をお届けします。特別ゲストとして、『ダービーキングダム』が失踪当時に乗客として乗船していた日本人観光客の方々もスタジオにお招きしていますので、ご期待ください』
「俺達の名前……報道で出てるんだな」
「前の会社の人達大騒ぎしてるかもしれませんね。先輩と私ができてたのかぁ! って」
「騒ぐのはそこなんだ……でも、ホタルもお母さんは健在なんだろ? お母さんにだけでも連絡入れとけよ? 俺も両親には元気だと連絡は入れて置くから」
「でも……連絡つけちゃうと。逆に両親たちがいろいろと巻き込まれないですか?」
「そこは、あれだよ。くれぐれも連絡がつく事は秘密にしてもらって、もし、ばれたら、それはこっちからじゃ無くホタルや俺の両親サイドから漏れた話だから、自分で何とかして貰わないと。一つ間違いなく言えることは俺は一切両親に、カージノ大陸のことで便宜をはかったりはしない事くらいかな」
「やっぱりそうですよね。絶対訳の分からない色々な勢力が近づいてきますよね」
ショッピングセンターへ到着すると、俺はザックのジーンズとTシャツを三枚ほどと、ホタルがポーラ王女へは水色のワンピース。アインさんへはジーンズとTシャツを購入した。
とにかく目立つのはダメだから、SPっぽいような黒スーツにサングラスのパターンも考えてはみたけど、日本じゃ逆に不自然だからこのスタイルに落ち着いた。
ザックさんは身長180センチメートルほどの金髪碧眼で、細マッチョな体型だけど、平均的な日本人よりは大きいが、特別目立つ事は無いだろう。原宿や六本木を歩けばモデルのスカウトくらいはあるかも知れないが……
ポーラ王女は身長は百五十五センチメートルほどで高くはない。
髪の毛は綺麗な光沢のあるプラチナカラーだ。
目はブルーでぱっちりと大きく、長いまつ毛とのバランスも見事な黄金比を形成している。
日本の女優やアイドルと比べても、ポーラ王女ほどの美貌を持った子は見たことが無いな。
アインさんは女性にしては背が高くて、俺と同じ百七十五センチメートルほどだ。
ボディも凄くメリハリがあるし、その顔つきは凄い美人ではあるけど、隙の無さそうな雰囲気を出している。
「服はとりあえずこれでいいでしょう。あとから自分の気に入った服装に着替えさせればいいですしね」
「そうだな。で? 俺達はどうするんだ?」
「まずは、薬局です」
「なぜ薬局?」
「日本人ぽく見せないのが一番大事ですから、カラコンを使います。コンタクトを購入したら美容室で髪の毛を染めてもらいます。この際だから髪型も先輩がしそうにない感じにして下さい」
「俺、コンタクト入れたことないから、少し怖いな」
「今どき女子中学生でも入れてるんですから、少しは我慢してください」
「解ったよ。髪も染めたことなんか一度もないから、ドキドキする」
コンタクトを購入して美容院へ行くと待ち時間が三十分程あると言われたので、今のうちに実家への連絡を入れることにした。
スマホを取り出して電源を入れた瞬間に、大量の着信履歴が通知されてきた。
「ホタルも同じ状況か?」
とホタルに向かって声を掛けた瞬間に、また俺のスマホに着信を告げる音が鳴る。
「やばいな、これ、俺達が日本に居るのバレちまうぞ。すぐ、電源を落とそう」
「はい……」
「参ったな。公衆電話から掛けたほうが良さそうだな」
「先輩。そう言えば日本での買い物全部クレジットカードでしてますよね?」
「ああ、そうだが?」
「それもヤバくないですか? 国とか警察が所在を調べれば、すぐに先輩がカードで買い物してるのバレますよ?」
「どうしよう……」
「今は実家への連絡は諦めて、髪を染めたらすぐにカージノへ戻ろう」
無事に染髪を終えてショッピングセンターを出ると、駐車場へと向かった。
「あれだけ話題になっているとなれば、俺の家の駐車場に戻るのもヤバいよな」
「そうですね、無駄に騒がれたら今後動きにくいですし、ここにおいて行きましょうか?」
「いや、持って行こう」
そう言って俺は周囲に人が居ない事を確認すると、車ごとインベントリへと収納してしまった。
「本当にチート野郎ですね。先輩」
「便利だぞ? ホタルも聖女のスキルオーブ使えばいいのに?」
「それがあると……捕まったら解剖とかされそうですし、パスです。それこそ、王女に使わせたらどうですか? もし何かあっても自力で脱出とか出来そうでしょ?」
「ふむ。そうだな。戻ったら少し王女と話してみよう」
ショッピングセンターの駐車場から、直接転移を発動してカージノの王都へと戻って行った。
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