第25話 シリウス国王
俺はダニエルさんに声を掛けた。
「ダニエルさん。『ダービーキングダム』の安否はどうなっていましたか?」
「ああ。今は無事に横浜へ戻っているそうだ」
「良かったですね。みんな無事なんですか? クラーケンはどうなったんでしょう」
「こっちに戻って来た時に、すぐそばにシロナガスクジラが居て、食えない船より、食べれそうな鯨を追いかけて行ったそうだ」
「被害はなかったんですか?」
「ヘリが破壊されただけだそうだよ」
「それで、何か指示は受けたんですか」
「いや、まだ指示は受けていないが、世界中がこの大陸とのコンタクトを取ろうとするだろうし、病原菌や生態系の問題もあるから、勝手にこの大陸から移動すれば、俺達も拘束を受けるだろう」
「どうするべきですか?」
「そうだな、面倒に巻き込まれたくなければ俺達はただの難民としてこの世界で生活していただけだと言い切ってしまえば後はこの大陸の政府と、地球の各国の話になるだろう」
「それも一案ですね」
俺とダニエルさんの話を聞いていたアンドレ隊長がホタルに話しかける。
「ホタルはどうなんだ?」
「えっ? 何がですか」
「この国と地球の各国が対話をする為に一番必要なのはホタルの存在だろ? 俺達は精々挨拶に困らない程度の語学力しかないし、とてもじゃないが国同士の交渉の橋渡しなど出来ない。アズマは俺達にとっても秘密兵器になりそうだから表に出て欲しくないしホタルが表舞台に出て、この国と世界各国の橋渡しをする立場をしてもいいと言ってくれなければ、かなり混迷を極めることになる」
「そうなんですね……私……どうしよう」
「国に戻る決断は今一番してはならない決断だと思うな。絶対に国から拘束される。日本が拘束しなければ他の各国が必ず連れ去るだろう」
「ヤバいですね。先輩……なにかいい方法は無いんですか」
「この大陸から出なければ問題はないが、それだと色々不便だな。俺ちょっと王都へ行ってこの国の王様と話してみます。ダニエルさんとアンドレ隊長は、出来れば各国政府と関係が深くない支援者との連絡を取っていて貰えますか」
俺がそう伝えるとダニエルさんが返事をした。
「難しいミッションだな。とりあえずは俺が信用できるのは『ダービーキングダム』のジョンソン船長だ。いつでも連絡を取れるようにしておく」
アンドレ隊長も少し考えた後に、俺に提案してきた。
「さっきヘリが飛んで来ただろ? 航続距離を考えれば空母からの発進に間違いが無いと思う。この辺りだとアメリカの第七艦隊が出てきているはずだから、連絡を付けるべきだろうな」
「それでは、そっち関係はアンドレ隊長に任せていいですか? 必要なものは在りますか?」
「ああ。通話をするのに電池じゃバッテリーがすぐに、もたなくなる。アズマ。発電機と発電機用の燃料を調達して来てもらえないか?」
「解りました。それは何とかします」
俺はとりあえず日本の自宅に転移すると、自分の車で郊外のホームセンターへと向かった。
そこには大型ではないが、発電機が売っていたのを見たことがあったからだ。
十万円弱の値段で売っていたので一台購入してガソリン携行缶も十個ほど求めた。
でも十リットルほどのガソリンで七時間しか使えないんじゃ、少し面倒だな。
一応念のために乾電池も大量に購入して、ガソリン携行缶はスタンドで補充をしてアンドレ隊長に届けてから俺は王都へと向かった。
何処に行けばよいのかわからないので、女神神殿のスキル販売カウンターへ出向くと、王国の騎士のような人が待機していた。
俺の顔を見た販売カウンターの馬獣人の女の子が、ほっとしたような表情で騎士の人に俺を紹介する。
「王の申しつけでアズマ様が現れるのをここでお待ちしておりました。私は王国騎士団のザックと言います。すぐに王宮へと来ていただいてもよろしいでしょうか?」
「あー。うんそのつもりで来たし問題は無いよ。案内してくれ」
神殿のそばに停めてあった馬車へと乗せられると、五分ほどで王城へと到着した。
謁見の間のような物々しい部屋ではなく、応接室のような部屋へと案内された。
執務室なのかもしれない。
大きな机が正面にありその前に応接テーブルと高級そうなソファーが設置してある。
「アズマ待っていたぞ」
シリウス王がポーラ王女を連れて俺に声を掛ける。
「単刀直入に聞きますがシリウス陛下は、この地球で、どうされるおつもりですか?」
「うむ。今までもこのカージノ大陸は他の国との交易は重視していなかったし、環境の変化で農作物がとれなくなるなどの問題が起きない限りは他国との繋がりは求めておらぬ」
「陛下はオグリーヌから俺のことをどう伝えられていますか?」
「勇者アズマ、オグリーヌ様は我が祖先である上に女神様である。呼び捨ては困るな」
「やっぱりそうですか? オグリーヌは別に構わないと言ってくれたんですけど……」
「この国の国民は女神の恩恵であるスキルにより、生活を成り立たせているのも事実だから、呼び捨てにすればこの国では敵を作る事もあるぞ? アズマ。他国から来たと聞かされていたが、もしやアズマはこの星の人間なのか?」
「はい。俺はこの地球という星の島国『日本国』の人間です」
「なんと……それでは、アズマはこの星の人間としての立場で、余に口を聞くのか?」
「いえ。俺が日本人であることは確かですが、別に日本の利益などは考えて無いです。一般庶民ですから。かといってこの『カージノ王国』のために一生懸命頑張ろうとも思ってはいません」
「それはどういうことだ?」
「今までの俺であれば、何の力も持たなかったので、状況に流されて自分の意志で何かをしようとは思わなかったと思います。でも、女神オグリーヌから力を授かった今の俺は、地球の各国の言い分や、この国の言い分を聞いた上で、どうすれば一番争わないで済むのかを考えたいと思います」
「どちらの味方でもないという事か?」
「どちらの敵にもならずに済めばいいなとは思っています。シリウス陛下は今の状況をどう把握されているのかは知りませんが、現在の状況を俺が解っている範囲でお伝えします」
「うむ。頼む」
「まず、女神オグリーヌはカージノの存在していた星その物が月の墜落によって、向こう千年間もの間、生き物の住めない土地になる事を知りました。そしてカージノ大陸だけでも生き残らせるためにこの地球へ転移させる事を決めたのです」
「ご先祖様に感謝しなければならないな」
「この、地球への転移を行う為の実験として、俺の乗っていた客船がカージノのあった星へと転移させられ、俺と六人の仲間がカージノ大陸へ探索のためにおとずれいた間に、船は先に地球へと送り返されてしまったんです」
「なんと、アズマは勇者として召喚されたわけではなく、ただ巻き込まれただけなのか?」
「おそらくは、別に俺を呼んだわけではなく、偶然現れた七人の中から適当に力を持たせる人間を選んだのだと思います。それが、五十日ほど前の出来事です」
「では、アズマには六人の仲間がいるのか? その者どもも勿論この地球の人類なのであるな?」
「そうです。俺達は仕方なくな七人で生活を送りながら、地球への帰還方法を探していました。結果はオグリーヌによる大陸ごと、この地球に転移させるという、ある意味滅茶苦茶な解決方法で戻っては来れたんですが」
「なるほどのぅ。余はこのカージノと地球国家との争いなどというくだらないことに関わりたいとは思っておらぬのだが、その辺りはどうなのだ」
「この地球において、カージノの出現はとても大きな出来事です」
「そうであろうな」
「まず……良くない事として、カージノのような巨大な大陸が海上に現れたのですから、地球の海面が一メートルほど上昇してしまいました。これにより、地球上では砂浜の九割を失い、一部国家では完全な水没や部分的な水没をしています。その保証をカージノに求めてくると思います」
「ん? ちょっと待て。たったの一メートルの海面上昇はそんなに問題があるのか? カージノ大陸では満潮時と干潮時の標高差でも千メートルを超えていたのだぞ?」
「それは、潮の満ち引きが地球ではカージノと全く違うからです。カージノでは干満は二か月周期で訪れていた筈ですが、地球では一日に二回満潮と干潮を繰り返し、その海面の高さもこのカージノのあった星と比べれば大した事は無いのです」
「なんと、それでは我がカージノも海岸線を整備して、海洋国家となる事が可能なのか?」
「そうですね。シリウス陛下は地球の各国が賠償を求めてきた場合、どう対処されるつもりですか?」
「ふむ、まず聞いておこう。この星に国家は何か国あるのだ?」
「二百近かったはずです」
「人口はどうだ?」
「世界中で七十億人を超えていたと思います。しかし、魔法やスキルは存在しない世界ですので、単純に武器を持たずに戦うのなら、カージノの圧勝でしょうね。ただ、科学文明は発展していますので、武器で攻められると無傷とはいかないでしょう」
「そうか。賠償と言ったが何を求められると思う?」
「当然、土地でしょう。この大陸の一定部分を各国の賠償に当てるように求められると思いますよ?」
「それは、認める訳にはいかんな」
「でしょうね……」
「そうなると、無視をするのが一番か?」
「どうでしょう? 勝手にこの国に侵入しようとする国とか出てきそうですね」
「それも面倒だな。この世界では勝手に人の家に侵入するのは合法なのか?」
「まさか、そんな事は無いです」
「当然そうだろう。では、簡単だ。こちらからは各国に一切連絡は取らないし、勝手にこの国に侵入しようとしたものがあれば、捕まえて追い返す。結界が張ってある以上は侵入など出来ないからな」
「攻め込もうとした国に対してはどうされるのですか?」
「自衛手段は執り行う、攻めてくれば壊滅させる」
「今の段階ではそれしかないでしょうね。どうせ言葉も通じないですし」
そこまで話した時に、ポーラ王女が口を開いた。
「お父様? 私はこの星の文化を見て回りたいと思いますが、駄目でしょうか?」
「ポーラ、それはかなり危険があるのではないか?」
「勇者アズマは私を守って下さらないですか?」
いきなり話をふられて、俺は少し焦った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます