第19話 家を借りる

「先輩、早かったですね。どうでしたかレースは?」

「ああ。やはり発送予定時刻から予測を付けてゴール地点を見るのは無理があったな」


「そうなんですか、じゃぁ、レースでスキルを手に入れるのは諦めた感じですか? その割に、表情が明るいですね。まさか、フラワーちゃんとあんなことやらこんなことでもしてたんですか?」

「ホタル、そこから発想を切り替えろ……レースを見るのは無理だが、確実に勝ち馬娘がわかるレースがあるのを見つけたんだよ」


「凄いじゃないですか。どんな裏技ですか?」


 俺は、今日の出走表をテーブルに広げた。

 勿論馬娘の二人も、この場に居る。


「ホタル、レースの種類があるだろ」

「はい、日本の競馬と同じようにクラス分けされてますね」


「十一レースはなんて書いてある?」

「A級重賞競走 ギャンブリーカップ(G2)って書いてあります」


「ちょっとフローラに聞いてくれ。表彰式があるのはどんな競争かだ」


 ホタルに頼んで、フローラに尋ねると「毎日十一レースは重賞競走ですので、勝てば表彰式があります。表彰式は重賞競走だけです」


「ほらな、表彰式は五分間くらいかけて行われていた。その場に居る使徒は勝った一人だけだ。だから表彰式を【予知】すれば勝ち馬娘は簡単に見える」

「凄いですね、一日一レースでも倍々に増やしていけるなら、一か月も続けたら、物凄い数になりますね」


「だろ? 十日で千二十四個、二十日なら百四万八千五百七十六個。三十日なら十億七千三百七十四万千八百二十四個だ」

「凄すぎますー」


「それを踏まえてだ。フラワーとフローラに聞いてくれ」

「何をですか?」


「まず、スキルのレベルは上限があるのか? だ」

「レベル十まであるそうです」


「レベル上限に達した、スキルはどうなるんだ?」

「上位スキルに進化するそうです」


「その上位スキルのレベルはどうやってあげるんだ?」

「そこに達成した人がいないので、解らないそうです」


 恐らくだがスキルの種類は、俺やホタルの手に居れた特殊な物を除けば昨日スキルショップで見かけた二百種類ほどのスキルしか、存在しないのかもしれない。


 その上で先程の計算のようにスキルが手に入るなら、俺はまじで勇者にでもなれる可能性がある。


 これは明日からが楽しみだぞ。

 手に入れた、スキルを売る事はできないかを聞いてみたが、負けた人のスキルは回収されているので、もしかしたらできるのかもしれないけど、聞いた事が無いということだった。


「ホタルの方はどうだった?」

「いい家をみつけましたよ。貴族の別荘だった物件らしいんですけど、使徒の競争で破産して、売りに出されてるそうです。買えば二億ゴルといわれましたけど、それは無理なので賃貸の話をしたら一月五十万ゴルで借りれるそうです。二十部屋もあるし、お風呂もあるから、アンドレ隊長にも話して七人全員で出し合って借りるのはどうでしょうか?」


「そうだな。今の時点でバラバラに生活すると、不都合な点が多そうだし今日のディナーの時にでも話をしてみようか」


 その日のディナータイムに、全員揃う事ができたので先程の家の話を提案すると、みんな賛成してくれたので、翌日早速契約をして、引っ越すことになった。

 

 アンドレ隊長は今日早速、ミッシェルさんとカールさんとベーアさんを連れて、モンスターハンティングに出かけた話をしてくれた。


 ベーアさんが元々ハンターをしていたらくて、倒したモンスターの解体などで随分と役に立ってくれたそうだ。


 まだ言葉がうまく通じないので、狩りは三人で行い、それでも昨日の林の中でゴブリンとウルフを合わせて十匹ほど倒したそうだ。


 熊獣人のベーアさんは茶色いミディアムヘアに、ブラウンの瞳で見た目は女性だけど、がっしりしていて力強さを感じる。


 早速購入した荷馬車の馭者もそつなくこなしたみたいだ。


「ベーアさんはなんで奴隷になっちゃったんですか?」

「はい。私は、ハンターとして活動していたんですが、私が所属していたパーティーがダンジョンでの依頼に失敗して、四人のうち二人が亡くなり、もう一人も大けがを負ってしまって、その治療費や依頼失敗の違約金などで借金をしてしまって……それで仕方なくです」


「ベーアさんのランクは何なんですか?」

「私はFランクですね」


「スキルは?」

「奴隷落ちをする際にスキルは、神殿で取り上げられます」


「そうなんですね、得意な武器とかはあるんですか?」

「私はパーティでは、タワーシールドを使う壁役でしたので、攻撃より防御が得意です。武器は一応、槍を使っていました」


 その会話を聞いていたアンドレ隊長が「ベーアが壁役をこなせるならより安定したハンティングが行えそうだな。後は斥候が欲しい所だが、また奴隷商にでも行って人材を探すかな」と言っていた。


「全員がGランクに上がれば、ダンジョンに挑戦しようと思う。それまでは林での狩りが中心だ」


 その日はそれで解散となり、翌日は朝から全員で借りるお屋敷を見に行くことになった。

 俺もメインレースだけしか見ないから午後三時くらいに神殿に行けばいいので問題は無い。


 朝になり、全員で商業ギルドに向かいギルドの住宅部門の人に案内をしてもらう。

 ホタルは既にみているそうだが安くはない出費なので、全員が現地を確認してから借りることになった。


 貴族の別宅であっただけに、パーティが開けるように広いホールと庭もあり、キッチンも百人の招待客に対応できるような立派なものがあるので問題は無い。


 コンロや水道はどうなってるのか聞いてみたら、魔道具で賄っているそうだ。

 火の魔石と水の魔石を定期的に補充しなくてはいけないが、この規模の屋敷の光熱費だと思えば許容範囲な値段で手に入るそうだ。


 明かりは、光の魔石の照明もあるが、普段はロウソクを使うらしい。

 やはり魔法のある世界では便利であるがゆえに、文明の発展が遅れてしまうんだなと思った。

 現代世界なら、魔石から直接エネルギーを取り出して、発電するとかそういう発想になると思うしな。


 アダムさんが、広いキッチンを気に入り屋台で販売する予定の物の仕込みで使ってもいいかを、アンドレ隊長に確認を取っていたが、「キッチンと水道の魔石を負担するなら構わないよな?」と、俺達に確認を取って来たので了承した。


「アダムさんは。なんの屋台をやるんですか?」


 ホタルが、アダムさんに質問していた。


「ああ、商業ギルドに紹介して貰った屋台広場を見て回って、競合店が無かったから、ハンバーガーショップをやろうと思う。仕込みさえきちんとしておけば、対応はバイトでも出来るようになるしな」


「それ絶対はやりそうですね。あっというまにお金持ちになれるかもしれませんね」

「そうだな。収入が安定してくればレストランを始めてもいいんだが、それは、言葉が理解できるようになってからの話だ」


「ニャルちゃんが、一人で出来るようになるまで私も手伝いますね」

「そいつは助かる。軌道に乗るまでは、たいして給料出せないかもしれないが頼むな」


「学生時代にハンバーガーショップでバイトしてたから得意ですよ!」

「そいつは凄いな。『ダービーキングダム』に乗るようなお嬢様だから全然期待してなかったよ」


「私はアズマ先輩に連れて来てもらっただけですから、全然、お金持ちじゃなかったんです」

「そうなのか、まぁこの世界ではホタルの能力は重要だから、期待してるぞ」


「はい!」


 みんなこの物件を気に入ったので、早速契約することになった。

 部屋数も多いけど、当面は俺は仕事らしい仕事もする予定はないし、フラワーとフローラも居るから、部屋の維持も問題無いだろう。


 契約料には、家賃の三か月分が必要だったが、七人で分割すれば、都内のワンルームマンション程度の家賃だから格安だよな。

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