第12話 この国の常識
みんなの質問内容を、ホタルがヨーゼフさん夫妻に尋ねる。
最初はこの大陸と国の名前と街への入場方法だった。
「この大陸というかこの国は大陸全土で一つの国なんだよ、カージノ王国っていう国だよ。この先にある町の名前はギャンブリーの街だよ」
「この国の規模っていうか人口はどれくらいなんですか?」
「人口は、人族と亜人族を含めて一億人くらいだったかな。広い大陸だから、正確な数字とかは俺達の様な農民はよく知らないけどね。このギャンブリーの街は人口二十万人くらいで、この国でも結構大きな街だよ」
「ありがとうございます。街への入場方法を教えていただけますか?」
「街の住人以外がこの街に入るには、入場門で一人五千ゴルの入街税が課せられる。この街の商業ギルドが冒険者ギルドの発行した身分証があれば、無料だけどな」
「それでは、私たちでも入街を断られるっていうことはないんですね?」
「それは大丈夫だと思うけど……そのお揃いのなんかイカツイ格好だと、門の衛兵に色々聞かれて厄介な事になるかもしれないな」
「では先に私一人だけ街に行って、他の人用にこの街で過ごすのに違和感のない服を用意すれば大丈夫ですか?」
「その方がいいとは思うな」
「武器はどうなんですか?」
「剣や槍は冒険者の連中は普通に持っているから、問題無いと思うな」
その返事を聞いて、ホタルがアンドレ隊長に確認を取る。
「今の話の流れは理解出来ましたか?」
「ああ、無駄な詮索は防ぐべきだろうし、最初は言葉の通じるホタル一人ならヨーゼフさん一家と一緒に街に戻れば問題無いと思う。ただ、現時点ではカジノのゴールドコインは合ってもこの国の通貨は持っていないから、ヨーゼフさんに協力を仰がなきゃならないな」
「そうですね、ダニエルさん。ゴールドコインを一枚出して貰えますか」
ホタルに言われてダニエルがゴールドコインをホタルに渡す。
「ヨーゼフさん。これは金の純度が高いコインですが、このコインと先程の小金貨を交換して貰えませんか?」
「そんな大きな金貨初めて見たな。商業ギルドの両替所に持って行けばかなりの価値になると思うけど、いいのかい?」
「取り敢えず街に入るのにお金が必要ですし、色々質問させて頂くから、お礼もかねてです」
ホタルがそう伝えると、マルサさんも満面の笑顔で先程の小金貨とカジノコインの交換を了承してくれた。
「あんた。街に着いたらホタルさんを商業ギルドに案内して、ついでにそのコインを小金貨に替えてきておくれよ。金貨じゃ駄目だよ? お釣りを用意できる店が無いからね?」
「ああ、解った」
次の質問は、潮の満ち干きのことだ。
「この街は海辺から随分と内陸にありますけど理由はあるのですか? 私達の国の常識だと、海辺の方が便利がいいと思うのですが」
「あれ? ホタルの国は海が迫って来ないのかい?」
「えーとどういう事でしょう?」
「今日は丁度潮が中潮だからこの街から海まで五十キロメートルくらいになるが、大潮の日はこの街から三キロメートルの所まで海が近づくんだよ。その時に台風が重なったりすれば、街から一キロメートルの辺りまでは危険だから、街は内陸の高台にしか無いんだけど、ホタルの国は違うのかい?」
ホタルが同時通訳で、みんなに話の内容を教えてくれる。
やはり予想は正しかったようだ。
だとすれば小潮の時はどうなんだろう?
「潮が一番引くときは、どれくらいまで引くんですか?」
「八十キロメートルくらい先までは陸地になるな。小潮の時になると貝や蟹が取れるから、俺達のような農民もみんなで出かけて漁をするんだ」
「そうなんですね。ありがとうございます。とても参考になります」
この情報は大事だ。
『ダービーキングダム』が沈没したとしても現在の海岸線から二キロメートルほどの距離だ。
完全に露出することになる。
ホタルに今は大潮に向かっているのか小潮に向かってるのかを確認して貰うと、今は大潮に向かってるという事だった。十五日で大潮に到達して更に十五日で中潮、そこから十五日で小潮に到達するという事だ。
つまり六十日サイクルで、潮のサイクルは一周するという事だ。
今からだと三十二日後くらいには、『ダービーキングダム』が地表に現れることになる。
「潮が引いた時の砂浜は危険は少ないんですか?」
「魔獣は現れるんだが見通しが良いから、逃げやすいんだ」
「そうなんですね」
最後の質問は、俺達が取得したカードの事だ。
「このカードは何だかわかりますか?」
そう言ってホタルは魔物との戦いによって取得したカードをヨーゼフさんの前に出した。
「お告げカードだな。初めて魔物を倒したときに現れる女神様からのお告げと言われてるよ。その人のこれまでの行動で関連深いギフトが貰えることが多いって言われてるね」
「このカードのランクみたいな文字は、変わる事があるんですか?」
「魔物や魔獣を倒せば成長するよ、Hランクまでは百匹くらい倒せば上がるけど、そこから上は中々上がらないな。Cランク以上になるとハンターとしても一流と認められるし、仕官の話も出てくるからね」
「ハンターって言うのは? どんな人なんですか?」
「そのままだよ。モンスターを倒して素材を集める人たちだね」
「そうなんですね。モンスター素材は売れるっていう事ですか?」
「勿論だ。骨や皮も武器や防具の素材になるし、魔石も魔道具の魔力供給元として使えるから。命の危険はあるけど、稼ぎも大きい商売だ」
「スキルは育てたり、増やしたり出来るんですか?」
「出来るよ。ダンジョンで宝箱から出てくる事があって、それを女神神殿に持って行けば自分のお告げカードに合成してくれるんだ。買取もしてくれるんだけどスキルの内容次第ではかなり高額で買ってもらえる」
「スキルの値段ってどれくらいするんですか?」
「安くても二百万ゴルくらいはするね。魔法や錬金のスキルだと一億ゴルを超えるから普通に購入できる人は少ないよ」
「そ、そうなんですか」
「お金が無くてもチャンスはあるんだけどね、お薦めはできないけど」
「それはどんな方法なんですか?」
「ギャンブルだよ」
「そのギャンブルの内容って解りますか?」
俺は思わず日本語で聞いてみた。
当然通じるわけもなく、ホタルがすぐに聞き直してくれた。
「ああ、興味があるのかい? 自分のスキルを代償にして女神の神殿で行われている、女神の使徒による競争を当てるんだよ」
「女神様ってどんな方なんですか?」
「女神オグリーヌ様はスキルを司る半人半馬の姿をした方で、その使徒とされるのは馬獣人の十五歳から十八歳までの女の子達だよ」
馬獣人の女の子による競争って……なんか日本で似たようなゲームが流行ってたような気がするな……
「その競争を当てるとスキルが手に入るんですね?」
「そうだけど、ほとんどの人が逆に自分のスキルを失う結果になるみたいだし止めといた方がいいと思うよ?」
俺は何となくだけど、女神神殿の競争は勝てるような気がした。
「解りました。色々と教えていただいてありがとうございます」
一通りの質問を終えて、いよいよ実際に街へと向かう事にした。
ダニエルさんが、換金用にカジノコインを十枚ほどホタルに預けると、ホタルはジーパンとTシャツに着替え、バックパックを背負ってヨーゼフさん家族と共に出かけて行った。
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