第17話 囚われの女性を助ける

 ブラック盗賊団を撃破した。

 捕縛したボスや団員たちの見張りを村の若者たちに任せて、俺はアジトの奥に向かう。

 捕らわれているはずの行商人一家を探すためだ。

 奥に進むに連れて、異臭がするようになってきた。


「こ、これは……」


 2人の女性が全裸に剥かれて、横たわっている。

 全身が男たちのあれによって汚されている。

 盗賊たちに輪姦されたのだろう。


 年齢は30代と10代くらいか。

 盗賊たちが話していた内容から推測すると、おそらくは親子だと思われる。


 少し離れたところには、1人の男性が横たわっている。

 こちらは服を着ている。


 ただし、体のあちこちが傷だらけだ。

 顔も腫れている。

 盗賊たちに暴力を受けたのだろう。


 彼らは3人ともぐったりとしていて動かない。

 しかし、どうやら息はあるようだ。

 俺はまず、10代の女性を起こすことにする。


「おい。しっかりしろ。助けにきたぞ」

「……ん、んん……」


 女性が意識を取り戻す。

 こちらを認識する。


「目が覚めたか」

「ひっ! いやあああ! だれかっ、助けて!」


 女性はそう言って、暴れまわる。


「いや、俺は助けに来たんだが……」

「ち、近寄らないで! だれか、だれかーー!」


 女性はなおも暴れまわる。

 ペチッ。

 ムチャクチャに振り回された手が、俺にヒットする。


 ううむ。

 パニックで、俺も盗賊団の一員にでも思われているのだろうか。

 確かに、俺の顔は爽やかなイケメンというよりは、荒々しい戦士といったタイプではあるが。


 落ち着くまで待とうか。

 しかし、村の男たちが待っているしな。

 それに、この女性の両親の介抱も必要だ。

 少し強引にでも、まずは落ち着かせないと。

 俺は女性の腕を掴み、押さえる。


「落ち着け。盗賊たちなら捕縛した。俺は君たちを助けにきたんだ」


 できるだけ優しい顔をつくって、そう微笑みかける。


「……え? 助けに……。ほ、本当なの……?」


 女性の腕の力が緩む。

 目を見開き、驚いている様子だ。


「ああ。本当だとも。無事で何よりだ」

「あ、ありがとうございます。勘違いして暴れて、ごめんなさい」


 女性がそう言って、頭を下げる。

 少し落ち着いてきたようだな。


「いいさ。混乱するのも当然だ。それよりも、君の両親を起こすのを手伝ってくれるか?」

「わ、わかりました」


 女性がそう了承する。

 そして、女性の両親を起こした。

 混乱している様子ではあったが、命に別条はないようだ。

 盗賊たちに汚された体を清めて支度をしつつ、少し話をする。


 彼女たちは行商人一家として、各地を巡っていたそうだ。

 そして、運悪く盗賊たちに襲われてしまった。

 娘の名前はエミリーである。


「さあ。身支度ができたのであれば、さっそくこのアジトから出ることにしよう」


 俺は彼女たちにそう声をかける。


「わかりました。しかし、私どもには行くあてがありません。馬や高額物品は、既に処分されてしまったようですし……」


 エミリーの父がそう言う。


「少し歩いたところに村がある。まずはそこに案内しよう。村の若者たちを、このアジトの中ほどで待たせてある。きっと迎え入れてくれるはずだ」


 俺はそう言う。

 お人好しの村というわけではないが、閉鎖的な村というわけでもない。

 行くあてのない行商人一家を一時的に迎え入れる程度であれば、してもらえると思う。


 多少難色を示されても、俺が一声かければ渋々でも受け入れてくれるだろう。

 迷惑をかけるのは俺の本意ではないので、それは最後の手段ではあるが。


 エミリー、それに彼女の両親を連れて、アジトの出口方向へと戻り始める。

 盗賊たちを捕縛している地点にまで戻ってきた。

 村の若者の1人がこちらに気づき、声を挙げる。


「リキヤの兄貴! その人たちはいったい?」

「ああ、盗賊たちに捕まっていた行商人の人たちだ。馬車や高額な物品を奪われ、行くあてがないそうだ。しばらく、村で迎え入れてもらえないだろうか?」


 俺はそう言う。


「リキヤの兄貴がそうおっしゃるのであれば、問題ありやせんぜ!」

「バカ! お前の一存で決めることじゃねえだろうが!」

「でも、村長だってリキヤの兄貴の頼みなら無下にはしないと思うぜ」

「まあ、行き倒れの人をしばらく受け入れたこともあるし、今回もだいじょうぶなんじゃないか?」


 村の若者たちが口々にそう言う。

 おそらくは受け入れてもらえそうだな。

 最終決定権は村長にあるようだが、前例もあるようだし問題ないだろう。


「よし。では、みんなで戻ることにしよう」


 俺はそう言う。

 そして、エミリーや彼女の両親、村の若者、捕縛したブラック盗賊団の面々を連れて村への道を進み始めた。

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