第6話 畑仕事の手伝い
薪割りをした翌日になった。
フィーナと朝食を終えたところだ。
「さて、今日は何をしようか。フィーナ、何かあるか?」
「ええと、そうですね……。もしよろしければ、お父さんの畑仕事を手伝っていただけると助かります」
畑仕事か。
この村は、作物の栽培や狩りで成り立っている村のようだ。
「わかった。ダインさんは、もう作業を始めているのか?」
「そうですね。少し前に、出ていっています」
フィーナがそう言う。
さっそく、彼女とともに畑に向かう。
しばらく歩き、畑が並ぶ区画に着いた。
村の外れの一区画が畑になっているようだ。
獣対策に、ちょっとした柵が設けられている。
「このあたりが父の畑です」
「なるほど。なかなかの広さだな」
縦横20メートルぐらいの畑だ。
これぐらいあれば、親子3人の食料はなんとかなるか。
狩りで得られる獣肉や、自然から採取できる果実などもあるだろうしな。
そんなことを考えつつ、俺とフィーナは畑に踏み入る。
ダインがこちらに気づく。
「おお、リキヤ君。どうしてここに?」
「フィーナに頼まれてな。畑仕事を手伝わせてくれ。飯の恩もあるしな」
「それは気にしなくてもいいのだが……。リキヤ君には、フィーナを盗賊から守ってくれた恩がある。それに、数日後にはブラック盗賊団の討伐作戦にも参加してくれると聞いているぞ」
ダインがそう言う。
「そう言ってもらえると助かる。だが、じっとしているのもヒマなのでな」
「わかった。正直、助かるよ。妻が病床で人手不足なんだ」
そう言えば、俺は彼の妻にはまだ会っていない。
病床に伏しているのだ。
フィーナが遠出していた理由も、母親のために薬草を採るためだった。
「任せてくれ。それで、具体的には何をすればいい?」
「そうだな。あのあたりは、ちょうど作物の入れ替え時期なんだ。畑を耕して、土を柔らかくしておきたい。頼めるか?」
「わかった。さっそくいくぞ! うおおおおぉっ!」
俺は指示されたあたりの畑を耕し始める。
「か、かなりの力だな。固い土もあったのに、あっという間に……」
「すごいです……。リキヤさん」
2人が感心したような表情でこちらを見ている。
しばらくして、指示された畑のちょうど半分くらいを耕し終えた。
「さて、次はこのあたりの畑を……。ん?」
ふと、柵の一部が壊れていることに気がついた。
一応、応急処置のようなものはされている。
「ああ、それはビッグボアにやられたんだ。やつは、この程度の柵は平気で破壊して突破しやがる。作物にも被害が出るし、厄介な魔物だよ」
「ビッグボア?」
もちろん、聞き覚えのない獣の名前だ。
獣ではなく、魔物らしいが。
「大きなイノシシ型の魔物さ。巨体から繰り出される体当たりをまともに受けたら、命はない。危険なやつだ」
ダインがそう説明する。
ビッグなボアか。
ビッグは大きいという意味。
ボアは、イノシシという意味である。
この不可思議な世界では、一部英語の名前が用いられているようだな。
「巨大なイノシシか。……ひょっとすると、ちょうどあれぐらいか?」
俺は柵の外を見る。
大きなイノシシが、こちらを見据えている。
「ビ、ビッグボアだ……! マズいな。刺激しないように、村に帰ろう」
「そ、そうだね。お父さん」
ダインとフィーナが、やや小さな声でそう言う。
「放っておくのか? あの柵は突破されてしまうのだろう? 畑の作物が荒らされてしまうのではないか?」
「仕方ないですよ。下手に戦って、大ケガをしては元も子もありません。最悪は死んでしまうかもしれませんし」
フィーナがそう言う。
そういうことか。
彼女たちからすれば、あのビッグボアとやらは相当な脅威なのだろう。
「俺に任せてくれないか? イノシシなどに遅れは取らん」
「リキヤさん!? 危ないですよ。確かに、リキヤさんは相当お強いですが……」
フィーナが心配そうな顔でそう言う。
彼女には俺とブラック盗賊団の戦闘を見せていたはずだが、まだ強さを信頼してもらえてないようだ。
まあ、対人と対獣の戦闘はまた異なるしな。
ある程度は仕方ないか。
「見ていてくれ。いざとなれば、見捨ててくれて構わん」
俺は力強くそう言う。
ビッグボアに向かって一歩踏み出す。
やつは、今にも柵に向かって突進してきそうだ。
「……わかった。リキヤ君を信じよう。俺も見届ける。フィーナは村に戻れ」
「ううん。私も見届けるわ。リキヤさんを信じてるから」
ダインとフィーナがそう言う。
観戦者が2人か。
もっと強敵が相手なら、危ないから離れていてくれと言うところだが。
たかがイノシシ程度であれば、その必要もないか。
サクッと倒してしまおう。
昨日の薪割りと、今日の畑仕事。
やや刺激が少なくて物足りないと思っていたのだ。
適度な運動の相手として、ちょうどいいだろう。
少し楽しみだ。
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