第5話 薪割り

 賊どもの件を村長に報告した。

 このあたりで有名なブラック盗賊団とやらの構成員だったらしい。


 俺が1人で盗賊団を一掃してやろうと提案したが、制止されてしまった。

 何やら村の者に参加者を募集するらしい。

 数日間は待ってくれとのことだ。


 その間は、フィーナの家に泊めてもらうことになった。

 もちろん、父親のダインや母親も同居しているので、変なことはできないが。


 数日後まで、俺は特にすることがない。

 村長、ダイン、フィーナあたりからは、客人なのでゆっくりしていてくれと言われた。

 しかし、どうにもゆっくりしているだけというのは性に合わん。


「何かやることがないか探すか……。力仕事か、狩りあたりをしたい。何もなければ鍛錬でもするか」


 俺は与えられた部屋を出る。

 家を出たところ、すぐにフィーナが目に入った。

 彼女が斧を振りかぶり、木片に振り下ろす。


「せいっ! はあ、はあ……。ふう」


 彼女が振り下ろした斧により、木片が割れる。

 薪割りをしているようだ。


「フィーナ。薪割りか? 大変そうだな。俺にやらせてくれ」


 彼女の傍らには、まだまだたくさんの薪が残っている。

 これを全部やるとなると、なかなかの労働だろう。


「リキヤさん。いえいえ、だいじょうぶですよ。これでも、毎日やっていることですので」


 フィーナがそう言って断る。

 確かに、少し疲れた様子はあるものの、疲労困憊というほどでもなさそうだ。

 腕も、よく見るとなかなかの筋肉が付いている。


「遠慮するな。ほら」

「あっ。で、では、少しだけお願いします」


 俺が少し強引に迫ったところ、フィーナが渋々そうにそう言った。


「よし。フィーナは下がっていてくれ」


 彼女が退避したのを確認して、俺は斧を振りかぶる。

 俺は、薪割りの経験はある。

 鍛錬の1つとして、取り組んだことがあるのだ。

 

 薪割りは、手加減が難しい。

 俺が全力を出せば、大抵の武器はすぐに壊れてしまう。

 この斧は借り物だし、特に注意しないと。

 そんなことを考えつつ、斧を薪に振り下ろす。


「ふんっ!」


 ガコーン!

 無事に、薪はきれいに割れた。


「す、すごい……! そんなに軽々と」


 フィーナが驚いた顔でそう言う。


「そうか? これぐらい、男ならだれでもできるだろう」

「い、いえ。お父さんも、村の若い人たちでも、そこまで軽々とはできないと思います」


 ふむ。

 この村の男たちは、さほど鍛えられていないようだな。

 俺のライバルとなってくれそうな強者は、残念ながらいなさそうか。


「この程度であれば、いくらでもさせてくれ。そこに置いてある薪は、全部割っていけばいいんだな?」

「い、いえ。ここに置いてある薪は、これから数週間分の薪です。毎日必要な分を割っています」


 フィーナがそう言う。


「そうか。割りすぎたら問題あるのか?」

「いえ、そういうわけではありませんが……」

「ならいい。俺に任せておけ」


 タダ飯食らいも悪いしな。

 適度な運動にもなる。

 

「ふんっ!」

「せえぃっ!」

「はあっ!」


 俺はどんどん薪割りを進めていく。

 時おり、フィーナと交代したり、食事休憩をしたりもした。


 そして、数時間後。


「す、すごい……。あれだけあった薪が、今日だけで全て割れるなんて。リキヤさんの力はとんでもないです!」

「フィーナもがんばったじゃないか。2人の成果だよ」

「いえ。私なんて、リキヤさんとは比べ物にならないぐらいの量しか割っていませんよ」


 確かに、ほとんど俺がやったか。

 まあ、薪割りぐらいで功を誇るつもりはない。


「泊めてもらっているお礼だな。また明日も、別の仕事があれば言ってくれ。力仕事や荒ごとなら任せろ」


 薪割りのような力仕事は、鍛錬にも繋がる。

 できれば強者との戦いを経験したいところだが、それは数日後までお預けだ。

 それまで、こういった力仕事などを行っていくことにしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る