第94話 シカクいりますか

 部活終わりの女子高校生たちは、互いに近付きそれぞれの影を踏みしめるように歩を進めながら、世間話に花を咲かせていた。


「それでねー、さっきの二次元コードの話なんだけど、これって私の従姉の彼氏の友達の先輩の話なんだって。誘導尋問されるわ個人情報みたいなのを聞き出されるわで散々な目に遭ったみたいだよ」

「こわーい。でもそれって他人の話って事だよね」

「確かに、そんなんだとスマホとかも怖いよね」


 笑いさざめき合っていた高校生たちが、ふと足を止めた。電柱にビラが貼りつけられているのを発見したためだ。「シカクいりますか」――ゴシック体の文字の下に、電話番号が記されている。ただそれだけの、至ってシンプルな物である。

 シンプルでありながら、言いようのない吸引力のようなものを伴っている。明らかに奇妙なビラだったのだが、その事に気付く者はいない。

 そうしているうちに、一人がビラを撮影していた。


「え、何しているのー?」

「後で電話してみようかなって思ってね。シカクって資格の事だろうからさ」

「あー確かに。うちらだって資格があった方が何かと有利だもんねぇ。相談するだけでも良いかなって思うんだ」


 かくして、三人のうち二人がこのビラを撮影したのだった。


 それから彼女らが、件のビラに電話を入れたのか、電話を入れたのならばどのような内容だったのかは明らかではない。少なくともこの近辺では、一人の女子高校生が行方不明となり、別の女子高校生は視界の一部が欠損するという症状を訴えた。

 シカクは資格だけではなく、刺客や死角という意味合いもあるではないか。あの時ビラを目撃した女子高校生は、その事に気付き震えるばかりだった。

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