第19話 あたりクジ

 世間ではツイている人がどうという文言があるが、富山さんほどツイている人はこの世にはいないだろう。彼女の運の良さというか、珍しいクジを引き当てる能力はそんじょそこらの運の良い人とはくらべものにならないものなのだ。

 何しろ、用意されていないクジを、彼女は必ず引き当ててしまうのだから。


 その奇妙な能力に富山さんが気付いたのは小学生の頃だそうだ。子供会の福引という、他愛のない、ほのぼのとした会場で事件は起きたのである。

 子供たちは大人の用意したクジを引き、そこに記された番号に対応する景品をもらうという、実に単純明快なルールのものだった。当時景品はたくさんあったらしいが、集まった子供の数を考慮しても、百も、いや五十もあったかどうかという所だったらしい。

 富山さんはその時たまたま最後にクジを引く事となったのだけれど、その時に引き当てたのが「六六六番」のクジだったのだ。いたいけな童女だった富山さんは獣の数字などを知る由もない。しかし尋常ではない状況である事は、うろたえる大人たちを見て悟ってしまったのだ。

 結局不吉な文字が記されたクジは破棄され、富山さんは残っていた景品の中でも最も良いものを得る事となったのである。


 それ以降も、当たりの中に入っていないあたりクジを富山さんは引き続ける事となった。ガラポンを行えば、出てきた珠が真珠であったなどと言う椿事も、彼女を驚かせるには値しないような出来事なのだというから大変な話である。

 とはいえ、大きくなるにしたがって富山さんはクジや福引に極力参加しないようになっていた。「自分だけ変なものを引き当てるのはやはり怖いもの」というのが彼女の言である。

 今回、彼女に頼み込んでおみくじを引いてもらった。大吉を引き当てたのかと思ってよく見れば、吉だったのだ。 

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