第4話 不思議な種子

「さぁさぁ皆さん、こちらはここでしか手に入らない珍しいタネだよ」


 小学校の通学路。一人の女性がちいさな露店を開き種を売っていた。黒っぽいローブに身を包み、山羊か羊の角を想起させる髪留めが短い巻き毛の上で揺れている。

 その彼女が売っているのは、宣言通り種子であるらしかった。小豆程度の大きさであるが、やけに透き通った色合いで、淡い緑や黄緑、水色に見える物さえあるくらいだ。


「良い子たち。このタネは埋めた所にあるものをそっくりそのまま作り出すような面白い習性があるんだよ。今なら一粒五十円だからね」


 お姉さんのセリフと種の値段に惹かれ、子供たちはこぞってこの種を購入したのだった。或いはもしかすると、植える植えない以前に、ちょっとした宝石に見える種そのものに興味を抱いたというだけの子供もいるかもしれない。



 お姉さんの言葉通り、あちこちの庭や植木鉢に植えられた種は面白い成長を遂げた。遊び半分で消しゴムを埋めた子供の植木鉢では、オリジナルの消しゴムよりも二回り程度小さい消しゴムたちが出現した。

「金のなる木」が発生する事は無かった。お金を殖やそうと企んだ子供もいるにはいたが、種子の作るお金は現物よりも小さく、それこそおままごとやおもちゃに使うほかなかったのだから。


 その一方で、庭に埋めたという子供たちの場合だと、庭先にハムスターやウサギや小鳥などの動物のミニチュアが地面の上に鎮座しているのを見たそうだ。見つかった小動物たちはあるじである子供らに簡単に捕まり、水槽なり鳥籠なりに収められた。

 庭に唐突に出現した小動物たちは大人しく、また面倒を見る手間も特になかった。彼らは餌を必要とせず、水と陽光だけで事足りたのだから。ある意味植物的だった。


 お姉さんが種を売っていた日から半月ばかり経ったある日、通学路の外れにある廃屋の敷地内に、ぼんやりとした人影がいくつも出現しているという噂が立ち上った。

 不審者に違いないという事で警察が動いたのは当然の流れだった。廃屋の敷地でも不当に誰かが陣取っているのであれば法に触れるからだ。それにもとより、この廃屋の近辺ではきな臭い噂がプンプンと漂っていた。

 結果としては警察は不審者を捕まえる事は無かった。そのかわり、警察はいくつもの人骨が埋まっているのを発見した。それはそれで大事件である。


 後に判明した事は二つである。一つは、廃屋に件の種をまいた悪童たちがいたという話だ。そしてもう一つ。植物の中には、土中に埋まっている生き物の姿を写し取る珍種が存在するという事である。

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