神様たちの便利屋さん~チート? いいえ、努力です!~
歪裂砥石
序章・Halo World
プロローグ
――世界の数は一つとは限らない
――世界の危機もまた一つとは限らない
そこは、白の一言で言い表せるほどに、なんとも白かった。
上下左右、前を向いても後ろを向いても、三百六十度どころか七百二十度に至るまで。見渡す限り見渡せる限り見渡すほどに、汚れ一つ染み一つ穢れ一つない、白一色で白一色しかない真っ白な空間だった。
しかしながら『空間』と簡潔に簡素に分かりやすく表現したのだが、実のところこの表現をこの場所に対して使うにはいささか不適格と言えなくもない。不適格であり不適当な言葉だろう。
なにせ、この『空間』と言う言葉の中には「限りなく広がる場所」と言う意味が含まれている。
少々分かりづらいものの、よくよく目を凝らして見ればごくごく普通に天井もあれば壁もある、多少なりと広めで常識の範囲程度しか拡がっていないこの部屋に当てはまる言葉だとは言えないからだ。
そう、当てはまるとは言えないのだが、冒頭でしつこいくらいに言った通りこの部屋の中は見渡す限り見渡せる限り白一色である。
目も眩むような、目眩がしてきそうな白一色である。
そのためなのか、それとも他の要因があるのか。
部屋の中は非常に明るく、影がほとんど見当たらない。それこそ、影も形もないほどに明るい状態だ。
故にどうにも距離感が掴みづらくひどく曖昧で、ふと気を抜いてしまえばどこまでも部屋が広がっているように錯覚してしまうため、何を置いても空間と言う表現がしっくり来てしまうような場所であり部屋である。
五分も居れば目が痛くなりそうなこの白い部屋の中心に、二つの人影があった。
一つは眼鏡をかけ黒い作務衣を着た、服装以外は全体的に比較的でどこにでもいそうな大学生くらいの青年である。ついさっき起きたのかと思うほどに髪が四方八方へ跳ねており、水程度で整えたとしてもすぐに元に戻ってしまいそうなほどだ。
そしてもう一つは、小学生から中学生くらいの小柄な少女だった。
この部屋と同じ白一色のドレスを身に纏い、自身の身長ほどもある緑色の綺麗な髪が印象的な少女である。
少女は今現在、現在進行形で青年に正面から顔面を鷲掴みにされ、青年の目線の高さまで持ち上げられていた。
一目で理解できるほどにガッチリと強固に生半可なことでは外せないほどの力で頭を掴まれ、身長差によって地面から遠く離れた足と髪先は柱時計の振り子のようにぶらぶらと左右に揺れている。
この光景を第三者が目撃すれば、いや第三者がいなくても傍から見る者がいなくても観測者が存在しなくとも、完全に確実に確定的に犯罪臭が満載の光景だとしか言えないだろう。むしろ、犯罪臭しかない光景だ。現行犯ではなくとも職質される。いや、やはり現行犯逮捕されそうだ。
だがしかし、青年はそんなことは知ったことかと思っているのか顔に満面の笑みを張り付けており、その笑顔を威嚇するかのように少女へと向けていた。
青年が浮かべているその笑顔。
それは太陽のようなひまわりのような満面の満開の笑顔──ドス黒く誇らしげに煌めく真昼の太陽のような満面の笑顔であり、胸を張ってドス黒く染まった満開のひまわりのような本当に『いい』笑顔であった。
端的にそう表現するのがふさわしく、なんとも背筋がゾッとするほどの『いい』笑顔である。
目撃した誰もが背筋の凍るであろう笑顔を浮かべている青年だが、何か切っ掛けがあったのか唐突にその表情を一変させた。
笑顔から、一目で分かるほどの怒りの表情へと反転させた。
鬼の形相──とまでは言わないまでも、額に青筋が立つほどの怒りの表情を浮かべた青年はそうして表情を変化させた瞬間、
「いっぺん死ねや! この駄女神様よぉ!」
と、感情に感情を上乗せし、魂の底から心の底から腹の底から絞り出し捻り出し生み出した大きな叫びを目の前の少女へと言い放った。
青年が吐き出したその叫び声は、世界中に響き渡りそうなほどに大きな声である。
至近距離でこの声を聴いてしまえば、鼓膜が破けるどころかショック死してもおかしくはないほどだ。
これだけでも少女に対して何らかの罰になるのだろうが、青年はそれだけで終わらせる気が最初からなかったらしく、叫ぶと同時に少女の頭を掴んでいる腕にこれでもかと力を込めた。
一瞬にして青年の腕や指、手の甲などに血管が浮かび上がり、かなりの力を一気に瞬間的に腕へ込めたことがうかがい知れる。
かなりの力、と言ってもそれがどれほどまでの力であるかなんてことは、傍から見ているだけでは分からない。ただそれでも、手のひらに収まる程度の石ならばあっさりと砕いてしまいそうなほどの威力がありそうだと直感的に分かるくらいには強い力である。
「ぎにゃぁぁぁ! 痛い痛い痛い! 割れる! 潰れる! 飛び出る! ひしゃげる! 下して! 離して! やめて! ほんと謝るからさぁぁぁ! ほんとに悪かったですって! ごめんなさいってばぁぁぁぁぁ!」
それ故に当然のことながら、顔面を掴まれた少女の口からは喉が枯れそうなほど非常に大きな悲鳴が上がった。青年が口にした魂の叫びに匹敵するほどの大きさである。
それは痛みを訴える強い悲鳴であり、謝罪を口にする悲鳴だ。
そして、どうにか許しを請うための悲鳴。
万力のような力で頭を、頭蓋骨を締め付けられている少女は、そんな悲鳴を叫び続けながらじたばたと必死にもがく。
今すぐ逃げ出そうと足をばたつかせ、頭を掴んでいる青年の腕を剥がそうと両手で必死にもがくも、青年の腕はまったくびくともしない。
まるで、金属と金属を接合したかのように。
それでも少女は諦めることなくどうにか逃れようと必死に懇願を口にし続け、注射を嫌がる子供のように暴れ続ける。
「ハハハ、ゆ る さ ん」
だが青年は少女を許さない。
許さなくて、許さない。
怒りの表情から楽しそうな笑顔へと変わっても、みじんも許す気配が無い。皆無だと言っていいだろう。
もがきながら少女が口にする懇願の悲鳴を、青年はその目がまったく笑っていない笑顔で当然のように却下する。
却下して、却下する。
おそらく、などと言うことなくこの少女は、この青年がここまでこれほどまで怒ることをやらかしたのだろう。
そう、それは、こんな風に──
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