檸檬あおいの津々浦々カフェめぐり

檸檬あおい

第1話 中煎りコーヒーとベイクドチーズケーキ

 ある古墳を有名にしたいという想いから名付けられた「古墳カフェ」

 初めて行くお店だ。



 テナントがいくつか入る建物の二階にあり、階段には「マスク着用の上ご入店ください」「1組2名様まで」など注意事項の記されたミニ看板が立っている。

 二階まで上がってドアを開けると目の前にレジやメニューなどのカウンター、横に進むと席が並ぶ。



 店員が見当たらないので、とりあえずカウンター前で待つと、


 ドンドンドンッ

 ガタッ

 ゴッ


 調理中の音か、どのような作業をしたらこんな音が。




「すみません、少々お待ちください!!」


 奥からおじさんが顔を出した。

 おじさんの雰囲気からして、恐らくこの店は彼が一人で営業していて、今は手を離せない何かの調理中なのだろう。


 元から、眼前のメニュー表を一見した時点で、決めるのに時間かかりそうだと思ったところだ。

 注文と支払いをしてからテーブルに座る形式のようだ。


 ドンドンドンッ

 ガッッガッ

 ゴンッ

 ドッドッ


 だから何をしてるんだ。


 ともかく、店長が戻る前に、早く注文するものを決めなくてはと思う。

 コーヒーが推しの店かと想定してたのだが、ハーブティーも種類を揃えている。

 エディブルフラワー、カモミール、リラックスブレンド……


 食べ物は、桜餡などお洒落なトースト類が主に揃えてある。

 ずんだトーストってなんだ。期間限定なのか。気になる


 しかし、今日は既にお腹を満たしてきた。

 もっと軽くいきたいんだ。



 お、店自慢のエスプレッソを使ったアフォガードがある。

 これならそこまで重くないだろう、決まりだ。


 飲み物は、やはり初手はコーヒーにしよう。

 するとこの二つか。


 コロンビアかペルーとその他たち。

 個人的には酸味の少ない深煎りが好きだが、この店は珍しく全て中煎りだ。

 それが売りなのかもしれない。


 コロンビアはトロピカルな味、ペルーはオレンジに近い味。

 じゃあペルーにしよう。



「お待たせしました! ご注文お伺いします」

「コーヒーのペルーと、」


「あっ、

 ペルーは今売り切れてしまって…」

 なんと。


「じゃあコロンビアと、」

「はい!ありがとうございます」


「アフォガードを」

「あっっ、あー……うーーん……あああ……」


 なんだ。

 絵に描いたかのように腕を組んで苦しみ始めたぞおじさん


「あ、こだわりないので他のでも大丈夫ですよ、」

「いや、すみません、アフォガードのエスプレッソがペルーで……」


 理解。

 情状酌量の余地ありだ。


「じゃあチーズケーキで」

 チーズケーキも好物なのだ。


「ありがとうございます。

 では、お会計は400円です」

 待て。


「400円だとたぶんチーズケーキだけ…??」

「間違えました!そうですね!

 850円です」


 隠れ家のような有名店だが、平日の中途半端な時間だからか、私以外の客は誰もいない。


 壁の一面は全面ガラス張りになっており、外に向けてカウンター席となっている。

 外の青々とした緑が美しく、食べ物と合わせた写真映えも良さそうだ。


 セルフの水をグラスに注いで、外を眺めながら待つ。

 壁側は下までガラスなので、足癖が悪いと、眼下を通る人にバレてしまうだろう。



「お待たせしました」

「ありがとうございます」


 おお、綺麗だ。

 私の前に木のトレーごと運ばれたコーヒーとチーズケーキを見て思う。


 ころんと少し丸みを帯びたコーヒーカップには淹れたてのコーヒーの水面が揺らめき、

 真っ白の大きめ平皿には、洒落を気取らない、どっしり安定したベイクドチーズケーキが安置されており、余白部分に点々とラズベリージャムが落とされている。

 ふんわりふるわれた粉糖と、添えられたハーブのチャービルが爽やかだ。


 それらが、暖かみのある木のトレー上に並べられている。


 まずはコーヒーから。

 猫舌なので、恐る恐る一口。


 すっぱい。


 そうだ、中煎りだった。

 鮮烈な酸。

 日頃飲まないから、すっかり忘れていた。


 この店は、フルーティーでクリアな味わいのコーヒーをテーマにしているとつい先程読んだ公式HPで自己紹介していた。

 なるほど、これはいつも飲まないコーヒーだ。


 スッキリとして透明な酸味のあるクリアなホットコーヒー。

 新しい味わいだ。


 これはまったりどっしりしたチーズケーキとさぞマッチングするだろう。

 お次はと、ベイクドチーズケーキを鋭角の部分というか、先の方からフォークでさっくり切り、ぱくりと賞味。


 あ、美味しい。

 想像よりもっと美味しい。


 甘さ控えめ、第一印象がチーズ感でも甘味でもなく、その中庸である落ち着いた優しい味。

 味・食感ともにほっこりして、濃すぎず、でも密度はしっかりとある味。

 主張しない、家庭的、だけどお店で出すにふさわしい、あえて言うなら、落ち着きが特徴の、どっしりベイクドチーズケーキ。


 るんるんだ。

 これは好みである。


 フルーティーなコーヒーを飲みつつ、まったりチーズケーキをかじりつつ、下を通る自転車を眺めつつ。


 新しいお客さんが入ってきた。

 若い女の子二人組だ。

 ふわふわした話の導入だったから、ずっとふわふわした話を続けるのだろうと思っていたら、何人出てくるんだ元彼たちよ。

 思ったより黒いふわふわだった。



 お皿に少し残った、チーズケーキの土台だったクッキーをフォークで削るようにすくって完食。

 次はずんだトースト食べよう。


 ご馳走様でした。

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