異世界の明日を生きる

影冬樹

終わらせそう

 幾ら努力したとしても、報われる事はない。花開く事など、一度もなかった。

 誰よりもひたすら努力したとしても、自分より出来ていない人が何故か報われる。手に僕が作った書類を持ちながら。可哀想な目でこちらを見る。そして、何故か僕だけが叱られる。

 何をやってもお前は出来ないのだ、と。

 そしたら、彼は叱られる僕を救う。すごく気持ち良さそうな顔をしながら。

 上司はそんな彼に気を良くして、彼を見習うようにと言う。


 僕は彼に飛び掛かりたい気持ちを抑えながら、拳を握った。次第に赤くなって、爪痕が付いても気にしない。

 何よりも彼が憎い。この手で殺めたくなるほど。今、この瞬間にも彼が張り裂ける様子が、目に見えた。実際にそれが行えば何と気持ちいいだろうか。


 そんな僕の気持ちなど知らないように、扉が閉まった。上司はこの部屋から去った。辺りを見ると誰もいない。彼と僕だけ。

 彼はこちらを振り向くと、手の書類をひらひらと揺らした。次いでに顔も、ひらひらとしている。いつまでも、僕を侮辱しようとしている。


「残念だったなぁ…お前。俺に仕事を取られて。出来損ないが、更に出来損ないになった。でも、そこから這い上がる事など、到底出来ないだろう。お前が幾ら頑張ろうとしても、俺がお前よりすごく出来るからなぁ」


 彼は大きな声を上げて、笑った。一つも面白くない事に、一人で笑っている。気持ち悪くて、仕方がない。


「おいおい、そんな顔をしないでくれよ。俺がお前を虐めている見たいじゃないか……俺はあいつから言われて、お前を指導する事になったのだよ。お前が余りにも、出来ないから。この会社でな」


 彼は巧みに言葉を選びながら、僕を攻撃する。録音されていても、ふざけている程度で済むように。どこまでも腹黒い彼を、何故誰も気付かないのだろうか?

 王子様とか呼ばれるほど、スタイルがいいからだ。会社でも女性陣から、絶対の信頼を寄せられている。そして、僕の功績も信頼も、彼は瞬く間に奪い取った。彼は自分よりも出来ないと判断した人が、いいように扱われているのが、許せないのだった。中に怪物を飼っているなど、誰が信じられる?


 ここで何かを言ったとしても、自分の評価は下がるだけだ。もう、仲間は誰もいない。僕の全てが否定されている。仕舞いには、僕がいる事が気に食わない者も出始めた。本当に、笑える。馬鹿馬鹿しい、どこまでも。


「お前も何か言えよ」

 と、何も言わない僕に彼は切れた。


 近付くと乱暴に肩を揺らした。が、僕の顔を見て、反応が変わった。


「お前……何で笑っているのだ? 狂ったのか、仕舞いには…」



 僕の耳にはもう、彼の言葉など聞こえなかった。

 そうだ。もう、こんなに嫌なら、終わらせて仕舞えばいい。全てを自分の手で。次こそは、良い世界がある、と。


 後ろで制止させる言葉がしながらも、僕は部屋を飛び出した。

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