第9話 転生者クリハラは己だけがチートで無敵と思ってらっしゃる
「転生者は自分と相手の能力を正確に把握できるのよ。強さを数値化して、他の情報も色々見る事ができるらしいわ。ステータスオープンで見えない情報は無いらしくてね。だから、敵対者に最適行動をとって効率よく勝てるんだって。まあ、もんのすごく個人がもっちゃいけないトンデモ能力ね。ふざけた力チートの一種よ」
「な、なんだねソレはッ!? そんなルール違反がヤツはできるというのかい!? 情報が何もかも筒抜けなら、転生者に勝つ事は不可能に等しいじゃないか!」
「あ、そこは気にしなくていいわ。転生者はステータスオープンを使いこなそうとしないから。興味を満たすだけの能力で終わらせちゃうのよね。学校にいる知らないクラスメイトを名簿で調べる程度にしか活用しないの」
ステータスオープンは相手の能力を数値にする以外にも、様々な情報を教えてくれる。
それは転生先に存在する知らない道具の説明だったり使い方だったり、この世界に存在する生物や無機物の事だったり、行き先の気候や地形だったり、戦闘の最適行動だったり等々、種類を問わず様々なモノを説明してくれるのだ。全知全能とはまさにコレで、ありとあらゆる事を転生者に教えてくれる。
そのためステータスオープンで解らない事は無い。おそらく、転生者のふざけた力チートでダントツ反則技だろう。
「そ、そうなのかい? にわかに信じられないな。凄い力なら使いこなそうするのが当たり前じゃないか」
「まあ、何というか………………転生者って基本的に能力が∞とか、果てしなく高い数値の身体値ステータスだったりとか、色んな事に対する耐性が無敵に近かったりとか、そんなヤツばっかりだからね。相手のステータスなんて弱すぎるから対策のために見る必要なんか無いのよ。だから趣味能力になっちゃうの。かなり凄い能力なのにね。好奇心を満足させて終了よ」
しかし、転生者はステータスオープンを小さい範囲スケールでしか使おうとしない。
これはステータスオープン以外のふざけた力チートがある以外にも、元々転生者は一般人だったというのもあるだろう。巨大な力を手に入れても、物事を考える力が一般人レベルで追いついていないのだ。そのため、ふざけた力チートの使い方がそれ相応になってしまい、それで良しとしてしまう。
まあ、転生者から言わせると「あえてそうしているだけ。本気で使えば大変な事になるし」なのかもしれないが。
「くッ! そんな一家に一台あると便利な能力がクリハラにはあるというのに、好奇心程度で終わらせてしまうとは!」
「本来なら国家に一台で良いレベルよ。いや、それもダメか。世の中にステータスオープンなんかあったらディストピア作れちゃいそうだし」
シンカリアとサトリマックスが話していると、クリハラの視線が二人に向いた。
「ふむ、まあこんなもんか」
どうやらステータスオープンでシンカリアとサトリマックスの能力値ステータスを見終わったらしい。クリハラの顔が、知らない昆虫の生態を突き止めたような満足感のある表情になっている。
「とりあえず結論として先に言っとくよ」
クリハラはサトリマックスを見ながら思い切り肩をすくめた。
「俺には何をどうしたって攻撃は効かないから。銃撃属性無効の自動オートスキルがあるからね。いくら撃とうと無駄だよ。全部弾かれるだけ」
「銃撃無効? スキル? くッ…………それがステータスオープンで自分を丸裸にして舐めるようにジロジロと見て満足しきって脳内で快感を覚えた後に得た答えかッ!」
「アンタの中のステータスオープンってどうなってるのよ………………まあ、あってると言えばあってるんだけど」
そんなツッコミをしながらシンカリアはクリハラに視線を向けると、クリハラはシンカリアに対しても得意げな顔をしている。
どうやらシンカリアも問題なしと判断したようだ。
「言ってる意味はわからんが自分のする事はただ一つ! お前に無限の剣技と永遠の銃撃と誇りある拳をぶつけるのみッ! 覚悟するがいいッ!」
「銃撃無効、地水火風光闇無効、斬撃無効、打撃無効、状態異常無効、身体強化解除無効、能力低下無効――――――――って、喋ったらキリが無いけど、まあとにかくアンタの攻撃は何も効かないって事だから。あ、俺の攻撃は全部通用するからね。どんな防御しても無駄だよ」
「バカな!? そんなふざけた事があるかッ!」
クリハラのあまりに酷いふざけた力チートに、サトリマックスは戦闘中に絶対言ってはならない(?)言葉を思わず漏らしてしまう。
「我が妹を堕落させた敵に今こそ報いらせてもらうッ!」
「え? 妹? 堕落? どういう事?」
「クリハラぁぁぁぁぁぁぁ!? お前ッ! 忘れているというのかぁぁぁぁぁ!」
「えっと…………俺何かやっちゃったのかな?」
「とぼけるなッ! 貴様のせいで、我が妹はとんでも無いアホになったのだッ! お前に惚れるという事態そのものは一億万歩譲ってしょうがない出来事だとしてもッ! いや、惚れる事は兄として許せんけどもッ! そこは強調しておくけどもッ!」
サトリマックスは怨嗟の声でクリハラに告げる。
「なんでお前を好きになるキッカケが「ちゃんと噛んで食べているから」なんだッ! 何故そこが惚れるポイントなんだッ! 恋のきっかけは数あれど、それは絶対におかしいッ! 噛むなら自分もちゃんと噛んで食べているッ! しっかり咀嚼しているッ! それなら自分に惚れてくれても問題ないだろッ! 自分が全てと思ってくれていいだろうッ! 我が妹よッ! 我が妹よぉぉぉぉぉぉ!」
「…………後半はアンタの願望よねソレ」
黙って聞いていたシンカリアだったが、後半の勝手な部分にはツッコミをいれておく。
「うーん、ごめん、覚えてない。この世界に来て色んな人と知り合ってるから、全員の名前を覚えるのが難しくてさ」
「クリハラぁ!? お前、さっき色々無効化とか凄いっぽい事言ってたクセに、名前全部覚えるって事はできんのかぁ!?」
サトリマックスはごもっともな事を言った。
「ハハハ、状態異常無効化に忘却無効は入ってないみたいだ。無効化能力の中身を詳しく“神様”に確認しとけばよかったな。あ、でも俺の記憶力は状態異常のせいってワケじゃないから関係無いか」
「やはりお前は許しておけん! 俺より妹に愛されたお前は屠られるべきッ! ナイフの持ち方もダンスのやり方も紅茶の飲み方も忘れてしまった妹のためにもッ!」
私怨だらけだが、サトリマックスの妹がクリハラのせいで転生影響無能病フラジャイルになっているのは間違い無い。
「うおおおおおおおおおおッ!」
負けフラグ全開の雄叫びを上げながらサトリマックスはクリハラへ特攻した。
右で片手剣シヨートソードを振り下ろし、左手に持った銃を乱射するが、当然その攻撃はクリハラに通じない。
銃撃は先程のように無効化され、直接クリハラを斬りつけても綺麗な金属音が響くだけだ。薄虹色のオーラがサトリマックスからのダメージを完全に防いでいる。何をどうしても攻撃はクリハラに届かない。
それでも、絶え間なくサトリマックスは攻撃を続ける。いつか通じると信じているのだろう。攻撃の手は緩めず、むしろ全力ギアは上がっている。
「やれやれ」
クリハラはそんなサトリマックスを呆れるように見ながら、怠そうに頭を掻く。
「妹さんに俺が何かしたっぽいのは悪いと思ってるけど」
するといつの間に動いたのか。サトリマックスが気がついた時には、その腹部にクリハラのガンブレードが接触していた。
斬りつけられたワケではない。ただ、ガンブレードがサトリマックスの身体に触れただけだ。
「そっちが手を出してくるなら、俺も反撃しないとね」
だが、それは見た目では想像できない一瞬の攻撃だった。
故に反撃などできない。
「なぁッ!?」
サトリマックスの何があったのか理解不能の叫び。それと同時に天井に大穴が空き、その場からサトリマックスがいなくなる。
サトリマックスは天井を突き抜け夜空へと吹っ飛んでしまったのだ。いつぞや、シンカリアがやってしまった時の数倍上空を駆けている。
「ぁぁぁぁぁ~~~~れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~」
遠くの夜空からサトリマックスの悲鳴(?)がうっすらと聞こえてくる。星になる事が決定した悲運な男の叫び声だった。
シンカリアが夜空を見上げるとキラーンと不自然に光る星が見えた。間違い無い。アレはどう考えてもサトリマックスだ。
「あのバカ…………攻撃が通じてないんだから、ふざけた力チートを無効化できてない事に気づけっての…………」
転生影響無能病フラジャイルは無効化できるが、ふざけた力チートは無効化できない。
どうやら、それがクリハラの選定零組ティーレアンとしてのレベルのようだった。
天井にできた大穴は、その事実をむなしくシンカリアに伝えている。
「え? 嘘? ちょっと運命両断無双拳ディスティニーオブザエンドを当てただけのつもりだったけど、すごい吹っ飛ばしちゃったなー。ステータスがカンストしてるとはいえ、もっと手加減するクセ覚えないとだなぁ」
「うーん、さっきから惚れ惚れするような上っ面クールね………………脳内が気持ちよさで埋め尽くされてるのまるわかりだわ…………技名の意味とか聞くのスルーしとこうかな…………どうしようもなくウザいし…………」
クリハラは自己反省しているが、何故かその呟きに驕りや過信がシンカリアには見えてしまっていた。もの凄く見えてしまっていた。あまりにも見えてしまっていた。
「ごめんねお姉さん。すごく手加減したんだけど、まさかあんなに吹っ飛ぶとは思わなくて。あ、命に別状は無いから安心して。あの人のHPはゼロにならなかったし、むしろ全然減ってなかったからさ。すぐにここへ戻ってくると思うよ」
悪びれてるようで、全く悪びれずにクリハラはシンカリアへ謝る。いや、少しくらいは悪いと思っているのだろうが、悪いのは絡んできたそっちだから謝罪は形式的なだけでいいってな感じである。謝罪はあっても、そこに誠意が無い。
「あれ? お姉さん驚かないのか」
あんな人間離れした事をやってのけたのだ。クリハラとしては、当然のように驚かれて褒められまくるのが普通である。
なので、今のシンカリアのようにそんな芸当ができる事は知ってるというような顔をされるのは初めてだ。
これまでクリハラが接してきたエルナブリア王国の人間に、シンカリアのような反応をした者はいない。
「…………なんで?」
この事実にクリハラは驚くというよりも「自分を当たり前のように称賛しない気に障るヤツがいる」といった様子だった。体内に入った異物を見つけたような視線をシンカリアに向けている。
「転生影響無能病フラジャイルにかかってる人達の気持ち悪いコントにはなかなか驚いたわ。実感として十分理解できた。私があんな風になるのは絶対にゴメンって事もね」
シンカリアはサトリマックスが吹き飛んでいった天井の穴を見上げながら呟いた。
「無効化、ステータスオープン、色んな完璧耐性。あと能力値ステータスカンストって単語もあるんだっけか。それが私達、エルブナリア王国の人間をどうにでもできちゃう力なのよね」
こんどはシンカリアが呆れていた。
圧倒的な力を弱者に振りかざすのは余程気持ちがいいんだろうな、と。
その気色悪い余裕を見せつけるのはさぞや快感なんだろうな、と。
敵対する者を凝らしめるのではなく、敵対する者に自らの力を見せびらかすのが大好きなんだろうな、と。
「全く、くだらなくてムカつくだけの力だわ」
クリハラのワザとらしい余裕の表情から見えるのは、突如強者になった元弱者が向ける無意識の悪意だけだった。
「それ、神様からもらったんでしょ? この世界を謳歌できるようにって。誰に対しても圧倒的有利になれるって」
「へぇ、神様を知ってるのか。この世界の住人でそんな人いるんだなぁ」
クリハラの余裕を先程から崩れていない。だが、それはおそらく表面的なだけだろう。クリハラの“空気”が明らかに変わっている。とり続けていたマウントをひっくり返されたような不快さが話す言葉に籠もっているのだ。シンカリアを鬱陶しく思い始めているようで、その感情を隠せないようだった。
「知らないワケないわよ。だって、この世界にアンタら転生者を送り出してる元凶なんだから」
「元凶って酷いな。俺に色々なスキルをくれた優しい神様なのに」
「私達にも優しければそう思ったかもね。何故か部外者のアンタら地球人にはやたら優しいのに、この世界の住人にはそんな優しさ微塵も見せないんだから」
それはシンカリアの本音だった。
「全く、そんな神様ふざけてるわよ。寵愛は等しく分け与えろっての」
シンカリアのようなエルナブリアの住民達には何もしないクセに、部外者の地球人には無敵に近い力を与える。しかもその力は、そういう力である事を転生者に気づかせない仕様になっていて、力を振るう本人は何の自覚もなく悪を振りまく。結果、自分の都合の良い世界を作り上げる。そこに転生者以外の都合や考えは無く、エルナブリアの住人を導けるのは自分だけだと思い込む。
――――――――死んだ地球人に同情して神はこんな力を転生者に与えているのだろうが、あまりに趣味が悪すぎる。こんなのが神なら是非ともやめて欲しい。エルナブリア王国の文化・知識レベルを下げるなど害悪にしかならないのだから。
「ま、世間話はこのくらいでいいでしょ。私もアンタに用があんのよ」
「あー、やっぱ俺を殺したいの? さっきの人と同じでさ」
クリハラは再度呆れたように首を振る。
「能力値ステータス確認したけど、アンタは魔道士ってヤツだよね? 一応言っとくけど、魔法も俺には効かないよ。するだけ無駄だから」
クリハラにはこの世界エルナブリアの存在達へ大いに油断していい資格がある。
誰であろうと本気を出さずに全く問題なく勝っているからだ。敵対者に敵対者と呼べる程の力はなく、全てがザコ以下に極まっている。
それがクリハラの常識だ。だから、戦う相手がどんなヤツだろうと緊張は無いし過敏に反応する事も無い。己が持つ絶対的なスキル(チート)を打ち破るなど不可能なのだから。
もらった神の力に勝てる者は存在しない。
だって神の力なのだから。
それが神の力というモノなのだから。
「俺には完全魔法耐性もあるんだ。まあ、言っても聞いてくれないだろうけど」
そう、クリハラはこの力をそう解釈している。
自分に対抗できる者がいるワケない。神様からスキル(チート)をもらった自分と対等、もしくは優位に立てる者は存在しない。
特に根拠無く、クリハラは自分だけが特別だと思っている。
己にストレスを与えられる存在も現象も無いと確信している。
「じゃあ突っ立っときなさい」
なので、シンカリアが爆破魔法ブラストをその手から放っても、避けようとも防御しようともしなかった。そんな事をする必要が今までなかったからだ。
だから――――――――――――これはクリハラにとって初めてのダメージとなってしまった。
「ぐッ!?」
爆破魔法ブラストがクリハラ自身に直撃したのだ。
「威力は激減させてるわ。ただ痛いだけだから安心しなさい」
クリハラを包んでいた薄虹色のオーラは爆破魔法ブラストによって、薄氷を踏み割られたように粉砕されてしまった。そのため、ダメージの原因は(当たり前だが)爆破魔法コレだとすぐにわかった。
「な、なんでッ!?」
だが、すぐに原因が解ったせいで事態を理解できない。
爆破魔法ブラストはただの攻撃魔法なのだ。なら、完全魔法耐性のスキル(チート)で無効化できる。できるはずなのだ。これまで通り同じ結果になるはずなのだ。
だが、何故かスキル(チート)は全く機能しなかった。むしろ、完全魔法耐性の方が無効化されており、クリハラの脳内がパニックになる。こんな事態は初めてだった。
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