番外編 新魔法検証配信
――兵装院ヴェルンド最深部攻略を終えた、その翌日のセイファート城庭園外縁部。
「……アディーヤ! よく来たな人間ども以下略!」
コメント:あでぃーやー!
コメント:はいかわいい
コメント:今日はオフの服なんだねー?
「うむ、現在我らは全ての装備をオーバーホール中じゃからな……数日はまともに外に出れん」
そう言うクリムの服は、ややゴスロリ気味な衣装ではあるものの、このまま街に出ても特に違和感ないようなワンピース。視聴者からの褒め言葉に少し照れつつも、すぐに真面目な顔になる。
「それと先日のヴェルンド最深部攻略戦での配信は、途中なし崩しに中断になってすまなかったな」
そう、クリムは先日の配信最後のゴタゴタについて頭を下げる。実はあの時、緊急メンテナンスの告知と共に、配信機能がダウンして強制的に終了していたのだ。
コメント:いいのよー
コメント:緊急メンテは仕方ない
コメント:ご無事で何より
コメント:それより今日は何をするんです?
「うむ……今日は、面白いものを入手したのでな、その検証を配信していくぞ」
コメント:面白いもの?
コメント:擬似真竜とやらの戦利品?
「うむ……この魔導書じゃ」
そう言って、一冊の魔導書を取り出し皆へと見せるクリム。それは、先日『兵装院ヴェルンド』最奥にある秘密武器庫にて見つけた、『
「なんと聞いて驚くがよい……こちら、『シャドウ・ウェポン』の上位魔法を修得する魔導書じゃ!」
コメント:な、何ぃ!?
コメント:無い言われてた魔法作製武器の上位版!?
コメント:お願いします売ってください、金なら何十億FOLでも払いますから!
コメント:頭打ちだった魔法武器作製に光が!?
コメント:でも、たぶん一鯖いち欲してたのまおーさまだろうからな……
「ふふん、やはり皆驚いておるようじゃな。よし……では、フレーバーテキストを読んでいくぞ」
そう言って、クリムはアイテム情報に記載されているテキストを読み上げていく。そこには……。
———————————
禁断の魔導書『深淵魔法:
――其は、闇よりも尚暗き闇。
創世記以前より存在したとされる根源たる『無』を極小範囲で呼び出し、武器として構築した『虚無の剣』を召喚する禁呪、その修得方法を記した魔導禁書。
この魔導禁書は通常、その姿を観測する事はできない。才を持つものが資格を得て初めて姿を表すと言われている、
———————————
コメント:はいこれ絶対ヤバいやつ
コメント:ヤバい事しか書いてなくて草
コメント:ドストレートに厨二な事しか書いてねえ
コメント:そもそも虚無とか自体ラスボスの属性なんよ
クリムがフレーバーテキストを読み上げ終えた瞬間、視聴者からツッコミの嵐が飛ぶ。
一方で、クリムはその内容を再確認し、目をキラキラとさせてみるからに浮かれた様子で語る。
「うむ、うむ……なんかこう、いいのぅ!」
コメント:そうだクリムちゃん厨二病だった!
コメント:めっちゃこういうの好きそうw
コメント:ウッキウキで草ァ!
テキストを読み進めながら目を輝かせるクリムに、周囲は生暖かい目線を送る
そんな空気に気づいたクリムは、こほんと咳払いをすると話を戻す。
「では……使っていくぞ」
若干の惜しみを感じながらも、クリムは魔導書を使用して、現れた確認の選択肢にYESのボタンを押す。
すると、さすがに禁呪の魔導書というだけあり禍々しい、例えるならば『ホーキング放射』のようなエフェクトに包まれた後、クリムの体内へと吸い込まれて消えていった。
「では……呼び出してみるぞ?」
皆が緊張で黙り込む中、クリムは修得したばかりの『虚無の剣』を詠唱する。
手の内にバチバチと走る漆黒の稲妻。空間に滲み出すように現れた真っ黒な球体がいくつもより合わさり、形を成し……漆黒の大鎌が顕現した。
コメント:出現エフェクトがもう禍々しすぎる
コメント:あれ、平面?
コメント:立体に見えない、なんだこれ
視聴者の戸惑いの声の中、クリムは手を動かして、鎌を色々な角度から眺めてみる。
「これは……ふむ、真っ黒じゃな。ペンタブラックじゃったかの、世界一黒い塗料でも塗ったみたいじゃな」
クリムの目の前へと完全に姿を見せた『虚無の剣』は……まるで空間に書いた一枚絵のように、真っ黒な色をしていた。
パッと見では平面に見えるが、動かしてみれば確かに立体物だ。これは光を反射せずに全て内部に吸収してしまうため、陰影が分からなくなっているのだろう。
外見以外は、使い慣れたシャドウ・ウェポンと特に差はない。軽く振ってみたが、クリムの腕が記憶しているいつもの武器と、感触に相違は感じなかった。
となると、やはり気になるのは性能か。
「と、いうわけで。こちら、今回の検証に協力してくれる、お馴染みセイファート城の番人である鉄巨人の三号くんじゃ」
そんなクリムの言葉と共に、バックしていく動画撮影用のマギウスオーブ。これまでずっとクリムの横、カメラの範囲外にずっと佇んでいた巨大なゴーレムが、視聴者たちの前に晒された。
コメント:え、試し斬り?
コメント:鉄巨人くん逃げて
コメント:やめたげて!?
コメント:人の心とか無いんか!?
「安心せい、この機体を動かしていたAIには交換条件として最新型の黒鉄巨人への機種転換を行ってやったからの。喜んで旧ボディを提供してくれたぞ」
コメント:現金すぎる!
コメント:それじゃあ、この鉄巨人は中身なし?
コメント:良かった試し斬りされる鉄巨人くんは居なかったんだ
「うむ、動く事はない。これはもう全ての機能を別に写した後の抜け殻じゃ……その堅牢さだけは健在じゃがな」
そう言って鉄巨人の脛あたりをコンコン裏拳で小突いた後、クリムは『虚無の剣』で呼び出した漆黒の大鎌を手に距離を取り、構える。
「では……いくぞ!」
視聴者の目を置き去りにするスピードで、瞬時に鉄巨人へと距離を詰めたクリムが振るった漆黒の刃は、鉄巨人の重厚な装甲板とぶつかり合い……音も無く通り過ぎた。
「ぬぉ!?」
あまりにも手ごたえがなかった事で、クリムは着地と共にバランスを崩し、たたらを踏んで堪える。
一方で、鉄巨人のほうはというと……今も、変わらず佇んでいた。
コメント:あれ、切れてない?
コメント:もしかしてまおーさま、スカした?
もしや、クリムがとんでもないポンコツでもやらかしたのだろうかと、視聴者たちが疑問に感じた――次の瞬間。
鉄巨人の巨体が、真ん中からズレて上半身と下半身で真っ二つとなり、けたたましい音を上げて転がった。
あまりにも滑らかな切り口は、何故か真っ黒に塗りつぶされていることに、皆が首を傾げたが……次の瞬間、今度は切断された鉄巨人の体が双方、切断面から空間が収縮するようなエフェクトと共に、軋み、ひしゃげ、圧壊した直後爆発して吹き飛び、数メートル先にてガランガランと騒音を立てて転がった。
シン……と静まり返るコメント欄。
一方でクリムは今の現象が何だったのかと魔法効果のテキストに目を走らせると、すぐに関連していそうな記述を発見した。
「ふむふむ……この追加効果は『虚空斬』というらしいの。この剣でダメージを与えた箇所を空間ごと消滅させるゆえ、周囲で揺り戻しが起きて空間爆縮し追加ダメージを与えるのだそうじゃ」
コメント:はいヤバいやつー
コメント:何それ怖い
コメント空間爆縮とかいうパワーワード
「……これ、普段使いには過剰火力じゃないかの?」
コメント:うん
コメント:それはそう
コメント:乱戦とかだと危なすぎる
真顔でつぶやいたクリムの疑問に、視聴者たちから肯定のコメントが雪崩のように入る。
硬いことに定評のある鉄巨人を、防御力無効とかの追加効果なしでバターの如く切り裂く高い攻撃力。
しかも切った場所が問答無用で吹き飛ぶなど、加減が必要な場面で余計な悪さをしかねない。
というか、乱戦で好き勝手に斬りまくっていたら、もしかして自分や仲間も空間爆縮に巻き込みかねないのではないか……と考えていくうちにひしひし感じる。正直ここまでくると半分デメリットだ。
やはり結局のところ『シャドウ・ウェポン』の取り回しの軽さは必要な場面が多いだろう。今後は状況に応じ使い分けが必要になるな……と、クリムは視聴者たちと一緒に結論付けた。
コメント:ところで、シャドウウェポンが関係してた魔法とかに影響出たりしないの、ラグポンとか
コメント:いやそれはさすがに
「うむ……あれは二種複合、しかも片方は固有魔法とかいうものの極大魔法ゆえ、まさかそんなヤバいものを連座で変化などさせぬじゃろ」
そう軽い気持ちで言いながらも、クリムは一応のつもりで所持魔法一覧を開き、『ラグナロク・ウェポン』を探すが。
「……ん、むむ?」
不思議な事に、使い慣れている魔法のはずが今日に限って全く見つからない。
首を捻りながら探していると……今度は、見た事の無い魔法の名前を見つけてしまい、クリムはギシリと固まった。
コメント:おい……
コメント:まさか……
ざわつく視聴者たち。
彼らを前に……しばらくのフリーズを経たのち、クリムはどうにか平静を努め、口を開いた。
「い、いや、ナニモナカッタ、ノジャ?」
コメント:嘘つけぇ!
コメント:まおーさま、カメラ見て今の言葉をもう一回言ってみて?
コメント:嘘つくの下手くそかよ!
しらを切るクリムに対し、視聴者たちから一斉にツッコミが入り……それをオチとして、この日の配信は終了したのだった。
【後書き】
今月末で忙しいのは終わるので、それまで今回と次回は本編外の番外編です。
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