なぜなにまおーさま②
ひとまずベリアルも冷静になり、今は東家の端の方で不貞腐れている様子を見て苦笑しつつ……クリムはようやく、今回の配信における本題である解説を始める。
「まず……そもそもの話、『世界樹』と『冥界樹』って何かというところからよく分からん、という者も多いと思う」
コメント:それな
コメント:正直、名前以外いまいち分かってない
コメント:冥界樹を目覚めさせたらヤバいのはわかる
そんな反応がちらほら見えるコメント欄に……さもありなん、とクリムは思う。
一応、世界樹と冥界樹関連の話に関しては、クリムたちも情報を可能な限り拡散してきたはずだが……それこそ全容を把握している者など、ストーリーでズブズブに関わってきたクリムたち『ルアシェイア』と、スザクたちくらいのものだろう。
「まず、世界樹セイファートじゃな。こちらはこの大陸を巡っている魔力……マナを浄化して循環させ、周囲の環境を生物の生存に適したものに整えてくれておる存在じゃ。この世界樹セイファートが活性化している時を、便宜的に発展期と呼んでおる」
そう言って、クリムは世界樹が瘴気化したマナを取り込み、大地に還元する様をイメージしたスライドを呼び出して、教鞭を振るいながら解説する
……この世界、実はどれだけ大地に養分を与えても、その内に浸透する清浄なマナが無ければ、ろくに作物も育たなかったりする。
巫女アリエスが、旧帝都南方の穀倉地帯を守るために自ら土地に封印されて大地を浄化し続けるための楔となったのも、このためだ。
そんなマナを与えてくれる世界樹セイファートが眠りについてしまった場合、何が起こるのかについて説明する中で……そのことに触れると、コメントの内容も皆、真剣なものに変化していた。
コメント:飢饉で滅亡するのか……
コメント:それも収穫が回復する見込みゼロ
コメント:運営心無さすぎでしょ……
実際には、そんな事態が訪れるより早く蔓延するであろう病気や衰弱死が多いだろう……が、それでも生き残った者に待ち受けるのは、未曾有の食料難。
コメントの発言ではないが……まさに『運営には人の心が無い」極まれりな話だった。
「一方で冥界樹クリファードの方ですが、こちらは大陸を瘴気で覆い尽くし、文明をリセットする存在なのです」
重苦しい雰囲気が漂う中、雛菊が、よいしょ、とスライドをめくってくれる。
尻尾をぴこぴこと揺らしながらのその後ろ姿に……
コメント:可愛い
コメント:かわいい
コメント:カワイイ
……と、可愛いコールが一斉に流れる。
クリムも視聴者同様に、その一生懸命な姿を見てほっこりしつつ、解説を再開する。
「そうして世界樹と冥界樹は、だいたい二千年ごとのサイクルで入れ替わり、繁栄と衰退を繰り返していた。それが本来のこの世界のあり様なのじゃな」
そう、まるで話を締めるように語ったクリムだったが……しかし、ここで深々とため息を吐く。
「――と、先日までは思っていたんじゃがなぁ」
コメント:む?
コメント:流れ変わってきた?
戸惑いを見せるコメントに、クリムもうむ、と頷き説明を続ける。
「これまでは、お互いの力関係による変遷だと思われておったのじゃが……昨日の帝城での決戦の折に、『クリフォ1i』であるルシファーの話によってそれが根底から覆されることになったのじゃ」
「それが、今回新たに出てきた、これですね」
クリムの言葉を受けて、雛菊が再度、黒板に投影されたスライドを捲ってくれる。
そこに表示されたのは――帝城地下に眠っていた、あちこちから何らかの光を時折走らせている、巨大な黒い球体のスクリーンショット。
「先日の旧帝都決戦参加者は、ルシファーの話を聞いて知っておるじゃろうが……これが、環境制御装置『エデンの園』という。世界樹と冥界樹を用いて大陸環境を制御している、何処かより飛来し、はるか昔にこの大陸に落着した物体じゃ」
コメント:話が急にSFになった件
コメント:実はこれ、聖都大聖堂に保管されてるイァルハ教の神話の最初に合致するんだよな
「おっと、良いコメントがあったな。『我らが神はエデンから降り立ち、そこから持ち込んだ世界樹の種を右手から投じて世界に根付かせ、そこから生命が誕生し、繁栄していった。ところがある日繁栄により慢心した人々に心を痛めた神は、もう一つ左手に持っていた冥界樹の種を世界に投じて罰を与えた』という奴じゃな」
コメント:まおーさま普通に暗記してるw
コメント:弱点で聖書読めないんだから写本か?
コメント:なんで普通に諳んじられるの……
コメント:現在出回ってるこの世界の聖書ほぼ数十年前に書かれた写本だゾ
以前聖都に滞在した際に見せて貰った本の話をすらすらと語るクリムに、コメントがざわつくが、しかしクリムはそんな空気に気付かずに、事の本題へと話を進めていく。
「じゃがしかし、この『エデンの園』は、本来目指すべき完成形の世界のデータを破損しておる。今ではただ破滅と再生のサイクルを繰り返し続ける、暴走した装置じゃ」
コメント:改めて聞くと酷過ぎる理由だなこれ
コメント:一番大事なデータ破損してるとか何
コメント:エデンさんのガバで世界がヤバい
コメント:億年単位で傍迷惑な装置だなおい
「まぁぶっちゃけ――いちいち入れ替わって滅亡する必要ないじゃろが! という事実が判明したんじゃよな」
コメント:ぶっちゃけたwww
コメント:ひどすぎるww
コメント:ここまで全部エデンさんの茶番www
そう――これまで開示された情報全てを総合して考えた結果……冥界樹クリファードを復活させて文明をリセットしなければならない理由が、少なくとも現時点では全く存在しないのである。
「……ほんっと、ふざけた話よね!」
「どぅどぅ、ベリアルお姉さん落ち着いてくださいです!」
やさぐれた様子で吐き捨てるベリアルを、雛菊が苦笑しながら宥めているその様子に……
コメント:ベリアルさんカワイソス
コメント:散々振り回されてコレは無いわぁ
コメント:ドンマイ……本当にな……
コメントすら同情一色に染まっているのを苦笑して眺めながら、クリムは先を続ける。
「そして……その暴走を止めるため、以前の帝都決戦の最後に、我ら『解放者』に対してルシファーの手により、冥界樹クリファードの緊急停止プログラムを付与されておる」
「だから私たちは、お師匠様たち四人の誰かを、その冥界樹クリファードの中枢に叩き込んでループを終わらせるのが目的となるのです!」
コメント:OK把握。
コメント:露払い把握
コメント:つまり俺らはその道中まおーさま達が消耗しないように守るのが役目なんだな
コメント:俺らがまおーさまを守るっていうパワーワードよ
コメント:まさかそんな日が来るとはなあ……
「うむ、そうなるな。当日は、皆を頼りにさせてもらうぞ」
コメント:了解!
コメント:かしこまり!
コメント:やぁってやるぜぇ!!
クリムの言葉に、盛り上がりを見せる視聴者達。
……今回に関してならば、クリムたちは守られる側だ。そして全てのプレイヤーの想いを託されて、最後まで生きて踏破しなければならない。
改めて、そんな責任重大な立場に居ることをしみじみと実感していると。
「……あんたたちの敵は、世界を滅ぼすシステムそのものよ。しかも本来のサイクルをお預けされて力は有り余っているというおまけ付きでね。はっきり言って、敵はあまりにも強大な存在よ」
浮かれ調子な皆の気分を気を引き締めるかのようなベリアルの言葉に、クリムも頷いて答える。
「ルシファーの奴も言っておったが、我らはかなり前倒しでこの決戦に挑むことになる。厳しい戦いになるじゃろう……だが、お主らの協力を得られるならば、決して無理ではないと我は信じておる」
そう言い切ったクリムの言葉に――視聴者たちからの歓声のコメントが、滝のようにログを埋め尽くしたのだった。
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