地底からの呼び声

 ――プレイヤーたちだけで、会いに行って欲しい。


 そうベリアルに言われ、渋るユーフェニアたちNPCをベリアルに頼んで、彼女の蔦で先に地上へと帰還させた。


 そうして、横穴へと潜ったクリムたちだったが……




「……長いな、この通路」

「緩い螺旋を描いて、ずっと下に降りて行っているです」


 先頭を警戒しながら歩いていたクリムと雛菊の言葉に、皆がうんざりした様子で頷く。


 そうして、五分くらいひたすら降っていった頃。



【これ以降、第一サーバーの全ワールドにて、一時的に配信機能を停止します】



「……あ?」


 リュウノスケが抜け目なく飛ばしていた撮影用マギウスオーブが、突然その動力を停止してゆっくりと降下した。


「パパ、こっちもダメなの」


 同じようにリコリスもマギウスオーブを取り出して起動しようとするも、それはウンともスンとも言わず沈黙していた。


 そんな事態を受けて、シャオとソールレオンはまず、仲間たちに連絡を取っていた。クリムもまた、地上に残してきたエルミルへと通話を飛ばす。




『あ、魔王様。連絡がなくて心配していたが、無事か?』

「うむ、すまなかった。こちらはベリアルとの決着はついた。皆、無事じゃ」

『それは良かった。こっちも被害は甚大だったが、NPCの皆は無事だから安心してくれ』


 お互い無事を喜び合い、しかし今はのんびりしている場合ではないとすぐに本題へと移る。


「それで……こちらでは配信や動画撮影禁止となったのじゃが、そちらの状況は?」

『ああ、さっきのアナウンスか。こっちも同じだ、他のギルドの皆も戸惑っているよ。魔王様の方では一体何が起きているんだ?』

「うむ、我らは今、新たに判明した悪魔と会いに行くところじゃな。どうやら戦闘は無いみたいじゃが……」

『そうか……分かった、皆には何が起きてもすぐに動けるように準備させておくよ、気をつけてな』

「うむ、感謝する」


 そう通信を終えて、緊張した様子で伺っていた皆と情報を共有する。


「……どうやら、やはり全ワールドで配信機能が停止したようじゃな」

「配信禁止は世界樹の時以来か……一体、何が起きるのやら」

「あまりいい予感はしないのぅ……」


 なんせ、同じ配信禁止イベントだった世界樹セイファートで起きた事件が『あれ』である。


 それが今回は全ワールド規模とくれば、間違いなくこの世界を揺るがす大激震があるはずだと、しみじみとそんな事を曰うクリムとスザクに……皆が同感だと、頷き合うのだった。






 ◇


「これは……綺麗だが、世界観的にはどうなんだ?」

「どちらかと言うと、SFの光景ではないでしょうか?」



 長い長い螺旋通路を降り切って、クリムたちが今居るのは、広い空間の外周をぐるっと巡る足場。


 その手摺りから身を乗り出して、眼下に広がる光景に、そんな感嘆とも呆れともつかない声を上げているソールレオンとシャオの二人。他の皆も、唖然とした様子でその光景を眺めている。



 横穴を抜けてたどり着いたのは……何をどうすればこのような空間が作れるのか分からない、継ぎ目ひとつない光沢のある結晶素材で構成された、漆黒のドーム状の部屋。


 その中心に鎮座しているのが……あちこちから何らかの光を時折走らせている、巨大な黒い球体だった。



 ……そのまましばらく、そんな光景に魅入っていると。


『――あれこそが、太古の昔、この大陸に降ってきたという、現在の地形を作り出した何か、ですよ』


 不意に聞こえてきたのは、落ち着いた女性の声。

 皆、咄嗟に武器を構えるが……しかし、誰の姿も見えない。


『ようこそいらっしゃいました、【解放者アンチェインド】の皆様がた……正直に言えば、この周で四人も現れるとは予想外でしたが』


 ふたたび、いっそ優しいとも言える女性の声が、周囲に響き渡る。

 それと同時に、先頭に居たクリムの目の前に、前触れもなくすぅっと現れたのは……黒い翼を背負う、女神の如き美貌を持つ女性。


 だが、なんだか妙な既視感を感じる。

 以前、どこかで会ったことがあるような。


 それも、この『Destiny Unchain Online』の世界で、かなり初期の方、記憶もとうに朧げになって久しいころに……


「……あ。まさかあなたは、キャラクリエイトの際の女神様か?」


 ふと思い出したようなフレイのそんな声に、皆が、ああ、と納得した。翼の色など細部は違うが、たしかにこのような姿の女性だったはずだ。


 そんなプレイヤー達の様子を見て、女神様が微笑む。


『正解です、私の欠片を受け継ぐ者たちよ。私がクリフォ1i、最初の悪魔……名を、ルシファーと申します』


 そう、嫋やかに膝を折り会釈する女性。

 その仕草は、悪魔とか、ルシファーとか、そういった単語からはあまり連想できない穏やかなものだった。


「お主が……お主の欠片というのは、お主が所有していたクリフォ1i『バチカル』のことで相違ないか?」

『はい、貴女がお察しの通りです。あなた方解放者は皆が潜在的に、私がこの身と引き換えに無数に分裂させて拡散したクリフォ1iを保有して、生まれてきた者たちですから』


 なるほど、と皆から納得する空気が流れる。


 すでに失われたという、最初の悪魔――クリフォ1i『ルシファー』。


 そして、種族進化した際に、クリムたちは『クリフォ1i バチカル.Lv1』という種族特性を得ている。


 その説明によれば、この特性はプレイヤー全てが潜在的に有しているものらしく……おそらくはプレイヤーに与えられたクリフォ1iの欠片、その元となった彼女がキャラクリエイト担当だったのも、今になって思えば納得だった。



 ――正直、あの女神だけ世界観から少し浮いておったしな。



『何か?』

「いえ、ナンデモナイノジャ」


 クリムがそんな、ほんのり失礼なことを考えた瞬間、ルシファーにわざとらしいくらいにっこり微笑みかけられて、そっと目を逸らす。


『こほん……ようこそ、歓迎しますよ、限界を超えし【解放者アンチェインド】たちよ』


 ルシファーは特に気を悪くした様子もなくそう言って、ソールレオン、シャオ、スザク……そしてクリムら種族進化済みの四人へと、順に目を向けたのだった。












【グランドクエスト:『Destiny Unchain』が開始されました】

【警告:この後、プレイヤーの選択次第で『現在の第一サーバーの情勢』『NPCの友好度』『シナリオ進行度』等が初期状態までロールバックされる可能性があります】

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