十三番目の巫女

砲台戦は(真面目に書いたら弾幕シューティングで二話くらい潰れそうなので)カットよー

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「――酷い目に遭ったな」

「全くじゃ……口惜しいのぅ、あれを自分たちの戦力にできれば、旧帝都攻略も楽ができたじゃろうに」


 フレイの遠い目をしながら発した言葉に、隣を歩くクリムが口惜しそうに呟く。


 そんな二人は……否、周辺のヴァーゴを除く全員が、すっかりボロボロになって疲れたような目で『禁断の匣』内部の地下遺構を歩いていた。


「酷い……弾幕だったね……」

「チャージ時間が短すぎるです……」

「避けても途中で逆噴射して反転してくるミサイル群は反則なの……」


 それはルアシェイアメンバーも例外ではなく、クリム含めて体力ゲージがほぼ真っ赤、余裕がある者でさえ半分以上残っている者はいないといったレベルの惨状だった。



「それで……この子が例の、十三番目の巫女か」


 今、クリムたちが居るのは……『禁忌の匣』の内部、中枢ブロック。


 よくわからない漆黒の石材で出来た壁に無数の緑色のエネルギーラインが明滅する、円柱形の吹き抜けとなったその広大な空間中心に展開しているのが、例の時空間ごと内部のものを封じるという封印装置。


 虹色に揺らめくその魔法障壁の中……更に封印内部中心にある祭壇上に、まるで、せめて綺麗な衣装だけでもといった感じの黒いドレスを身に纏った少女が、静かに横たわっていた。



 足首くらいの長さはありそうな、祭壇上に広がる艶やかな漆黒の髪に、対照的な白い肌。


 封印されていなければヴァーゴの一個下だという少女はしかし、封印前の年齢で成長が停止しているため、エクリアスよりも更に体が小さく、幼い。


 顔はさすが姉妹というだけあり、成長すればヴァーゴ同様間違いなく美人になるであろう、整ったもの。



 そんな少女を興味深く見つめていたクリムの眼前で……どうやらヴァーゴが端末らしきものを操作していた封印装置の解除が終わったらしく、眠っている少女との間を隔てていた障壁がふっと掻き消えた。


「ん……」


 時間と空間を遮断する結界が消えて、祭壇上に寝かせられていた少女が、微かにその伏せられた長い睫毛を震わせる。


「む、どうやら目覚めるようじゃぞ?」

「あ……いけませんクリム様、その子の眼を見ては……!」


 ヴァーゴの静止も一足遅く、ぱちっと開かれた少女の大きな瞳と、彼女の様子を見ていたクリムの目が合う。


 それは、深い、鮮やかな紫色の瞳。

 その眼を覗き込んだ瞬間――クリムの意識は、一瞬で暗転したのだった。




 ◇


 ――気がつけばクリムは、身動きも取れず、声も出せぬ状態で、封印の匣の内部をまるで幽体離脱したかのように俯瞰で見つめていた。


『これは……石化か! フレイヤ!』

『クリムちゃん、今、状態異常回復魔法を……』


 騒然とするルアシェイアメンバーの中心で、倒れているクリムに治癒術を行使しているフレイヤ。


 一方で、封印装置であった祭壇の方ではというと。


『……あ……わ、私、そんなつもりは……』

『大丈夫、落ち着いて、今、実力のある治癒術師様が治療してるから、ほら、目を隠して』


 酷く動転している、先ほど目覚めた少女を起き上がらせて、ポーチから取り出した黒い眼帯を巻いて眼を隠しているヴァーゴの姿があった。


 そして、床に倒れているクリムの体。その外套の端から覗く手や脚は……質感が、明らかに生物のものではなく、無機物……石になっている。


 ……と、そこまで認識したところでフレイヤの魔法が発動し、再びクリムの意識は暗転したのだった。




 ◇


「――ハッ!?」


 体に、再び意識が戻ってきた。


 慌てて跳ね起きたクリムの様子に、施術していたフレイヤをはじめとした皆が、ホッと安堵の息を吐いている。クリムも数回試しに体を動かしてみれば、特に違和感も無い。


「あの……そんなつもりじゃ……ご、ごめんなさい……」


 泣きそうな声で謝罪しているのは、部屋に封じられていた少女。

 その声が少女に悪気など一切無かった事を如実に物語っており……クリムにはこれ以上、彼女を責める理由は無かった。


「あー、安心するがよい、我らには腕の良い治癒術師もおるからな。我の方こそ、事情も知らずにお主の目を覗き込んだりして悪かった」

「……怒らない、の?」

「うむ、怒るも何も、お主に落ち度は無いからのう」


 クリムの謝罪に、少女はホッと安堵し胸を撫で下ろす。


「しかし……石化の魔眼か」


 しかも、対魔能力は一部属性を除いて決して低くはないクリムを、一瞬で石化させるほどの強力なもの。

 なるほど……たしかに危険な力だ。年端のいかぬ少女でありながら、このような場所に封印されたのも、致し方ない程に。


 だが、少女自身は決して悪ではない、むしろ周囲に気を使いすぎるきらいがあるくらいだ。それを理解した上で、上手く付き合っていくことはできる筈だ。


 だから、それよりも問題なのは、だ。


 ――なんと、まあ、背徳的な姿をしていること。


 まず、両眼を隠すように顔に巻かれた眼帯については、彼女の『魔眼』という名前が相応しい力はクリムが身をもって体験したのだから、納得もいく。


 しかし、両手と両脚に巻かれた、封印の呪が綴られた包帯。そして両手と両脚、それと首に嵌められた、緑色の魔石が怪しく輝く真鍮の手枷と足枷、そして首輪などの拘束具。


 これが外見は幼い少女に嵌められているのだから、犯罪臭が半端ないというか、何というか。反応に困る劇的なビフォーアフターだった。


「あー、その、ヴァーゴ? 色々と物申したい前衛的なそのファッションは、一体?」


 引き攣った表情で皆を代表し質問するクリムに、少女にあれこれ拘束具を取り付けていたヴァーゴが、苦笑しながら答えてくれる。


「この子の未成熟な身体を蝕む、強すぎる魔力を抑えるための魔導具ですわ。ただ、筋力等も軒並み低下するのでしばらくは日常生活にも支障が出るのか難点なのですけど……」

「……眠っているよりは、リハビリの余地があるだけマシですか」

「そう、思いたいですわね」


 セオドライトの言葉に力無く微笑んで返答した後……キュッと表情を引き締めて、ヴァーゴが少女へと問い掛ける。


「それで……調子はどうかしら?」


 まるで祈るように、少女に尋ねるヴァーゴだったが……


「苦しくも……痛くもない……すごく楽……」

「……本当に?」

「うん、だから………あの……ありがとう、お姉ちゃん」


 少女の精一杯の辿々しい感謝の言葉に、ヴァーゴが項垂れて、肩を震わせる。

 その長い髪が彼女の横顔を隠すカーテンとなり、どのような表情をしているかはクリムたちには分からないが……それは、追求する必要もあるまい。


 クリムたちから見た光景は相当にアレだが、一方でこの少女本人にとっては救いの物品らしい。


 複雑な思いはあるが……しかし、本人が嬉しそうにしている以上は、何も言えないクリムたちなのだった。


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