旧帝都奪還:レドロック解放戦⑤
――後衛で、サラたちが奮戦していたのと同じ頃。
主力であるクリムたちはというと、身を寄せ合い四方から襲い来る触手たちや子クリスタルイーターらを斬り払いながら、着実に『マザー・クリスタルイーター』本体であろう眼球までの距離を縮めていた。
そんな目の前で、マザー全体がブルリと不気味な蠢動をしたかと思うと……その眼前の触手各所から、マザーが背中に背負っているものと同様の結晶が生えて、直後クリムたちに向けて放たれた。
「フレイ、リコリス、これを使え!」
クリムが咄嗟に、至近からの攻撃に弱いフレイとリコリスの眼前へ従えていた巨大な大剣を突き刺して、遮蔽物とする。
同時にクリムはマザーへ向けて駆け出しているため、ちゃんと隠れたかは確認することは出来なかったが、しかしあの二人なら大丈夫と脇目も振らずに迫る飛礫へと突っ込む。
一見すると自殺行為に見える行動だが……迫る飛礫は脅威だが、しかし今、触手の動きが止まって本体が無防備になっていたのがクリムには見えたからだ。
「剣群、我を守れ――ッ!」
無数の散弾のような結晶に向けてクリムの掲げた左手。その前に躍り出たのは、『剣群の王』により宙を駆ける漆黒の大鎌。
その鎌に対してクリムもよく使用する戦技『アズリールリング』のイメージで力を加えると、鎌がクリムの前の位置をキープしつつ、高速回転を始めた。
そうして高速で回転するリングと化したその大鎌は、クリムの前から迫る飛礫をことごとく弾き飛ばしていく。
――よし、行ける!
ぶっつけ本番ではあったが、こうすれば防御技としても機能することが確認できて、クリムは内心でガッツポーズを取る。
そして……この飛礫攻撃の間、身動きしていない触手の動きに気付いて臆さずマザーへ突っ込んだのは、クリムだけではない。
被弾面積を減らすため姿勢を低くして、駆ける二つの人影……雛菊と、カスミだ。
「だけどその隙は……!」
「お師匠が、逃しませんです……!」
クリムのさらに前、飛礫の中を己が武器を振り回して進む雛菊とカスミ。やがて飛礫が勢いを弱め始める中で、二人揃って地面から擦り上げるような斬撃を繰り出す。
「吹っ飛べ、『インパルスドライブ』ッ!!」
「紫電の型……『紫電一閃』!」
カスミの放った衝撃波が、雛菊の放った巨大な雷光の斬撃が、宙を駆ける二閃の刃となり深く触手の網を切り裂いて……マザーの本体、未だ大技の途中なため固まったままの目玉まで続く道が、深く刻まれた。
「それじゃ、後は任せたよクリムちゃん!」
「感謝する、行くぞ! 『アサルトバスター』!!」
カスミに見送られ、クリムは『剣群の王』にて追従していた槍を掴むとそれを両手で構え、凄まじい速度で二人の間をすり抜けて突っ込み、彼女たちが刻んだ道をさらに深く抉り貫く。
突進力に優れた両手槍の戦技によって触手の森奥深くに突っ込んだクリムは、ここまで『剣群の王』に預けていた刀を掴み直すと両手槍は手放し、入れ替わりで槍のコントロールを再び『剣群の王』に任せる。
宙に浮き上がった大鎌と両手槍はクリムの周囲に滞空し、ヘリのローターのように高速で回転を始め、四方から迫る触手からクリムの身を守る盾となる。
一方で、クリムはもう一つ、空いている左手を掲げて詠唱を始めた。
「――『クリムゾン・ウェポン』ッ!!」
ブラッディウェポン改め、血壊魔法『クリムゾンウェポン』。
新たに生み出した、深い真紅の刀と光を呑み込む漆黒の刀、二刀を両手に携えたクリムは、猛然と敵本体である巨大な眼球へと襲い掛かった。
……が、直前で、ガキンと硬質な音を上げて弾かれる刃。
もはやボス戦ではお馴染みとなりつつある『アブソリュートディフェンス』を前に、しかし。
「今更ッ、邪魔だぁあああアッッ!!」
咆哮を上げ、両手の刀でラッシュを掛ける。
同時に、回転する大鎌と両手槍を回転ノコギリのように操って、火花と騒音を撒き散らして絶対障壁を削り……四本の剣による猛攻をまともに受けた障壁は瞬く間に耐久を全損し、罅割れて、砕けた。
「スザク!!」
「任せろ、燃やし尽くせ、『オーバーヒート』おおおォッ!!」
クリムのすぐ後ろを追従していた、白銀を纏う異形の騎士と化していたスザクが、今は全身に炎のようにゆらめく魔力を纏い、無防備となったマザー本体へ襲い掛かる。
……己が魔力を激しく体内で燃焼させ一時的に戦闘能力を大幅に跳ね上げる、スザクの習得したアンチェインスキル『オーバーヒート』。
そんな燃え盛る劫火を纏うスザクの『魔剣グラム』が、持ち主の魔力を受けて刀身に青いエネルギーラインを走らせる。
そして……その刀身の一部が開いて伸長し、刀身より一回り大きな青いエネルギーの刃を纏い、真の姿を露にした。
一目で尋常ではないと見えるその刃を、マザー本体へと突き刺し、全力で抉り、斬り上げる。
青いエネルギー刃の前にはほんの僅かな抵抗すら許されず、瞳孔を逆袈裟に切り裂かれたマザー本体だったが……しかし傷口からはごぽりと大量の透明な粘液が流れ出た後、傷はすぐに泡立ち、裂かれた目玉は元通りに再生する。
その再生力に舌打ちするスザクだったが……だが、見た目に変化は無くとも、その与えたダメージは相当なものだったらしい。
――――ッ!?!?
マザーの声なき声、苦痛に荒ぶる思念波の絶叫が、戦場に響き渡った。
同時に、己に傷つけた無礼者を引き剥がさんと、地面を割って這い出した無数の触手がクリムとスザクの眼前に起立していく。
その量は……網の目などもはや生易しい、全く向こう側が見えないほどの、壁と言える量の触手の群れだった。
「これは……一旦撤退じゃな!」
「……異議無し!」
想定外な触手の量に引き攣らせたクリムとスザクが、お互い顔を見合わせ頷き合う。
そうして二人は即座に転進し――そんな二人が一瞬前にいた場所に無数の触手による津波が押し寄せて、瞬く間に飲み込まれていったのだった――……
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