探索再開

 ――結局、クロウクルアフの件に関してはNTEC単体では手に余るとして、警察庁警備局、隔離世界特別対策室の預かりとなり……その室長である隼人の責任の下、雪那が監視に付くということで決着した。


 一人だけ、そんな内情をそれとなく教えられたクリムは、頭痛を堪えているかのような苦々しい表情で頭を抱えながら、隣を歩くセツナに声を掛ける。


「すまんのぅ……お主に余計な仕事を増やしてしまったか?」

「気にしないでください。それに、あのクロウクルアフの話はお父さんから話を聞いた事があって、まさか本当に会えて嬉しいくらいです!」


 そう言って快諾してくれたセツナの様子にホッとしながら……クリムたちは、瘴気の巨人討伐地点、セフィラの巫女が用意してくれた簡易トランスポート・プラザへと戻って、昼休憩から帰ってきていたギルドの皆と合流したのだった。





 ◇


「――という訳で、新たに仲間となったクロウクルアフだ。皆の者、仲良くしてやってくれ」


 すでに集合していた皆に向け、クリムはそう言って、肩に乗った子竜を紹介する。


「よろしくお願いしますです!」

「よろしくね、ドラゴンさん!」


 雛菊とリコリスら若年組は、フレイヤの時同様に興味津々と言った様子で、機嫌悪そうにそっぽを向いているクロウクルアフへと詰め寄っていた。

 一方で、カスミはその名前を口の中で何回か転がした後、挙手して意見を語る。


「しかし、呼び名も毎回『クロウクルアフさん』って言うのも長いよねぇ。愛称とか決めない?」

「確かに……ドラゴンさんは、何か希望とかありますです?」


 カスミの提案に、雛菊はクリムから子竜を預かり、腕に抱えたまま彼に問いかける。


『ン……前に一緒に居タ奴ハ、クロウ、って呼んでたけどナ』

「なら、特に嫌でなければそれで良いと思うの」

『あア、全然構わねーゼ』


 そうして、クロウクルアフあらため『クロウ』と呼ぶことが、ルアシェイア内であっさりと可決された。


「それじゃ、これからよろしくね、クーちゃん!」

『小娘、お前ナぁ……マァ良いやそれデ』


 諦めたように、がっくりと肩を落とすクロウ。そんな彼を、フレイヤは上機嫌に撫でていたのだった。





 ……と、目下の案件が片付いたところで。


「さて、何やら込み入った話が終わったところで……魔王様、頼みがあるんだが、俺らも一緒について行っていいか?」

「あはは……みんなを待ってたら、パーティー組み損ねて困ってたところなのよ」


 そう声を掛けてきたのは、カスミたちと共にこの場に残っていた、スザクやハル、そしてその仲間たち。


「スザクとハル先輩がついて来るのは構わぬが……疑問だったのじゃが、そちらの二人は?」


 スザクと共に来た黒狼と羊のワービーストの少女たちにチラッと視線を送りながら、ハルに尋ねたクリムだったが……その返答は、ずいっと距離を詰めてきた当の2人から返ってきた。


「はは、なかなか薄情ではないか、後輩くん?」

「ねー、私たち、あんな濃密な時間を一緒に過ごした仲なのにねー?」


 そんな二人の悪戯っぽい言葉に、周囲の皆から「詳しく……説明してください」といった感じの視線が、クリムへと集中する。


 それにヒクッと口元を引き攣らせながらも……だがしかし、クリムには思い当たる節があった。


 故に、声を落としてこそこそと二人に尋ねる。もし予想通りならば、不用意にバラしたら大変だと思ったからだ。


「あの、もしかして……黒乃先輩と、蘭華先輩ですか?」

「ああ、そうだよ、後輩くん」

「うん、クリムちゃん、大正解ー!」


 紅たちが通う杜之宮の芸能科、桜先輩の同級生。現役の役者と声優であり、マジ物の芸能人である二人。

 彼女たちは、なんでもスザクが困っているからと桜に頼まれて、協力してくれているらしい。


「でもさー、困ってるなら声を掛けて欲しかったよねー」

「うん、そうだね。やはり君は、遠慮も過ぎれば薄情だぞ?」

「あ、あはは、すみません、先輩たちは忙しいかと思って……でも、来てくれて、ありがとうございます」


 二人の責めるような視線をどうにか笑って誤魔化しながら……しかし、人手は今は多い方がいい。

 故に、駆けつけてくれた二人にクリムは深々と頭を下げ、礼を述べるのだった。



 ◇


 そうして、新たに加入したメンバーの挨拶も終わり……まず、今後の方針はどうするかという話題に自然とシフトしていった。


「さて……我らがこの後進むルートじゃが、他の主要ギルドはどう進んでいるか分かるかのう?」


 大陸中央への玄関である『緋剣門』は、西の端にある。今クリムたちがいるのもここだ。


 旧帝都は大陸中央部のど真ん中にあるためどこから向かっても構わないのだが……しかし北側は豪雪地帯に踏み込むため、過酷な環境を生きる危険度の高い生物が居る。難易度が高いのはそちら側だろう。


 中央を最短距離で突っ切るのもアリだとは思うが、しかし気になるのは『各地の瘴気を晴らして版図を拡げる』というサブミッションだ。

 これまでの数々の出来事によって培われた運営に対する信頼から、きっと疎かにしたら後々酷いことになるに違いないと、クリムは確信している。


「はい! メイちゃんから連絡があって、ブルーラインの皆さんは南の牧草地帯を回っていくそうです!」

「聖王国もだな。あの二つのユニオンは人数が多いから、面積が広いとこを担当してくれるそうだ」


 雛菊とスザクが、そんな情報を語る。

 確かにあの二国なら、その豊富な人材による人海戦術で、広大な穀倉地帯も高原地帯もしらみ潰しに探索してくれるだろう。それに広い場所の方が、人数を生かした戦術を組み立てやすい筈だ。


「私たち連王国の他のギルドは、中央で『傷』がないか調査しながらゆっくり進むそうだよ」


 そう、クリムたちが不在だった間に行われたユニオン内の話し合いの内容を取りまとめてくれていたカスミが、報告してくれる。


 それによれば、『黒狼隊』と『銀の翼』の二つのギルドを中心にしてユニオン内のギルドを二手に別れさせ、あちこち回りながら旧帝都の西南西を目指すのだそうだ。


「北方帝国は、北の山脈側を回っていくそうなの」


 これは、リコリスからの報告。


「あいつら、絶対強敵探しに行ったじゃろ……」

「あ、あはは……そうかも」


 山岳地帯は、ドラゴン系の翼を持つ巨大肉食生物や、身のこなしが軽く手強い肉食獣、それも険しい環境に適合した強敵が多い。


 あの戦闘マニア共は、それをあえて狙って厳しいルートを行ったと確信してジト目になるクリムに、リコリスも否定できず、苦笑しながら控えめに同意していた。


 何にせよ、皆、協議はしてないにもかかわらず上手いことバラけて進路を決めたようだ。


「では……僕らはまず、ここを目指そうか」


 その報告を受けて考え込んでいたフレイが、地図……セイファート城でダアト=セイファートが保管していた、旧帝国の地理も載っている古びた地図だ……の一点を指差す。


 ――鉱山の街レドロック。


 旧帝国の蜘蛛の巣状に走る鉄道網、西北西の終点。


 そこは、北の山脈から流れる河川により削られ西まで続く深い渓谷の中にある、今クリムたちが居る西端から見て、の街だった。


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