期末試験終了

 ――数日に跨って行われた期末試験も、無事終了した。



 師走に入り、雪もちらほらと舞う昼下がりの街。


 悲喜交々のイベントもようやく終わり、次に来る冬休みへの期待に浮ついた学生たちが練り歩く杜乃宮の通学路を……紅たちいつものメンバーも、談笑しながら一緒に歩いていた。


「いや本当、初日はどうなることかと思ったよ……」

「はは、委員長、お疲れ様」


 すっかり参った様子の委員長を、昴が苦笑しながら慰める。


「ふむ……ちょっと不本意ながら、今回の勝ちは貰ったかな?」

「お主は勉強に専念できてよかったなぁ、羨ましいよ本当に」


 来るべき試験結果発表の日に憂鬱な気分になり、がっくりうなだれる玲央以外の一行。

 事前にテスト勉強は皆で行っていたのが幸いし、自己採点の結果を見れば皆さほど成績は落ちていなさそうで一安心だったが……しかし紅も昴も「玲央に勝つ」というのは今回ばかりはちょっと無理そうだと、少し悔しそうだ。


「……聖王国との戦争、どうやら大変だったみたいだね」

「本当にな。聖王が改めて実権を握って大人しくしてるから、このまま何事もなければいいんだが」


 そんな玲央と昴の会話通り、この数日間、今のところ聖王国に動きはない。セオドライトが言っていた通り、これまで主流派だった者たちがごっそり抜けた穴を再編するために、てんやわんやといったところだろう。


「そういえば紅ちゃんは、こっちで羽が生えてなくて良かったねぇ」

「うん、本当に……あの後ログアウトする際は、リアルでも羽生えてたらどうしようかとマジで緊張したんだよ」


 紅の手を握って隣を歩く聖の言葉に、紅もしみじみと頷きながら、呟く。もしリアルで羽まで生えてきたとなれば、いよいよ引きこもらねばならないだろう。


 もっとも母に聞いたら、まさかとは思うのだが「やろうと思えばこちらでも生やせるぞ」と言われそうな気がして、怖くて聞けていないのだが。

 幸い、あの進化の影響はこちらリアル側には何も無いようで、一安心といったところだ。


「よーし、試験も終わったし、辛気臭い話はやめやめ! みんなでぱーっとヨネダにお茶しに行く?」


 どうやら気を取り直し終えたらしく、そんなことを提案する委員長に、皆は……


「お、いいね。寒くなってきたし、あそこのビーフシチューちょっと興味あったんだよなぁ」

「おー玲央くんってばブルジョアだぁ。うん、私もいいよー」

「聖が行くなら僕も行こうかな。紅も来るだろ?」

「うん、せっかくだし皆で打ち上げと行こうか」


 そう和気藹々と寄り道、買い食いを決定し、帰り道にある喫茶店に向かう紅たちなのだった。





 ◇


 そうして喫茶店で腰を落ち着け、今回の期末試験のあれこれの話題に花を咲かせる紅たち一行だったが……しかし、そんな話は道中でも散々行ってきた。


 そうなると、次の話題は……必然的に、皆が興味津々な話になる訳で。


「ふむ、これが進化後の君か……」

「あまり見るなよ、特にスキル欄は開くんじゃ無いぞ」

「分かってるよ、フェアじゃないからね」


 見せられる分だけに絞って可視化モードで表示された、『Destiny Unchain Online』から呼び出した『クリム』のステータス情報。それを皆が興味津々に見つめながら検分する。


 話の話題は、自然とクリムが果たした進化の話へと移行していたのだった。




「ビフロンス戦で使ってたのは、この追加された種族特性の『魔力撃』かな」


 昴がそう言って、種族進化により新たに記載された赤文字表記されている種族アビリティの一つを指差す。


「HP80%以上の時に限って、MPを消費して通常攻撃強化かぁ……範囲攻撃も遠距離攻撃も可能だったから、結構便利そうだったよね」

「あとは、回避行動時に使える無敵と瞬間移動の『縮地』と、ステータス補正に魔力と力が1.2倍……ってところか。流石にとんでもない強化だな」


 聖と昴が、そう進化特典を眺めて評する、が。


「うーん……」

「紅ちゃん、難しい顔をして、何かあった?」

「いや、確かに強そうなことばかり並んでいるんだけど……」


 どこか釈然としない様子の紅。

 そんな紅の疑念を指摘したのは、実に堂に入った所作で満足げにビーフシチューに舌鼓を打っていた玲央だった。


「ビフロンスを、レイドボスを単騎で圧倒するには、どう見ても足りない、だろ?」

「そう、それ!」


 玲央の指摘に、我が意を得たりと紅が肯定する。

 果たして、ちょっとステータスが高倍率の補正を得て、いくつかスキルが増えただけで、ああも以前は苦戦したレイドボス圧倒できるものだろうか……それが、ずっと引っかかっていたのだ。


「他に、何か目立った変化は無かったのかい?」

「そういえば……随分と、動きやすかった気がする」

「動きやすかった?」


 聞き返す昴に、紅は頷いて説明する。

 あの時、砦内での戦闘では頭は非常に冴えていて、全ての動きがゆっくりに見えるほどだった一方……身体の方は、まるで水中に居るような動きに苛まれていたこと。


 それが、ビフロンス戦で種族進化した後は身体が思うように動くようになったことを、紅はどうにか説明する。


「……なるほど、な」

「玲央、どうかした?」

「いや、ちょっと気になることがあってね……あの後、『クリム』で戦闘はしてないんだよな?」

「それは、まあ。ずっと試験の方にかかりきりだったからね」


 何か心配した様子の玲央に首を傾げつつ、紅は彼の言葉を肯定する。

 それを見た玲央は――よし、と一つ頷くと、急な提案を口にしてきたのだった。



「――すまないがクリム、今日帰ったらセイファート城にお邪魔するから、一戦手合わせ願えないだろうか?」


 ……と。


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