白の森防衛戦 WAVE:5
――インターバルが終わり、またも再開した戦闘。
エイリー直属だという十二人の側近の女官たちは、小〜中型エネミーながら大型エネミーと遜色ない強敵であり、仲間たちが駆けつけるのはしばらく時間が掛かると思われた。
ならば、それまでバアル=ゼブル=エイリーと交戦するクリムたちが持ち堪えられるか、というと。
「守りに入ったら、死ぬじゃろこんなの……っ!」
エイリーの振るった爪が、大地に5本の真っ赤な爪痕を描く。慌ててその上からクリムが飛び退き爪痕の隙間に退避した直後――大地から爪痕に沿って、猛烈な火柱が噴き上がった。
周囲は、もはや一面が地獄の如き炎の海。
あちこち飛び回るオーブが、エイリー本体が、周囲に撒き散らしている炎の勢いは強い。
ただ立っているだけでジリジリとスリップダメージが出るほどなため……まだクリムたちは、まともに接近する事さえできずにいた。
「手数が、多い!」
「これは、洒落になりませんね……!」
先ほどエイリーから放たれた四つのオーブから放たれている、オーブ中心に火炎旋風を発生させる攻撃と、飛び回るオーブ周囲から回転する炎の刃を生み出す攻撃を必死の形相で避けているのは、フレイとシャオの魔術師二人。
それでもどうにか一つの呪文を汲み上げた二人は、同時に場に放つ。
「とりあえず、こんな炎だらけじゃどうにもならん、皆、属性耐性上げるぞ! 『ファイアレジスト』!」
「敵の有利なフィールドで戦ってなんていられませんからね、『アイシクルフィールド」!」
周囲のプレイヤーに吸い込まれるように飛来した、フレイが放った耐性強化魔法が染み渡り、燃え盛っていたフィールドはシャオの放ったフィールド属性変化魔法により凍りついていく。
おかげで周囲からの熱スリップダメージが減少し、これでようやくまともに相対できるというもの。
「クリムお姉さん、援護します!」
そう言って、クリムとエイリーの間を滞空していたオーブがひとつ、リコリスの銃撃により弾き飛ばされて飛んでいく。
――おかげで道が、見えた。
極度の集中により世界全てがスローで見える中、クリムは視界の先……エイリーの放つ両手の炎爪と、オーブの放つ火炎螺旋や炎剣の直撃は、どうにか避けられそうな軌道の隙間を見つけて体を滑り込ませる。
紙一重の隙間を抜けたために体は全方位から襲い来る炎に炙られるが……辛うじて、抜けた。
「抜いた! エイリー、覚悟ッ!!」
『……ッ!?』
懐に飛び込んできたクリムに、少女が目を丸くして驚きの表情を作る。
だがその時すでに、クリムは全身をあえて大剣に振り回されるようにして、目一杯遠心力をつけた漆黒の影剣をその少女の細い首へと、断頭台のような勢いで振り下ろした。
――ギィイ……ィインッ!!
硬質な音を上げて、振り下ろした剣が弾かれる。
今度は、クリムが驚きにより目を見開く番だった。
まさかクリティカルを狙えるなどと都合良く考えていたわけではないが、その手に伝わる硬質な感触はあまりにも想定外だった。
クリムの攻撃を弾いたそれは……
「……アブソリュートディフェンス!?」
以前アドニスたちと戦った際に見た、一定時間内の一定量までのダメージを無効化する防護障壁。
しかし前回は首狩り防止のための暫定措置だったのに対し、今回はどうやら正式実装版らしい。
エイリーに攻撃を阻まれた瞬間、視界端に表示されたもの。
【Absolute Defense】
【8980/10000[0:59]】
と、表示されてカウントダウンが始まる。どうやらこの時間内に障壁を破壊しなければ、ダメージは通らないようだ。
「厄介な……! 雛菊、委員長、スザク、ソールレオン!」
「はいです!」
「合わせます、まおーさま」
「任せな!」
「了解した!」
即座に察した4人が、弾かれて後退したクリムの横を追い越し散開して、四方からオーブが放つ火炎旋風を掻い潜って武器を振りかぶる。
「――桜花の型、撥の型『雪風』ッ!」
雛菊の所持する太刀の刀身が一瞬で氷柱を纏い、それを叩きつけると同時に無数の鋭い刃となって襲い掛かる。
「――貫けぇッ! 『インパルスドライブ』ッ!」
炎を振り切るほどの速度に乗ったカスミの偃月刀が、凄まじい衝撃音と共に障壁側面へと叩きつけられる。
「喰らえ、『ハイヴェロシティ・ピアッシング』!」
スザクの紅い剣が、幾閃もの残像を描きほぼ同時に一点に集中して抉りつける。
「行くぞ、剣聖技『螺旋衝』ッ!」
雷光を螺旋状に纏うソールレオンの右手の剣が、衝撃を撒き散らしながら障壁に激突する。
四方から繰り出された貫通力の高い刺突攻撃を前に、エイリーの周囲のアブソリュートディフェンスはみるみるゲージを全損し――無数の光跡となって砕けて宙に消えた。
「セツナ、合わせろ! 『レゾリューション』ッ!!」
「任せてください、『アサシネイト』ぉ!!」
クリムの空中から放った両手剣の斬撃は下弦の月を描き、エイリーの右肩から左腹部までを斬り裂く。
同時に、今の今まで姿を消していたセツナが背後から放った斬撃が、右脇腹からまるでクリムの『レゾリューション』とX字を描くように振り切られた。
今度は間違いなく直撃。エイリーのライフゲージが微かに、しかし目に見えて減少する。
だが……普通であれば致命傷のはずのその傷跡は、やはりというか見た目は瞬く間に服さえ傷ひとつなく再生する。
『……対応が早くてびっくりした。ちょっと夜の精霊さんたちを甘く見てた、かも』
「それは光栄じゃな、まるで効いてる気がせんがのぅ……!」
『当然。妾、強いし』
そう言って自慢げな様子を見せるエイリーが、無造作に手を振るだけで、周辺にまたも湧き上がる業火。
その場に止まっていては骨まで焼き尽くされると、ひとたまりもなく後退するクリムたちへ、エイリーの掌がスッと向けられ――
『でも、妾に傷を与えたのはすごい。だからちょっとご褒美』
「ッ、何かやばい、皆、回――ッ!?」
『――“ダークプロミネンス・ザ・ランス”』
それは、ここに来て初めて彼女の見せた、ごく短い詠唱のようなものだった。
クリムが皆に危機を伝え終わるか否かという、ほんの僅かな時間。たったそれだけの時間で――
周囲からより集められ少女の手に集った炎が、小型の太陽が如き熱火球となった。
それは一瞬で引き絞られ、鋭い槍の形に変化する。
そこから更にグッと凝縮されて、炎だったその槍は、白く、眩く、輝く。
直後――まるで容器がひび割れ中身が内圧によって溢れ出したように、槍は直径幾メートルもの巨大な閃光となって、クリムたちの直前まで居た場所を飲み込んだのだった――……
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