次なる目的地は
「――と、いう訳で賞を貰っちゃいました」
「ふーん」
そう話を締め括るクリムに、冷たい返事を返すルージュ。
クリムは、彼女のその不満げな様子にただ苦笑を浮かべながら、しかし一方ではもっと構えとばかりにピッタリ寄り添うようにくっついている少女を抱く手に力を込める。
――クリムが今居るのは、いつものセイファート城の中庭。
学園祭が終わり帰宅したクリムは、珍しく出迎えに出てこないルージュを不審に思い『Destiny Unchain Online』へログインした先で……すっかり拗ねていたルージュにちくちく毒を吐かれながら、せがまれるままに、学園祭の話を語り聞かせていたのだった。
そんなクリムの膝の上では……最初よりはだいぶ落ち着いたものの、まだ少し機嫌の悪そうなルージュが、クリムの腕の中に収まるようにして膝の上に腰掛けていた。
「むー、私も行きたかった……」
「ごめんねー、学校行事だから、連れて行く訳には行かなかったんだよ」
「それは分かっては居ますけど……むぅ」
ルージュを連れ歩くためのアプリは周囲の情報を収集しているため、校内で使用するのは色々とまずいのだ。杜之宮は芸能科があるため、その辺のチェックは特に厳しいという事情もある。
もちろん報道陣のように事前に申請して撮影できる場合もあるが、今回に関しては残念ながら許可が降りなかった。
そうしてすっかり拗ねてしまっていたルージュは、しかし一方で埋め合わせろとばかりにクリムに甘えていたのだった。
だが……クリムはそんな少女の扱いに困っている一方で、内心でこっそり喜んでもいた。
以前のルージュなら、クリムを困らせるような事はしない「いい子」で居たことだろう。以前の彼女はクリムに見捨てられ行き場をなくす事を恐れていたからだ。
しかし今の彼女はわがままを言ってクリムを困らせている……それはつまり、クリムが自分を見捨てる事は無いと信頼してくれている事でもあるからだ。
ならばお姉ちゃんとして、妹分のこのくらいの可愛いわがままは許容してあげるべきだろう。そう苦笑しながら、その頭を撫でてやる。
「本当にごめんねー、今度、どこかへ一緒に遊びに行こう?」
「うー……約束ですよ?」
そう言って、肩から力を抜いて頭をクリムの方へ預けてくる彼女に、ホッと安堵する。どうやら機嫌は治ったらしい。
「それで、私が不在中に何かあった?」
「あ、そうでした。大陸南西部に向かう橋の修理が完了したと、エルミルさんから報告がありました」
「本当!?」
エルミルにはあの後、城砦都市ガーランドを中心としたガーラルディア大橋周辺の全権を任せていた。協力NPCとして配下に加わったアルベリヒも、彼に一任している。
そんな彼は今、積極的にあの地方一帯の修繕を行なっている。もうだいぶ人が暮らせる目処も立ち、近いうちに移住者なども募る予定だそうだ。
そして……ついに砦から南西部分の橋も開通したらしい。これで、大陸南西部の探索が可能になった。
「後は……ジェードさんから言付けです。ヴィンダムの方で不穏な動きがあるから、しばらく向こうで様子を見ているそうです。南西部の探索に同行はできなさそうって残念そうに言っていました」
「ジェードさんが?」
「はいです、なんでも、向こうに一大勢力を築いているギルドの動向が気にかかるらしいです」
そのルージュの言葉に、クリムも少し考え込む。
似た話は、学園にて部室でスザクからも聞いていた。始まりの街ヴィンダムはなんだか不穏な空気になりつつあるから、サクラ共々拠点を移動する予定だと。
「ひとまず、何かあったら連絡するからお姉ちゃんはやるべき事を優先するといい、ってジェードさんは言っていました」
「そっか……伝言ありがとう、すっかり私の秘書役も板についてきたね」
「えへへ……お役に立てて嬉しいです、お姉様ぁ」
働きぶりを褒めてやると、先ほどまでの不機嫌はどこへやら、もっと撫でてとばかりに頭を擦り付けてくる少女に苦笑しつつ、望み通り撫でくりまわしてやる。
すっかり蕩けているその様子を眺めながら……クリムは、この後自分たち『ルアシェイア』がやるべき事を頭の中で反芻する。
――現在、何より気になっているのは……すっかり伸ばし伸ばしになってしまっていた、以前に獅子赤帝ユーレリアから頼まれていた、あの案件。
この『泉霧郷ネーブル』の南の山脈に隔てられた場所にあるという、世界樹セイファートが存在すると言われる『妖精郷』の捜索だ。
……だが、ついにはこちら側からその入り口を発見することはできなかった。
一応は、中に意味ありげな魔法陣の刻まれた祠を山脈の麓で見つけたが、動力か何かが足りないらしく、まるで動く気配もない。
となれば、入り口は別の場所にあると考えるべきだろう……最も怪しいのは、ガーラルディア湖を経由して大陸南西部からぐるりと回り込んだ先の、ちょうどクリムたちの拠点『泉霧郷ネーブル』からは山脈を挟んで反対側に広がる広大な森林地帯。
ダアトが教えてくれた、その場所の名は――
「――
エルフ……言わずと知れた、ファンタジーの華。
美しい姿を持ち、自然を愛し、森を住処に清貧な暮らしを営む――しかしクソ頑固でプライドが高く、排他的な性格をした種族だ。
その王国となればきっと、一筋縄では行かないんだろうなぁ……そう、クリムは遠い目をして、ポツリと呟いたのだった――……
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