天空の魔王たち

 ――そして、緊急大規模レイドバトル当日。


 ――ヴィンダム中央庁舎屋上。




「それで……リコリスは結局、レイドバトルのほうに行くって決めたんだ?」

「はいなの、かなり迷ったんですが……パパがちゃんと記録してくれるらしいから、私はママたちの援護をしてきますです」

「うん、頑張ってね?」

「はいなのです!」


 そう言って、リコリスが特等席である庁舎屋上からワイヤーを使い飛び降りていく。

 そんな姿を見送った後……クリムは、ふぅ、と大きく息を吐いて自分に用意された椅子へと腰掛ける。


「で、屋上に来たはいいが」


 周囲を見渡して、頭痛を堪えるようにこめかみを指で押さえるクリム。


「なんなんじゃろうな、この状況……仮装大会かの?」

「いや、まあ。運営には最大限怪しげに振る舞ってくれと言われたし、期待には応えたくなるだろう?」

「僕らなりに、よくできてると思いますね。自画自賛したい気分ですよ」


「ああ……じゃがそれは、『怪しい仮装をしてこい』という意味ではなかろうに……ッ!!」


 ソールレオンとシャオの言葉に、たまりかねたクリムがガーっと怒鳴る。

 そんな様子を、二人を除いた他のギルド員は哀れむように見守っていたのだった。




 ――ちなみにソールレオンは、白いスーツに黒いシャツ、長い銀髪は後ろでまとめている。


 そこまではいい。だがしかし、背後に控える取り巻きが問題だ。

 なぜならば、皆一様にビシッと決めた高価そうな黒を基調としたスーツと、黒サングラスという出で立ちなのだ。



「特にシュヴァルとリューガー、お主らはなぜそんなマフィアの武闘派にしか見えん貫禄を醸し出しとるのだ……ッ!!」

「……まぁ、俺の場合似たようなモンだしな」

「……ぬう」


 飄々と答えているシュヴァルは、いったいリアルで何やってる奴なのか気になって仕方ない。

 一方でリューガーは、少ししょんぼりしていた。どうやら怖い見た目を気にしていたようだ。


 横ですっかりツボに入ってしまったらしく蹲って肩を震わせているラインハルトは、まだ幼い見た目もあり、そこまで酷くはないのだが……それでもやはり、堅気には見えない。


 他には、同じく黒スーツとサングラスで敏腕女性ボディガードといった様子のエルネスタも居たが、ちょっとだけ恐怖を感じる目でクリムのほうを睨んでいたので、そっと目を逸らすクリムなのだった。



「あはは、北の方々はイタリアあたりのマフィアにしか見えませんよねぇ」

「「黙れチャイニーズマフィア」」

「……おっと。ひどいなぁ」



 クリムとソールレオンを始め、皆に突っ込まれたシャオが肩をすくめる。


 ――だが、それもやむなし。なぜならば彼自身、漢服に小さな丸サングラスというあからさまに狙い澄ました格好なのだから。

 更には横にチャイナドレス姿をした妹のメイを、背後にはバラバラではあるが中華風の衣装を纏った配下を侍らせているのだから言い逃れはできない。


 そうして、イタリア風と中華風の二大マフィアが睨みを利かせているこの屋上は……もはや「ファンタジーってなんだっけ?」とクリムに首を捻らせる様相を醸し出しているのだった。


「全く……お主らは悪ふざけが過ぎるじゃろ。また運営が頭を抱えておるんじゃないか?」


 呆れたように、その愚痴るクリムだったが……その言葉に、今度はソールレオンとシャオが、心外だとばかりに目を不満気に細めた。


「ひとつ、さっきからずっと君に言いたいことがあったんだが」

「奇遇ですね。僕も君に、言いたくてたまらないことがあったんですよね」

「な、なんじゃお主ら……?」


 急に睨まれて、クリムは内心でビビりながら、ゴクリと喉を鳴らして彼ら二人の言葉を待つ。


「君が言うな!」

「あなたが言わないでくれませんか!」

「ほっとけ!?」


 そんな二人の猛反撃に、反射的にクリムは心外だと吠えた。


 ――しかし、二人の反論もやむなし。


 今のクリムの服装は……黒を基調とした、ゴスロリ風ロングドレス姿だった。


 幾重にもフリルが重ねられたスカートは、地面すれすれに届くほど長い。

 大胆なノースリーブの形状のため剥き出しの白い肩が外気に晒されており、二の腕より先は同じく中指で留めるタイプの、レース編みのロングフィンガーレスグローブに覆われている。


 その姿は、可愛らしくありつつもエレガント。元々のクリムの容姿も相まって、まさしく「お人形のような」可憐な姿をしていた。


「うちの職人が三日でやってくれました!」

「ぃやかましいわ!」


 アドニスと同じ型のクラシックメイドドレスに身を包み、そう自慢気に曰いながらグッとサムズアップしているのは、今はお湯を注いだ紅茶のポットにカバーを被せて蒸らし中のフレイヤ。


「ちなみにそのドレスは実際にお姫様に仕えていた経験のある執事とメイドさん監修だ」

「何やってんだお前ぇ!?」


 そう言ってドヤ顔で眼鏡の位置を直しつつ光らせている、こちらはエルヒムと同型の執事服に身を包んだフレイ。こちらはこちらで、屋上の見学席に設えたテーブルに、皆の分のお茶菓子を配膳し終えたところだった。


 そんな二人は、自分の仕事は一段落とばかりに、もはや歩くことなど「何それ?」とばかりに長いスカートに四苦八苦し、まともに歩くのも億劫になったためにぐったりと椅子に身を預けているクリムのそばに、まるでお嬢様に仕える使用人のように侍っている。


「おぬしら、ここしばらくツァオバト兄妹のもとに通っていると思ったら……」


 どうやら、ガチの作法を習っていたというのだから笑えない。



「というわけで正直、この中に君が囲まれているとな、一番得体が知れなく見えるの君だから」

「マフィア二つを転がすヤバい黒幕に見えますよね」

「なんでじゃ解せねー!?」


 なぜか色物集団のトップ認定されたクリムのそんな悲痛な声が、イベント直前で盛り上がりを見せるヴィンダムの上空へと響き渡るのだった――……




 ――――――

 PC name:リコリス

 種族:融機種


 所属ギルド:『ルアシェイア』


 ■基本能力ベーススキル


 HP:1250

 MP:770


 生命力(VIT):50/100(0)

 精神力(MND):80/100(-10)

 筋力 (STR):50/100(+10)

 魔力 (MAG):80/100( +10)



 マジックエンハンス 80/100



 ■所持スキル


 ・マスタリースキル


 片手武器マスタリー 30/100

 ガンマスタリー   100/100

 ライフルマスタリー 100/100 (※)


 アーマーマスタリー 51/100



 ・ウェポンスキル/マジックスキル


 短剣     30/100

 魔機銃    100/100

 支援ユニット 60/100(※)


 機工師   65/100

 (機術+魔機術)



 ・生産スキル


 錬金 30/100

 鑑定 30/100



 ・日常スキル


 落下耐性 80/100

 瞑想   50/100

 疾走   50/100

 自然治癒 20/100

 スカウト 80/100

 (隠密+観察眼)



 ・補助スキル


 電子の目  100/100

 思考加速  50/100

 鎮静化   20/100

 千里眼   50/100



 合計 1156/1200

 生産 60/60



 ■特性


『機術』

『機械の体』

 ※物理ダメージ×0.8% 各種魔法習得不可



 ・EXドライヴ


 ■ラフ=■■ュ■■ル【まだ開示されていません】




 ■装備特殊効果


【サンダルフォンリング】

 『マルクトの光』

 攻撃時、確率で追加ダメージを与える。



 ■補足


【ライフルマスタリー】(二重マスタリースキル)


 習得条件:ガンマスタリーSLv100


 効果:ライフル系装備時にさらに攻撃力に補正を受ける。



【支援ユニット】


 習得条件:いずれかの遠隔攻撃スキル&魔機術 SLv100


 効果:周囲を浮遊し本体と連動して射撃するデバイスを使用可能になる。


 ――――――

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