イベント予告
――配信再開から三日後。
「うぐぅ……また新たに溜まっておるな」
今日も今日とて放課後にログインしたクリムは、執務室にてギルドのメールボックスを開いて呻き声を上げていた。
そんなクリムの様子に、心配して見に来ていたダアトが申し訳なさそうに表情を曇らせる。
「すみません……私のせいで」
「あ、いや、別にダアトが悪いわけではないぞ? おかげで寒くなりかけた懐も温まったしな」
むしろ、配信としては異例の大成功。嬉しい悲鳴というやつだ。
先日の配信がきっかけとなり、絶え間なく届く入団希望。この数日のクリムの仕事は、すっかりこの入団希望に返信することになっていた。
「まあ、リュウノスケのアドバイス通り入団について団の紹介に明記していたのは正解じゃったな。あれがなければ逆恨みされても文句は言えぬ」
元々ルアシェイアは、リュウノスケがあらかじめこうなる可能性を想定していたおかげで、配信の視聴者からは採用しない、実際に交流がある者だけ迎え入れると公言している。
加えてクリムが一件一件馬鹿丁寧なお断りメールを送っているのもあって、この大量の入団希望を全て断っていることは問題になっていない。
一方で、嬉しい誤算もあった。
先日の動画を見て、観光に来たい、アドニスやダアトらに会いたいと、友誼を結びたいというギルドが数多く現れたのだ。
カーテンを少しめくり、外を覗くと……そこから見える中庭には、木剣を構えた男の子たちの姿があった。皆、自分の意思で剣を学びたいと言ってきた、寺子屋の生徒たちだ。
そんな少年たちに剣の手ほどきをしているのは、今は執事であっても本職は騎士であるエルヒム……そしてもう一人、彼の指示によって打ち込み稽古をしている少年たちの相手役をしている青年が居た。
真っ先に友好ギルドとして手を挙げたのが、彼――ギルド『銀の翼』のギルドマスター、エルミルだった。
領土を持たないフリーランスのギルドである彼らは、配信を見てクリムたち『ルアシェイア』の傘下に入りたいと言って来てくれた。
元々友好関係にあり、その人となりもよく知っているため、その申し出はありがたく受けた。
――まぁ、おおかた今度はダアトに惚れたんじゃろうがの?
そんなことを、こっそり考えて苦笑するクリム。当のダアトはというと、そんなことはつゆ知らず、一人笑うクリムにただ首を傾げていた。
……だが、知らない者よりはずっと信頼できるのは間違いない。彼らには、ゆくゆくは鬼鳴峠の統治を任せたいと考えているクリムなのだった。
その他、傘下にとまではいかないまでも、友好あるいは同盟関係になったギルドもいくつかある。
一度友好関係を結ぶと、裏切りは不可能ではないもののデメリットがあまりに多いため、そうそう裏切れるものではない。ひとまずは安心というものだ。
そんなわけでクリムは今日も今日とて入団希望のメールに丁寧なお断りの返事を作成していたところ……バタバタと、クリムの執務室に駆け込んでくる二つの小さな人影があった。
「お師匠! お師匠! 大規模レイドバトルですよ!!」
「ドラゴンです! おっきなドラゴンなの!!」
興奮気味に駆け込んできたのは、雛菊とリコリスの年少コンビ。
今や押しも押されもせぬトッププレイヤーのはずの二人であるが、その目は年相応の好奇心にキラキラと輝いている。
彼女らが掲げているイベント告知のページは、最近ゲーム内を騒がせている来週のイベント……『来襲、邪竜ファーヴニル』のもの。
だが……そんな彼女たちには申し訳ないが、クリムには伝えなければならないことがあった。
「あー、すまぬな。今回は、我ら三魔王はできれば参加しないでほしいとの達しなのじゃよ」
「……え、何故です?」
困ったように苦笑しながら伝えたクリムの言葉に、ポカンとする二人。
「それがな? 我らは高いところで意味深に皆の戦いを観戦するポジションじゃて。強制ではないのじゃが、公式から『高いところで意味深に笑っていて欲しい』と依頼があっての」
はじめは、ソールレオンもシャオも「はぁ?」という顔をしていた。
だが、裏に潜む『頼むからお前ら三人自重してくれ』という切実な願いもそこはかとなく感じ取れ、公式にしてはわりと奮発したポイントを餌に、三人は今回は見送りとしたのだった。
それに……おそらくは、噂ばかりが先行している、『魔王』と対になる『勇者』の称号。それを、運営が重い腰を上げ、ようやく解禁するつもりなのだろうというのが三魔王会議の総意だった。
「じゃがな、代わりに特等席で観戦可能じゃぞ。なんせ『ヴィンダム中央政庁』の屋上という、高度制限の上の特等席から皆の奮闘を見下ろせるからの」
「それは……ちょっと体験してみたいの」
そんなクリムの話に食いついたのは、なんだかんだで高い場所が好きなリコリス。
本来、プレイヤーが入れない場所にあるヴィンダム中央の丘上にある政庁。
その屋上からはヴィンダムの街全体を一望することが可能であり、なかなかに得難い体験ができること請け合いだった。
「フレイヤとフレイはそんな訳で、我と共に見学組じゃな」
ところがそんな二人は何か企んでいるようで、アドニスとエルヒムの従者兄妹のところに通っている。クリムがそれとなく尋ねても、頑として教えてくれないが。
ジェードとサラ、そしてカスミの三人の新参メンバーは、やはり挑戦したいと言っていた。あとは、お主らは好きにするといい……そう告げるクリムだった。
「私は、やっぱりボスと戦いたいです!」
「うん、雛菊ならきっといい成績を出せるよ、頑張っておいで」
バトルマニアの気がある雛菊は、そう即決。
新たに習得した『対大型エネミー用の型』が試したくて仕方がないらしいその様子に、クリムはクスッと笑うのだった。
一方で……
「私は……うーん、ちょっと悩みますなの」
リコリスのほうは、大規模レイドバトルにも普段入れない景色にもどちらも興味があるようで、すぐには決められないらしい。
「参加するにしても見学するにしても、お主らも後悔せんように決めると良い。まだ時間はあるからの」
「はいです」
「はーい」
クリムの締めくくりの言葉に、二人は元気よく返事を返すのだった――……
――――――
PC name:雛菊
種族:銀狐族
所属ギルド:『ルアシェイア』
■基本能力ベーススキル
HP:2150
MP:450
生命力(VIT):85/100(-10)
精神力(MND):50/100(0)
筋力 (STR):85/100(+10)
魔力 (MAG):70/100( +10)
フィジカルエンハンス 85/100
■所持スキル
・マスタリースキル
両手剣マスタリー 100/100
刀剣マスタリー 90/100 (※)
アーマーマスタリー 51/100
・ウェポンスキル/マジックスキル
刀聖 90/100
(刀&抜刀術)
応変『桜花の型』 70/100 (※)
応変『紫電の型』 55/100 (※)
強化魔法 100/100
・生産スキル
分解 30/100
鍛冶 30/100
・日常スキル
軽功 42/100
超回復 15/100
隠密 90/100
観察眼 70/100
起死回生 50/100
・補助スキル
戦闘技能 50/100
幻惑 75/100(※)
・EXドライヴ
蒼■炎■刃 【まだ開示されていません】
合計 1153/1200
生産 60/60
■特性
『蒼炎』
『夜目』
■装備特殊効果
【鬼切の太刀】
『鬼滅』
この武器で一定以上のダメージを与えるたび、対象のbuffをランダムで一つ消去する。
【ザドキエルの外套】
『ケセドの加護』
一日一回、30秒の間風の結界を纏い、一定以下の威力の飛び道具を回避する。
■補足
【刀剣マスタリー】(二重マスタリースキル)
習得条件:両手剣マスタリー&刀 SLv100
効果:刀・曲刀装備時にさらに攻撃力に補正を受ける。
【応変『桜花の型』】
習得条件: 刀剣マスタリー SLv70
効果:刀・太刀使用時に『桜花の型』にスタイル変更。使用可能な戦技が『桜花の型』専用のものに代わり、対人攻撃力が上昇する。
【応変『紫電の型』】
習得条件: 刀剣マスタリー SLv70
効果:刀・太刀使用時に『紫電の型』にスタイル変更。使用可能な戦技が『紫電の型』専用のものに代わり、対大型エネミー攻撃力が上昇する。
【幻惑】
習得条件:刀聖 SLv70 & 強化魔法 SLv100
効果:スキル熟練度に応じ、自身の周囲に様々な幻影を投影できるようになる。70以上で攻撃判定を持つ自身の幻影『分け身』が解放される。
0〜 :桜
50〜:蝶
70〜:分け身
……など
――――――
【後書き】
ちなみに応変は他に『氷雪の型』と『月輪の型』があります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます