中継地点

(´・ω・`)道中はダイジェストで出荷よー

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「おーい、宿場町に着いたが、大丈夫かー?」

「うぅ……砂漠を渡るなんて聞いてない……」

「悪かった、オレも言うの忘れてた。でも君は本当に太陽光に弱いのな、さすが吸血鬼」


 真っ青な顔で、リュウノスケの背中から弱々しい抗議の声を上げるクリム。

 そんなクリムを背負いながら、リュウノスケは申し訳無さそうに頭を掻いていた。






 出発点である『黒の森シュヴァルツヴァルト』を抜けた次のエリアは、ネーブルから流れていく河沿いに降っていく峠道。その大半は雲が覆っており、日光に関しては問題は無かった。


 ちなみにこの場所には、魔族である鬼人オーガ族が集落を形成しており、同じく魔族『ノーブルレッド』であるクリムは初期状態から友好関係にあった。


 血の気の多い鬼人からは勝負を挑まれたりしたものの……武人である彼らは皆優れた技量の持ち主で、ヒリつくような緊張を孕んだ手合わせは、クリムにとって、なかなかに楽しめるバトルだった。


 おかげですっかり熱中してしまい、三戦ほどしたところで呆れたリュウノスケに首根っこを掴まれて退散する羽目になってしまったのだった。


 ――ちなみにこの時、三勝目を挙げた際に、里長である『サムライジェネラル:ア・ガ族のギ=テル』というNPCから刀スキルを習得できたのだが……クリムは現状上げる予定も無いために、宙に浮く結果となってしまった。


「んじゃよ、機会を見てSNSに情報を拡散して構わないか?」

「うん、私も別に情報で稼ぐつもりはないから、構わないよ」


 きっと、刀スキルを切望しているプレイヤーは多いはず。故に、クリムはリュウノスケの頼みに、そう快諾したのだった。

 ただし――その際に、『泉霧郷ネーブル』は自分がエリアマスターになりたいから、情報は秘密にしてとちゃっかり交換条件を出すのだったが。




 その次は、やや植生がまばらな高原地帯。空気は涼しく過ごしやすいが、標高が高いために日差しは強くやや辛い。しかしこちらもまだ、耐えられないというほどでもなかった。


 あちこちにコロコロとした羊や山羊たちがたむろしている牧歌的な光景は心温まったが、ところどころに見上げるほど大きなが地響きを上げて徘徊しており、ちょっとしたスリルがある場所だった。


 ……実のところクリムは一度戦ってみたかったのだったが、殴りかかろうとしたところ、顔を真っ青にしたリュウノスケのゲンコツを貰ってしまい、泣く泣く諦めたのだった。


 ――戦ってみたかったなぁ、あの触手の生えた変な山羊。


 今度、機会があれば挑戦しようと目論むクリムだった。




 だが……その次のエリアに、昼時間に踏み込んだ時の絶望感は半端無かった。


 なんせそこは……見渡す限り砂が広がる、遮蔽物すらなくジリジリと容赦無い陽光が照りつける、一面の砂漠だったのだから。


 その時の様子が公開配信されていたら、おそらくはクリムの表情が映ったところで画面がセピア色となり『To Be Continued 』の文字が挿入される加工が施されていただろう……そう思わされるくらいに見事な絶望顔だったと、リュウノスケが笑いながら評していた。


 結果、どうにかリュウノスケの助けを借りずに歩こうと意地を張って頑張ってみたクリムだったが、ものの三十分で轟沈。


 もはや一歩たりとも動けぬ瀕死と化したクリムは、以降はずっと外套を被せられてリュウノスケに背負われ、その背中でほぼ死んでいたのだった。




 ――ちなみに『Destiny Unchain Online 』の世界での一日の周期は20時間と、若干地球よりも短い。


 これは、このゲームにおけるNPCが実際にこの世界で生活を送っているために、従来のゲームのように2時間とか半日とか、あまり極端に周期を短くすることができないことに起因する。


 かといって、地球と全く同じスケールの周期にしてしまうと今度は、例えば夜しかログインできない社会人プレイヤーが夜時間しか遊べない、などということが起きてしまう。


 なので、一日20時間という中途半端な一日のサイクルは、そのようなことが無いようにするための配慮らしい。



 そうして今日一日で三つのエリアを踏破したどり着いた、砂漠の出口となる峡谷の、崖下に栄えた宿場町。

 ここは峡谷の奥に水源があるらしく、小さいながらも清流が流れており、植物の緑も生い茂っていた。


 そんな、川を中心に左右にそびえる崖を掘ったような建物の一つ、宿屋に部屋を取った二人。


「はぁあ……生き返る……布団サイコー」

「はは、お疲れさん」


 陽の当たらぬ屋内に入った途端に元気を取り戻したクリムだったが、ここまでの疲労は如何ともしがたく、即座にベッドへダイブする。


「うん……リュウノスケも、ありがとね」


 枕に半分顔を埋めたまま、隣のベッドに座るリュウノスケへと笑い掛ける。


「……だから君は、そういう顔を男に軽々しく見せないようにだな……」

「……?」

「……いや、なんでもない。とにかく気をつけろ、な?」


 リュウノスケの苦言に、首を傾げるクリムなのだった。




 ――ちなみに、ゲームからログアウトするのになぜわざわざ宿屋に泊まるのかと言うと。


 自室や借り部屋、ダンジョンのセーフハウス、そして宿屋の客室。こうした宿泊ポイントでログアウトすることで、ログインしていなかった時間に応じてスキル成長率に上限有りの成長ボーナスが貯まるためだ。




「ゴホン。さて、そろそろいい時間だが、クリムは落ちないのか?」

「あー……うん、このあと少し町を見て回ってから落ちるよ」


 本当はログアウトできないのだが。

 さすがに、それを彼に教えるのは憚られ、曖昧に誤魔化す。


「それじゃ、オレは落ちるわ。また明日な」

「うん、ありがとう、また明日」


 そう挨拶し合うと、すぐにログアウトしたリュウノスケの姿は消えてしまった。

 一人ぽつんと残された客室の寂しさに耐えかねてNLDのメッセージ受信箱を開くと……移動中には気付かなかった、大量の未開封メッセージが残っていた。



『私たちも、明日にはログインできそうだよー!』

『絶対すぐに追いついてやるからな、覚悟しておけ』

『昴ってば、早く紅君と遊びたくてソワソワしてるんだよ。素直じゃないこと言ってても気にしないであげてね(笑)』

『分かってると思うが、聖の言うことを真に受けるんじゃないぞ』



 大量に届いていた聖と昴からのメッセージを流し見て、思わずクスリと笑う。


『俺も、明日の夜にはウィンダムに帰れると思う。戻ったらすぐ連絡するね?』


 そう、今更ながらメッセージを返すも、リアル時間はすでに夜の0時。

 さすがに返信は無いか……と思ったら、ピロンと着信が鳴った。


『うん、待ってるねー!』


 即座に返ってきたのは、聖の返信。

 おそらく昴は明日早く起きるためにさっさと寝てしまって、聖は待ち遠しくて寝付けないのだろう。


 聖からしか返ってこない返信からそんなことを想像し、クスッとまた笑いが漏れた。


『それじゃ、お休み。また明日』

『うん、また明日!』


 今度は即座に返ってきた聖からの返信に、胸の内に暖かいものを感じながら、ゴロンとベッドに仰向けになる。

 ずっと歩いてきたせいか、すぐに訪れた睡魔に身を委ねながら……クリムは、ぼんやりと思う。


 ――早く会いたいなあ


 それは……この世界から出られなくなって、初めて感じる郷愁だった。

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