都会の憂鬱について

雨乃夜

第1夜 夜のひとおもい

電気をつけるのも面倒な、気だるい夜。


缶ビールをなんとか冷蔵庫から取り出して、iQOSにヒートスティックを差し込んだ。フラつく足取りで窓枠に腰掛ける。


遠く、ハイウェイの灯りが流線型を描いて、ビル灯りは直線的に広がっている。

別に電気なんて付けなくたって、都会の片隅はけっこう明るい。


−−あぁ、疲れた。


口から漏れ出す幾分かの煙とともに意識はとろけて、私はなぜそうしたかったのかも忘れて窓にもたれ掛かった。


ふと視線を落とすと、缶に付着した水滴が柔らかに光を反射している。


泣いているみたいだ。


親指でなんとなく水滴を拭って、缶を持ち上げる。


私は、多分笑っていた。

こんなマンションから見えるどこにでもある夜が、いつまでも続けばいいのに。


そんな誰にも届かない、自分だけの想いを胸にしまって。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る