悼み方

この時、戦いに参加した成体おとなオオカミ竜オオカミは実に六頭、それにジャックを加えた七頭でかかってようやくラーテル竜ラーテルを撃破することができた。


犠牲は、幼体こども成体おとな、それぞれ一頭ずつ。


体格の点ではまったく勝負にならないはずの相手だというのに、これである。ラーテル竜ラーテルという獣の恐ろしさが思い知らされる。


とは言え、犠牲は出しつつも何とか退け、オオカミ竜オオカミの群れに安堵が広がる。そして今度は、犠牲になった仲間の体に牙を立てた。ラーテル竜ラーテルの肉は固すぎて好まれない。ここまでして倒したというのに、餌にならないのだ。ラーテル竜ラーテルの死骸は、虫などに食われ微生物に食われ、そうして土に還っていくことになる。


対してオオカミ竜オオカミの場合は、死んだ仲間を食うことも少なくない。いわばこれが彼らの<悼み方>なのだろう。死んだ仲間の血肉を取り込み、自分達の命とするというのが。


人間にとっては残酷であり嫌悪感すら覚えるそういう習性も、野生においてはそれほど珍しいものでもない。人間がむしろ例外なのだ。


ジャックも、死んだ幼体こどもの体に食らい付き、その命をいただいた。守れなかったことは残念でありつつ、だからこそその死を無駄にしない。ラーテル竜ラーテルに与えられた痛みも忘れない。次はもっと確実に仕留めようと誓う。


同じ様な犠牲を出さないためにも。




だが、ラーテル竜ラーテルも非常に危険な敵ではあったが、やはりそれを上回るのが猪竜シシという獣だった。


ラーテル竜ラーテルの一件があった次の日、ジャックがいるオオカミ竜オオカミの群れが、地面を掘り返し芋に似た植物の地下茎を貪っていたところに出くわした。


猪竜シシは、危険な獣であると同時に、オオカミ竜オオカミにとってはご馳走とも言うべき獲物でもあった。適度に脂肪が乗った肉がとにかく美味いのだ。加えて、大きいものでは百キロを超えることもあるそれは、一頭倒せば群れの全員の腹を満たすこともできる。そして群れでしっかりと連携して挑めば、犠牲を出さずに仕留められる可能性は高い。


反撃を食らえばもちろん大きな犠牲が出る危険性も高いものの、リスクに見合うメリットはある。だから狙う。幸い、今回の猪竜シシは地下茎をむさぼるのに夢中でまだこちらには気付いていないようだった。だから身を屈めて草の陰に隠れつつ、息を殺してゆっくりと近付く。と同時に、扇形に広がって複数の方向から同時に襲い掛かるのだ。これによって相手の混乱を誘い、適切な反撃ができないようにするという狙いもある。


ジャックは、そんな成体おとな達の狩りの様子をしっかりと見て学ぼうとしていたのだった。


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