キラーズハイ

アリエッティ

第1話 殺し屋の証明

 腕の良い殺し屋に共通する者は何かって?

殺しの技術か報酬の高さか、惜しいな。


「終わりだ、セバスチャン。」

黒い弾丸が脳天を射る、明るい陽の元黒い豹が舞い踊り標的をうつ。


「己の殺し方、皆それを持ってる。」

特殊なモノもあればシンプルなものもある。

彼のは特段特徴が無く、シンプルと呼ばれるに正しいものといえる筈だ。


「終わったぜ、ボ〜ス?」


『もう終えたか、流石だな。

黒豹こくひょうのトライブ、報酬はしっかりと振り込んでおく。』


トライブ•エクザイド

黒いスーツにハンドガンを持ち歩き、迅速に仕事を行う事から付いた名が黒豹のトライブ。

まだ若手の新参者だが、腕が良いと依頼をする者がかなり増えている。


「依頼達成..と。

それにしても今日は随分と多いな、恨みを買われている奴がそれ程多いのか。」


『ブー..ブー..』「ん、またか。」

胸元に入れていたスマホのバイブが高鳴る。友達は極端に少ない為依頼の話に決まってる


「もっしも〜し。

アナタに素敵な殺しをお届け、キラーズ•ハイへようこそ..ってこれ毎回言わなきゃダメか?」

殺し屋デリバリーサービスキラーズ•ハイ。

基本的には電話の発注になるが、決まり文句が面倒だ、手間が掛かって仕方ない。


「殺し屋さんですか!?

今すぐ助けて下さい、お願いします!」

若い女の声が助けを求めている、声色から察するに急を要する事態のようだ。


「場所は?」


「〝カリモズ〟というバーの前です!

急いで来て下さい、私..死んじゃうかも。」


「カリモズっていやぁ..直ぐそこじゃねぇか。

タイムリーというか何というか..まぁいいや」

よく危機的な状況で電話する隙を設けたものだ。早く向かわなければ、その隙すら無くなってしまう。


「見えた、て事は..アイツらか。」

店先で大きな態度を見せるスキンヘッドの男二人、その脇でうずくまる少女の姿。


「テメェよくもやってくれたなコラァッ!」


「この服高けぇんだぞオイッ!」

怒鳴り散らす二人をよく見れば、頭から肩に掛けてが何故だか濡れている。怒りの原因はこれだろうか?


「おい、そこのハゲ二人。」


「あぁん?」「なんだテメェッ!?」

怒りの矛先がこちらに向いた、睨みつける顔はやはり水に濡れている。


「あ、来てくれたのね殺し屋さん!」


「何、殺し屋だと?」「テメェ輩か!」

懐から銃を取り出しこちらへ向ける。格好もスーツで決めて同じなら手法も同じだ。


「バカ素性を言うな..まぁ殺すからいいけど。

..てか誰が輩だコラ、お前らが言うな」


「うるせぇ!」

2丁の銃が同時に発砲する。やはり輩だ、気に入らなければ悪戯に射ち殺す。


「..素人が、止まって見えるぞ?」

豆鉄砲は豹には効かず、タマを取るとはよく言ったものだ。チンピラの弾はトライブの身体を掠める事も無く空虚に消え去りいなくなる。


「な、なんだテメェッ!?」


「終わりだ..なんて言わなくてもわかるよな?」


「この野郎、ふざけんっ..」

最後の汚い台詞を言い終わる前に息を止めた


「あぁ〜? 何か言ったか〜?

..まぁいいや、終わりだ嬢ちゃん。」

依頼達成を確認し、小さく座る少女に掌を差し出す。


「あ、有難う御座います..。」


「違ぇよ、報酬だ報酬。」

礼を言って手を掴もうとすると、掌を握られ報酬の催促を強請られる。


「えぇ..」


「当たり前だろ、そういう契約だからな」

あくまでも金で動く雇われ他人だ、慈善事業では決して無い。当然の振る舞いである。


「..もしかしてお前、システム知らねぇのか?

面倒くせぇなぁ。ほら、これ見ろ」

ポケットからクシャクシャの紙切れを延ばして手渡す、何かのチラシのようだ。


「貴方に素敵な殺しを。

殺し屋デリバリー〝キラーズ・ハイ〟」

ポップな色使いに赤い文字で殺伐とした企業名、大きな文字の下には説明欄が。


電話を受け取り次第殺し屋が駆け付けます。

お好きな殺し屋をリストからお選び下さい、料金は後払いで。ご依頼の際は現在の居場所やターゲットの特徴など、出来るだけ詳細な情報をお伝え頂けると助かります。


それでは、素敵なキラーライフを!


※電話番号は各殺し屋リストに記載されておりますのでそちらを御参照下さい。


「殺し屋のデリバリー!?」


「知らないで電話したのか?

ウチは会社じゃねぇんだよ、個人で金を貰うんだ。言ってみりゃ雇い主が上司、ルールじゃ〝ボス〟って呼ぶ事になってるがな。」

システムは出前の宅配と同じ、事が終わればその場で支払いを済ませる。自転車でモノを運ぶのと何ら変わらない、簡単な仕事だ。


「いくら..?」


「そうだな、二人で40万てとこか。」


「高ッ!!」


「安い方だぞ。一応人の命だからな、どんなゴミでもそんなもんだろ。で払えんのか?」


料金は仕事をする殺し屋と内容によって変動するが、今回はキレたチンピラを殺すだけの安い仕事だ。中には国を揺るがす組織を相手に取るような仕事だってある、正にピンキリ。


「まさか払えねぇのか?

だったら分割でもいいぞ。基本的には一括って事になってるが、オレは頂けりゃ何だっていいからな。好きな方法を選んでいいぞ」


「分割.,」

勢いで電話してしまったが、報酬の事を考えていなかった。命の値段の相場はわからないが、怪我をして病院に行くのとは訳が違うようだ。


「払えない...ていうか誰が決めてんのよ!

会社じゃないんでしょ。誰のルールなの?」


「創設者だろ、今じゃ何処で何してるかも知らんけどな。興味も無ぇし」


「何よ、それ..。」


「とにかくだ、依頼料は払ってもらう。

仕事が無いならそうだな、ちょっと待ってな」

男がバーの中へ消えていく。暫くすると怯えた顔の店主と共に小さな紙を持って出てきた


「良かったな、ここで雇ってくれるそうだ。

バイト扱いのバーテン見習いだが、幾らか貰えないよりはマシだろ?」


「ぜ、是非ウチの店でっ..!!」

確実に言わされているが歓迎してくれているようだ、トラブルが無いといいのだが。


「だ、そうだ。また貯まったら電話をくれ、番号はわかるよな?」

それだけ言うと去っていった。店長は後ろ姿を見ては終始怯えていたが、少女の顔を見ると微笑み優しい言葉を掛けてくれた。


「さ、中に入ろうか。」


「本当に、雇ってくれるんですか..?」

店長は振り返り小さく頷くと、優しい声で少女に囁いた。


「..だって〝君も〟被害者だろう?」


「…?……はい。」


「名前、聞かせて貰っていいかな?」


「ライルです、ライル・バンホーテン。」


「そっか、よろしくライル。」

名を聞いた後の店長の微笑みは、どこか寂しさを帯びているように見えた。


......。


「..夜までが遠いな、普通はこんくらいから仕事に入るもんなんだろうが。」


黒豹のトライブ

迅速に仕事をこなし手間を掛けない、武器はシンプルなハンドガン。彼の速さは時期を間違えると、夜の闇すら暇になる。


「ん、はいもしもし?

アナタに素敵な殺しをお届け、ご存じキラーズ...めんどくせぇな、依頼だろ?」

だからこそ、彼の元には客が集まる。


「よし、もう一仕事行くかぁ。」








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る