第40話ー2 レーザーを受け止める (part2-1)

「俺がレーザーを受け止める」


「マジで言ってるのか」


 目を合わせ、本気だと判断した林太郎も覚悟を決めてくれた。


「じゃあその後は俺が何とかする。信じるぞ」


 威勢よく返事をするつもりだったがそんな時間は与えられなかった。


 ランパートは破壊され、敵が姿を見せる。


「くそが……」


 どうやらあの衛星みたいな形の武器はあいつのもので間違いないらしい。秘策が当たらなかったこともあり向こうはだいぶ不機嫌そうだ。


 林太郎の反撃はシールドに阻まれた。


「生意気だな」


 小声で言ってるつもりなんだろうけど聞こえている。


「何がです?」


 林太郎? そんな挑発みたいなことしなくても。


「お前らは人死にに加担してることを理解せず、自分勝手に振る舞っている。社会の敵がさも正義ヅラして」


「それはアンタに言われたくない。軍を裏切ってるのは間違いなくあんただ」


 向こうが引き金を引く。唐突に現れる弾を俺が防ぎ、徐々に林太郎も対処の仕方が分かってきたのか防ぐようになってきている。


 でも、こっちは不利なのにわざわざ先輩の言葉に律儀に返答するのは不思議だ。別に怒ってはいないけど、戦いに集中すればいいのにとも思う。


「それに俺は民衆のための正義なんて究極どうでもいい」


「な、そこまでのクズとは」


「俺はこの組織の正義を信じてる。できる限りは良い結果のほうが後味がいいから、頑張るけどな」


「貴様には正義はない」


 林太郎が嘲笑に似た笑い方をした。


「1人でも多く人間を襲う神人の数を減らす。そして強くなって親友との決着をつける。そして当面は卒業まで生き残り学生生活を謳歌する。俺は俺の為に戦う。だから正義で動けるあんたは立派だったんだろう」


「軍人として恥ずかしくないのか」


「まあ普段人前では言わないよ。でも、今言ったのは、俺はそれでもその裏切りは許せないから、気に入らねえってことだ。正義の押し付けってのは、俺の故郷の気に入らねえ神人と同じなんだよ!」


 これ以上の問答は林太郎にはしなかった。


 相手は攻撃を続けながら今度は俺に言葉の刃の矛先を向けてくる。


「夢原礼。お前もだ。正義を志すのならば、あの女をなぜ殺さない」


「ああ。言いたいことは分かってるよ」


「なんだと」


「どうせレイが入れば死人が増えるって言ってるんだろ。でも、それでも俺は最後まで彼女の味方であり続ける」


「貴様……! 狂ってんだよ。そんな奴は死ね。死ねよ。死ねよぉ!」


 眉間にしわが寄りまくっていてとても怖い顔を担っている。


「俺の家族と同じ末路を、誰かに背負わせるくらいならば、軍を裏切ろうと、鬼を殺す俺が正しい!」


 あの一撃が来る。


 今の体の感覚からしてそう長く炎を出すことはできない。


 剣を前に構えて相手が撃った瞬間に炎を灯す。


 ――集中。


 そう。この感覚。さっき唐突にやってきたいきなり近くに現れる弾を感知できた時も、視界に映るものがゆっくりになったから反応できた。


 これは水晶野郎と戦っていたとき初めて煌炎を出したときの感覚に近い。


 この感覚があったからこそ格上の敵とも戦えていたけど、今までは危機を感じたときにそう見えるだけで、普段自分で発動はできなかった。


 それが今、こう集中するだけで意図的にできるようになっている。


 だからあいつが引き金を引く瞬間もはっきりととらえ。


 俺は完ぺきなタイミングで炎を灯した。


 腕に、体全身に伝わる衝撃、それに加え炎の使いすぎの後遺症。


 全身が痛いというかしびれているというか、それらの中間みたいなとんでもない感覚で吐きそう。


 でも、

「ぐぅあううう」

 歯を食いしばって、我慢。我慢。がま……思考を手放しちゃだめだ。


 目の前がちかちかして、意識が飛びそうというのはこういう状況を言うのかと思った。


 長い、長い、と思いきた、それだけの衝撃は受け止めたときの1秒強程度の間の話で、何とか耐えられた。多分3秒だったら死んでた。


 膝に、もう力が入らない……。


 ふぅ……。


「ん、ぁあ、はぁあ」


 全身が熱い。すごく火照ってる。もう動く気が起きない……。


 俺の前に林太郎が立つ。その前にはサークルが2重になって浮かんでいた。


 このサークルは通った光弾の威力を上げる攻撃力補助装置でもある。そして林太郎の手には、ハンドガンが握られている。


「な……」


「頭に血が上ってたな先輩。あんたはそれを連射できない」


 先輩さんは持っていた銃を消して新しい同型の銃を取り出す。


 しかし、それを持つより前にサークルを通った、林太郎の3発の射撃が届く。


 1発目はシールドを割り。


 2発目はとっさに銃を盾にしてしまったがゆえに銃は弾き飛ばされた。


 3発目は鳩尾を光弾が貫いた。


「が。ぁぁ……」


 先輩の周りに衛星が漂い始める。それでも攻撃を続けるつもりなのか。


 しかし林太郎は冷静にハンドガンの引き金を引き続け、銃の特性付与で標的への追尾弾にした弾は衛星武器をすべて破壊し機能を停止させた。


 俺たちを襲った男はもう動かない。


 終わったのか。


 いや、まだ動いている。


 どうしよう、とどめを……刺すべきなのか? ちゃんと捕まえたほうがいいか? いかに裏切り者と言えどそこは俺が勝手に決められないか。


 ……俺は動けないんだった。林太郎に任せるしか。


「ひとでなし……死ぬぞ、人が」


 パン。


 ――迷いがないな。頭を撃った。すぐに動かなくなった。


「あの銃は回収して解析に回すか。興味深い武器だったな。衛星は、残りがあればいいが」


 林太郎、なんか……慣れてるんだな。動かなくなった元同じ組織の先輩なのに全く動じていなかった。


「なんだ、そんな驚いた顔して。てかへなって内股座りになってるところはいよいよか弱い乙女みたいだな」


「あ、その」


「お前が限界なのはわかってるから、余計なことされる前に殺した。嫌だったか?」


 頭を振る。


 林太郎は戦利品を手にして、ひもを出して適当に背中に括り付けてこっち来る。


「ひやぅ」


 さわられたところ……ぴりぴりすりゅぅ。


「部屋まで我慢しろ。もって行ってやるから」


 やめぇ、お姫様抱っこは恥ずかしいよぅ。


「これ以外は無理だ。荷物もあるからな。なあに、レイと合流したらすぐゆずってやるさ」


 そーゆーことじゃな、にゃぁ。






「礼をかえしてください」


「わかった。わかったって。別にレイから奪う気はないから……」


「れいぃ。弱ってますね。私が持っていきます」


 できれば一目が付かないようにお願いします……。おい如月、笑いをこらえられなくなってるの、きこえてりゅからな

(第41話「3日目夜:自由行動」に続く)

 


 

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