2 堅実に相手の攻撃に当たらないように気を付ける!
第53話ー2 団子屋の2人に捧げる勝利
いかに時間がないとはいえ焦りは禁物だ。あの男がこうして堂々と姿を現したからには俺たちに勝つ自信があるということ。
常に気配を確認しながらあいつが何をしてきても対応できるようにしておかなければいけないだろう。
大門が走り出す。俺はその後に続く。
正面から大門が殴りにかかるのなら、俺はあいつの後ろに回り込んではさみうちにすればいい。近藤先輩から教わった近接連携の基本だ。
「らぁあ!」
黒いオーラを纏った大門の猛撃を水晶野郎は片手ですべてしのいで反撃をしている。
片手で、しかも何の呪術の援護もなしに大門の両手を封殺するとか、ほんとによくやるなコイツ!
でも片手を潰しているのが効いているみたいだ。前のように反撃が飛んでこない!
「ハハハァ!」
相変わらず笑ってるし!
位置取りはヤツの横になるよう。よし、ここからなら大門を邪魔しない形で攻撃ができる!
奴に接近する。
嫌な気配は感じない。大門が猛攻を仕掛けてくれているおかげで俺に構っている余裕はそんなにないと見た。
炎の剣を叩きつけた。あわよくば一撃で。その可能性がこの炎の剣には確かにある!
ガァン!
――そう上手くはいかせてはくれないか。それに大門の攻撃が通じない理由も察することができた。
左手側が盾になっている。自由に動かせない分防御に徹しているのか。腕の動きが制限されているぶん、体を動かしてカバーしている。
武器裁き、戦いに対する余裕。この技量だけは見習うべきほどの強者だと思う。
だけど……!
「っせあ!」
もう一撃で奴の盾を焼き壊した。生身の腕が晒されている。あと一撃。
っ? 何か来る! 堅実に。何か感じたなら距離をとれ!
命令をきちんと体は聞いてくれた。昨日の傷を引っ張ってないのは本当に心強いな。予感は俺の心臓を狙っていることは感じ取れた。少し右に。
……ぁ? そんなのアリか? 水晶の刃が体から突き出てきた! 振り回されないようにすぐに炎の剣で砕いた。
「ぐぃ!」
大門の方にも! あいつ今後は右の肩から刃を出した。あ!
「大門!」
心臓に。そんな。
「大丈夫だぁ!」
よく見ると刃の先が砕けている。オーラで強化された体に刃の威力が
「ハぁ? そんなのアリかよ?」
「なんのオレァあ!」
顔は、めちゃくちゃ痛そうにしているけど、大門は止まることはなく水晶野郎に攻撃を再会する。俺もそれに合わせていかないと。
「おもしれぇえなあああ!」
奴は狂喜する。正直怖いと思ってしまうほどに。
奴の動きが段違いに良くなった。もしかするとさっきの攻撃でどちらかは仕留めるつもりだったのかもしれない。
今度ははさみこむ余裕はなかった。水晶の槍をぶんぶんと雑に振り回しているように見えて、そんなことないのを今感じている。
挟み撃ちにならないように走り回って位置を変えながら、常に槍を振るうタイミングは俺と大門のどちらの攻撃が届かないだろう範囲から。
槍は大振りで弾くのに苦労はないけど、次が続かない。
槍はものすごい呪力を込めて作られているようで、俺の炎の剣でも少しの傷を受けるのが精いっぱいだ。
大門と目を合わせる。
「後続頼む」
「おうよ」
小さな声で意思を合わせて俺は大門の前に出る。
「くるかぁ!」
大振りで落ちて来る槍の刃を見て、俺は剣に通常の数倍の呪力を込めた。
体から何かがごっそり消えた。一瞬視界がホワイトアウトしかけたが何とか耐え、その槍に剣を振り上げぶつけるつもりだ。
剣は空を斬った。槍がない。
槍は空中で止まって反転した。そのせいで剣が当たらなかった!
「ヒャああああ!」
本来上からくるはずだった水晶の矛先は俺の右側からやってきて、俺は受け止めるしかない。
無理やりその場から引きはがされて続けて攻撃するはずだった大門に水晶野郎が先攻する。水晶の大斧で大門を叩き潰すつもりだ!
「なめぇえるなぁあ!」
右手にオーラを集中させた。拳の3倍ほど大きく膨れ上がったオーラの右手が。
ドゴォ!
凄い炸裂音をあげながら斧を正面からぶっ壊す。
「かかったぁ!」
大門に足蹴りが入った。それも水晶の刃が出ているやつが深々と大門の腹に……やばくないか?
「ぐぉお、あが」
――でも、この一瞬を逃すわけにはいかない。あいつは今隙をさらしてる。
「へへ、へ?」
がしり、と大門がその足を掴んだ。めちゃくちゃ苦しそうな顔でそれでも。
「てめえはここでぶっ殺す!」
「まじかよ」
俺を邪魔するのはもはやアイツの右腕しかない。あいつは俺目掛けて槍を突き出してきたけど、それは躱せる。
ちょっとエグイかもしれないけど、右腕ごともらってく!
まだ先ほど溜めた呪力は剣に残っている。そのまま槍をぶっ壊して右腕を斬った。
「ぎゃあああ!」
入った――いや! 何かおかしい。
手ごたえもそうだけど、なんでこんなに鳥肌が立ってる。
目を離すな。何か来る。
手が、生えた。今後は何の工夫もない鈍器が俺の頭を潰そうとして来る。
警戒していたおかげだ。すぐに退避して事なきを得た。こわかった。これ以上のけがはごめんだ。
大門を引きはがして水晶野郎はこちらを見据える。俺たちは再びヤツへと挑みかかる。
*****************
負けるは要素はねえ。水晶の力があれば少なくとも巫女と大門は圧倒出来る手はずだった。
だがこの結界。体から離れた呪術を問答無用で無効化するとんでもない異常空間のせいで、こいつらに勝利の女神が微笑み始めている。
だがこの戦い、こんなところで終わらせるなんてもったいないよなぁ?
「作り物の手か! ふざけやがって!」
テイルは想像を現実にする。そして俺は茨を水晶で作れるんだぞ? なら動く手を水晶で作って、それに色がついていると意識すればできないこともない。
「驚いてくれたかぁ?」
「ぶっ飛ばす!」
俺としてはお前のタフさと巫女の躍進がこの戦いの中で最も驚いているけどな。
大門、体が頑丈すぎる。なんで水晶の刃をバシバシ体に受けてんのにまだぴんぴんしてやがる。
たとえ体を貫かれなくたって、刃が届いている以上、痛みはあるはずだ。殴りあいの中で何度も当たっているのにめげない。くじけない。
ただ団子屋の婆を殺されただけなのに、こいつはその怒りだけでまだ立ち続けている。意思の強さならこいつが一番。そう思っていたんだが。
義手を使えるのも一度きり。あれはさすがに戦いながら作れる代物じゃない。もう使えない。今度こそ、掴まれたら終わりだな。ゾクゾクする。
だが、何よりゾクゾクするのは。
「はぁ!」
無理がたたって苦しそうな顔をたまにするのにその顔すら美しいこの巫女。
俺は驚いたぞ。さすがに心が折れるかと思ったんだがなぁ。
ああ。剣を振るって俺に挑みかかる姿。綺麗だぜ。
美しい金色の髪。そして金色の炎。似合っている巫女服。その可憐さは今になっていうことじゃないが、何よりその気高さが美しい。壊してしまいたいくらい。
何があっても決して心は折れず。鬼を救うために、信念の刃に変えて振るう。
あそこまで追い詰められて。追い詰められて、追い詰められて、それでもその炎は消えることがなかった。そして、意思だけじゃない。こいつは弱いままじゃなかった。強くなってきた。
こうして俺を追い詰めつつある。体からせりだす刃、義手。とっておきをもうすべて使い切った。呪力がもうほとんど残ってないから。あとは自力で戦うしかない。
「はははは!」
すっかりファンになってしまったのは本当の話。俺という悪を倒し人々を守る、昔あこがれた正義のヒーローはここに在る。
お前のおかげで、楽しい復讐劇になったことは、本当に感謝しているぜ? それにこんなクソみたいな街にも誇れる人間がいることを見せてくれた。
惜しむらくは敵だからここで殺さないといけないことだな。もしも仲間だったら〈影〉の連中とも上手くやっていけそうないいヤツなのになぁ。
*****************
水晶の大剣が振り下ろされる!
「しねエエ!」
俺に向かって。でも決しておびえることはない。
「大門!」
もう下ろされ始めた剣を止められない。なら隠す必要もない。大門に叫ぶ。
「おう!」
その頼もしい掛け声を聴いて安心してその剣を迎え撃つ。
もっとだ。もっと力を込めて! 火力はさらに増して、ごうごうと燃える炎の剣で迎え撃つ!
ズガァン!
凄まじい音、ぶつかり合った呪力が拡散する。大剣は大きく欠けて俺の剣戟によって真っ向から跳ね返された。
「ぬお……?」
この一瞬の好機を逃さない。大門と俺は一気にやつに突進する!
「ガァアアア!」
「らぁああああ!」
突き出された槍を大門が渾身の一撃でぶっ壊した。左手も右手ももう動かない。千載一遇の好機をここで逃すわけにはいかない!
「ぐぅう!」
懐にもぐりこんだ俺に口で水晶の刃を加えた水晶野郎がその刃を振り下ろす。
奥義〈煌炎・紫往〉。
一撃目で振り上げた剣は水晶の刃を弾き、水晶野郎は大きくのけぞる。そして続けて2回目の攻撃は人智を超えた速度で発生させた。
あいつが俺を蹴り飛ばすよりずっと前に。振り下ろしで、
「があっ」
あいつの胴を焼き斬った。
「アア……がぁ……」
水晶野郎はよろめき、後ろに後ずさりして。そのまま倒れた。
その後。ピクリとも動かなくなった。俺が斬った跡の炎が奴を燃やしている。
「……しゃああああ!」
大門の勝鬨が響き渡って、ようやく実感した。
「よし……ぁああああ!」
勝ったんだ。ようやく。今までの因縁に決着がついた。団子屋の娘さんにいい報告ができそうだ……!
(消費呪力20 負傷の数値と呪力消費の数値の合計は覚えておいてください)
54話へつづく
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