プロローグ 突如現れた2人の『ヒロイン』に迫る
最近、面白い噂が京都の人々を惹き付けていた。
悪霊や外からの侵略者による被害ばかりが話題としてあがる中、そのニュースは京都で報じられる中では特別に明るいものだった。
『最近現れたスーパーヒロイン。夜に出かけ襲われる人々の前に現れるヒロイン! 反逆軍でも高等学校の戦闘員志望者でもない2人の少女剣士を徹底調査!』
夜、悪霊が出る京都においてやむを得ず外出するしかなく運悪く襲われた人間を助ける2人のヒロイン。
目撃者の1人である悪霊マニアのアクマ眼鏡――活動ネームだ――さんのインタビューがその日、京都のニュース番組で放映されていた。
「いやあ、最初は新しい悪霊だと思いましたよ。いつもは活動する時にはステルス行動を心掛けてましたが運悪く見つかってしまいまして、そこに現れた2人の女の子、そのうちの1人には角が生えてるし……」
「よく無事でしたね」
「ぐふふ、最初は死んだかと思いましたねぇ。でも、鬼と一緒に来てくれたもう1人の女の子に助けられて、ふふふ、アレは可愛かったな。僕はロング派なんですけど初めてショートの女の子もアリだと思いましたね」
「あの……」
「ああ、スミマセン。ちょっとキモかったですね。しかしそれくらい2人とも愛い姿でしたよ。ショートの子は男装だったけどあの姿で男の子は無理でしょ。もう1人は大和撫子って感じの清楚な女の子でしたね。でも角が生えてて、あれが噂の人型……鬼というやつですよ」
「鬼……! 人型の悪霊は反逆軍も呪術師の方も危険だと」
「2人で悪霊から救ってくれたのは確かで、鬼は私を食うこともなく傷まで治してくれて。ああ、可愛かった。しかし、今回鬼の新たな一面を見ることができたのはマニアとしても素晴らしい進展でしたよ」
「マニアを名乗るアクマ眼鏡さんは鬼についてもよくご存じで?」
「ええ。僕の最近の論文で言ったことですけど、鬼というのは、自分が気に入ったことをやって、気に入らないものは破壊する習性があります。人間が欲望のまま生きる姿が鬼だというおじいちゃんもいますが、研究の結果、的を射ていたわけで」
「ほうほう」
「ただ今まで人を助けた例はありませんでしたから、今回それを確認できたことは研究結果をさらに裏付ける可能性もあります。それに人間と一緒にいたところ、鬼も人間を襲う必要がないときは襲わないという、鬼とのコミュニケーションも可能な一縷の望みも出てきたわけで」
「人間と一緒にいた? 信じられません」
「これはあくまで私の予想ですが鬼は元々人間だった可能性もあるんじゃないかと踏んでます。そして、それは呪術を扱う京都の守護者、御門家か外の神人たるイトウかが関わっているのではないかと」
可愛い言うな。
何が男の子は無理でしょだ。仕方ないだろ。鬼の力を使わないで1日経つと俺の体は元に戻る。だから何事もなければ普段は男として過ごしているんだ。
契約が定着すれば元に戻ると言っていたけど、それは一時的なものらしい。
レイとの契約は、俺を巫女姿にして強くする代わりに俺から実体化のためのエネルギーを渡す。契約はその道をつくるものであり、俺が彼女の力を求めると、再び女の姿になってしまう。
最近は慣れてきてしまってるのが怖いな……。
「ふふふ、私はそう思いますよ? 女の子になったあなたは紛れもなく魅惑的です」
「やめてくれよ……。俺は男なんだから。ヒロインって呼ばれるのは」
「いっそのこと服変えちゃえばいいのでは?」
「それはめんどいし、俺は男だからさすがに服まで買えるのは嫌」
少し残念そうにむくれたレイ。さすがにそれは勘弁してほしい。俺だって別に女の子になりたいわけじゃないのだ。
ただちょっと、例えば姉貴がプライベートで着ているような服装になった自分を想像すると、それなりに似合いそうな……。
ダメダメダメだ。自分の体で邪な想像してたらドン引きだぞ。
ちなみに俺達が今話しているのは元々の社の中ではない。あそこは異空間になっていたが、10日前の安住との戦いで脆くなっていたのでレイは放棄すると決断した。
今は軍の施設から大きく離れた場所にある場所の倉庫を借りて、そこにレイが呪術を使って彼女の前の住処へと空間を繋げてくれた。
なので倉庫の扉をくぐるとそこは以前俺が膝枕してもらったあの部屋へとつながる。さすがにこんな姿でかつ姉貴のいる軍を敵に回した俺は家には戻れないけれど、暮らしには現状困ってない。
今にして思えばこの部屋はいったいなんなのかという話にもなる。しかし、そんなことを言ったら京都の高等学校の寮はロッカーの中に入ると自分の部屋へとつながるらしいので、世の中俺の知らない不思議もいろいろあるのだろう。
知らないことは追い追い知っていけばいいさ。
「さて、そろそろ夜だな」
「今日もパトロールですか? もうやっていること本当にヒロインですよ?」
「いつか君がこの街に認められるまで俺も戦う。それが君を助けることにもつながると思うから。それに助ける必要がなくても、外に出て、軍や他のすごい奴らの戦い方を学んで、もっと強くならないと。いつか来る試練で後悔しないように」
「そうですね。はい、ではお供を」
「契約的には俺が巫女らしいし、お供っていうのは俺な気がするけどな」
「細かいことはいいですよ。私はあなたの式神なのですから。さあ、行きましょう」
なんだかんだ言って夜出かけて人を助ける時に一番活き活きしているのは彼女だ。人を護り悪霊を共に倒した時にはとても嬉しそうな顔をしている。きっと彼女はそういう人間なのだろうと俺は今信じている。
だから俺も彼女と一緒に人々を護るヒーローとして戦って、助けを求める人々に手を差し伸べる。傭兵のあの人みたいに。
そしていつかは彼女を真に護りぬいて、鬼の居場所をつくり彼女が生きていく世界を作る。
そんな彼女にとってヒーローとして、どんな逆境も超えていく覚悟だ。彼女が真に救われるその時まで助け続けよう。
「行こうか」
「はい。人々を守りましょう。悪霊から」
今日も夜の魔境へと踏み出す。契約でつながった彼女と一緒に。
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