陰キャ豚男の逆転人生

ゆう。

第1話 陰キャ豚男



 スクールカースト最底辺。それが僕――上江俊かみえしゅんの定位置だ。僕は小学校の頃から友達が少なく、教室の隅で一人本を読むような人だ。かと言ってまったく友達がいないわけではない。僕には物心ついた時からよく遊ぶ異性の幼馴染がいるし、ネットにはたくさん友達がいる。まあ、学校の友達は幼馴染しかいないんだけどね……


 僕は教室に入り、自分の席に向かおうとしていると……


「おい!どけよ陰キャ豚男!」


「あ……ご、ごめんなさい……」


「ちっ。くせーんだよ。なんでお前見たいやつが学校来てんだよ」


 そう吐き捨てて教室から出て行ったのは、佐久間茂さくましげる。イケメン陽キャで、いつも僕に対して暴言を吐き捨てたり陰湿な嫌がらせをしてきたりする。


(臭いと思うなら近寄らなきゃいいのに……)


 さっき佐久間が言った通り僕の見た目は豚…所謂デブだ。僕の家はみんなデブで、太りやすい体質なんだとか…本当に、迷惑な体質だ。僕だって本当は痩せたい。だけど何度努力しても体重は落ちなくて挫折してしまう。


(はぁ…どうすればいいんだろう……)


 そんなことを考えていると、僕の机の前に一人の美少女が来た。


「おはよう!どうしたの俊?そんな暗い顔して」


 そう問いかける美少女は、さっき言っていた僕の幼馴染だ。彼女の名は、桜沢吹雪さくらざわふぶき。彼女は学校一の美少女と言われていて、頭が良く運動神経もかなり良い。そして、男女問わず話しかけるのでかなり人気が高い。


(僕みたいな人にずっと構ってくれるなんて、吹雪はなんて優しいんだろう)


 ちなみに吹雪とは、家が隣同士だが一緒に登下校はしていない。吹雪は生徒会に入っていて、朝も放課後も忙しいらしい。帰宅部の僕とは大違いだ…


「おはよう。大したことじゃないよ」


「えー、でもさっき悲しそうな顔してたよ?」


「本当に大したことじゃないから大丈夫」


「そうなの?ならいいんだけど……」


 僕が茂に嫌がらせをされたり暴言を吐かれたりしてるのは誰も知らない。茂はみんなの前では凄く優しいし、僕がそんなことされてると誰かに言ったところで誰も信じてくれないので、僕は誰にも言っていない。


「あ、そうそう。俊ってどこの高校行くの?」


(うーん……志望校まだ決まってないんだよなぁ…あー、でも)


「栄聖高校かなぁ〜」


「あそこか〜、でもなんでなの?俊なら頭良いしもっといい所行けるじゃん!」


 僕がその高校を選んだ理由は単純で、家から近いからだ。


「吹雪ほどじゃないけどね」


「それでも俊は学年で二番じゃん!」


「一番の人にそれ言われてもなぁ」


僕は苦笑しながら言った。


「まあでも、家から近いし、あんまり頭良いとこいっても授業ついていけなくなるの嫌だからなぁ」


「なるほどね。確かにそれはあるかも」


(そう言えば吹雪はどこの高校いくんだろ……)


 今まで聞いた事無かったので聞いてみることにした。


「ちなみに吹雪ってどこの高校行く予定なの?」


 吹雪は少し考えてから、


「うーん……実は私まだ決まってないんだよね〜」


「あー、そうなのか……ま、まあ、まだあと一年近くあるし、ゆっくり考えなよ」


 今は中学二年の冬。受験までまだまだなので決まっていない人も多いだろう。


 それから吹雪と他愛もない話をして朝の時間が終わった。





 そして何事もなく全ての授業が終わり、教室から出て玄関に向かった。そしていつも通り下駄箱を開けたところで……1枚の紙が落ちてきた。


(ん?なんだ?)


 落ちた紙はピンク色の紙が二つ折りにされただけだった。僕は紙を拾い中身を見てみる。


『放課後、校舎裏で待ってます』


 そう書いてあったが僕は思った。


(どうせ茂たちの罠だろう……馬鹿馬鹿しい)


 そう思い僕はゴミ箱に捨てた。


(でももし、違ったら……)


 僕は迷った。


(やっぱり、行くだけ行ってみるか)


 そう決意した僕は外靴に履き替え校舎裏に行った。しかしまだ開いては来ていないようで……


「5分くらい待つか」


 そして、2、3分経った頃。


「よぉう豚ちゃん」


 僕は今一番聞きたくない声が聞こえた気がした。おそるおそる僕は振り返るとそこには、茂と茂の友達であろう二人がいた。


「まさか、まんまと引っかかるとわなぁ」


 茂はそう言いながら腹を抱えて笑った。


(やっぱり、そうだと思ったよ)


 そう思い僕は帰ろうと茂の横を通り……


『ドンっ』


 僕は茂に蹴られ、尻から倒れた。


「痛っ!なにすんだよ」


「ただで返すと思ってんのか?日頃の恨みを晴らすまで返さねーぜ?」


「う、恨みって……ぼ、僕がなにしたっていうんだよ」


「はぁ?そんなのお前みたいな陰キャ豚男があの吹雪ちゃんに構ってもらえるのが見てて腹立たしいんだよ」


「そ、そんな…」


「ま、死なせはしないさ」


 そう言いながら3人は倒れている僕を囲み、殴ったり蹴ったりしてきた。次第に僕は意識が薄れていき……


「いってぇ……」


 気づいた時には3人はいなく、空も暗くなっていた。僕は身体中の至る所に痣ができており、唇や頬が切れていた。幸い骨折や打撲などしていないため、歩いて帰ることはできそうで少しほっとした。不幸中の幸いだった。


 そして僕はボロボロの重い身体を持ち上げ、約1時間かけて家に帰った。


 僕は家の鍵を開け扉を開けた。


「ただいま」


 返事は無かった。


(そう言えば母さんと父さん、今日帰ってこないんだっけ)


 そんなことを思い出し僕は家に入り、2階にある自分の部屋に直行し、ベッドにダイブした。


「はあ…もう学校行きたくないな」


 そう言い、僕は深い眠りについた。

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