短編集 僕たちは靴をなくした

雪平 蒼

花のように

救いのない夜に、救いのない音楽を聴く。僕たちの未来は続くと思った。今ではもう叶わない。萎れた花がこちらをみている。汚いと言った君の横顔、今でもよく覚えてるよ。君が好きだった映画の主演、最近死んだらしいね。君はあの映画を僕と観たこと、覚えてくれているかな。

うるさい音楽のおかげで余計なことは考えずに済む。君の新しい恋人のこととか、その男との行為だとか。僕は、君以外の誰かをこの手にいだくなんて考えただけで吐き気がするのに。君は。君は違った。

僕は君に執着し続ける。君に必要とされるならなんでもできる。君の手となり足となる。たとえ誰かを苦しめることでも、人殺しでもね。

僕は君を愛している。でも今となってはもう君の瞳の色さえわからない。

「あなたに、おまじないをかけたわ」

「どんな?」

そのときの君の笑顔、いとおしくてたまらなかった。花のように美しかった。いつまでも脳裏にこびりついたまま。その君が泣くことはない。いわば君はもうポスターのように動かない。

優しい君の瞳。可愛らしい丸い鼻。良いことだけ覚えていればいい。そうすれば、そうすれば、そうすれば。

僕は血反吐を吐くくらい泣いた。

君を愛しているよ。きっと長い間。君がもう一度僕を視界に入れてくれる日まで。

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