(11)俺のダンジョン

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 < Side:ラッシュ >

 

 ヒロシとの会話を終えた俺は、すぐに自分が管理しているダンジョンへと戻った。

 現在ダンジョンが攻められてるとヒロシに言ったことは嘘ではなく、できる限り早く情報を確認しておきたかった。

 ただ余裕が全くないというわけではなくむしろ余裕しかないわけで、急いで戻ったのはダンジョンマスターとして俺が持っている矜持の一つだ。

 大した実力もない冒険者パーティが攻めているだけならともかく、今は国が威信をかけて攻略しに来ているのでダンジョンマスターが状況を見守るのは当然だろう。

 だったら広場なんか行かずにずっと見ていればいいと突っ込まれるかもしれないが、そこはそれ。

 ダンジョンマスターである前に一プレイヤーであることに違いはないわけで、重要情報はできる限り早く聞いておきたかっただけだ。

 

 俺のダンジョンは、奇をてらわらずに最下層の一番奥にマスタールームが置かれている。

 マスターといっても、それなりの数の眷属がいるので一部屋だけあるわけではないのだが。

 ダンジョンとしては、最下層はただの一本道になっていてマスターである俺が対峙するようになっている。

 どちらかといえば眷属たちの生活空間になっていて、それぞれの種族が過ごしやすい部屋というか空間になっている。

 

 俺の私室が用意されている空間のさらに奥には、ダンジョンにとって最も重要なダンジョンコアがある。

 冒険者なり国なりがダンジョンを攻める理由の一つに、このダンジョンコアから得られる膨大な魔力を求めてくるということがある。

 よくある設定といえばそうだが、そういうものなのでそれに文句を言っても仕方ない。

 俺がダンジョンマスターになってからは一度もコアが置かれている部屋――コアルームに入られたことはなく、これから先もないだろう。

 

 俺がコアルームに入ると、一人の美女エルフが出迎えてくれた。

「――お帰りなさいませ。マスター」

「ああ。状況はどうだ? あまり様子が変わっている感じはしないが」

「そうですね。一応、あちらに言わせると順調に攻略は進んでいるといったところでしょうか。こちらからすると大した違いはありません。まだ中層の中あたりですね」

「まだ中層か。俺たちが下層と呼んでいる場所まで探索されたことがないから仕方ないだろうが、さらに先があると知るとどうなるんだろうな」

「見込みが甘かった王が責められることになるのか、軍の上層部を足切りして終わるのか、あるいは犠牲の数が多すぎて周辺各国から攻められることになるのか、いずれにしてもかの国にとっては碌な結果にはならないでしょう」

「あまり不安定な世情にはなってほしくは無いんだがな。こればかりは仕方なしか。情報不足のまま攻め込んできたあちらさんが悪い」


 俺のダンジョンは、コアルームがある最下層を除くと全部で三十層ある。

 ただ今のところ十五層を超えて攻略されたことは無く、世間に流れている噂でも二十層が最下層ではないかと言われている。

 今回のダンジョン攻略隊はその噂だけを信じ込んで組まれているわけだが、ただの噂だけを信じて攻め込んできた国家の見込みが悪すぎたと言えるだろう。

 だからといって親切に教えるつもりもないのだが。

 

 俺がいるコアルームには、ダンジョン内を監視できるシステムが構築されている。

 その多くはダンジョンマスターである俺が独自に作り上げたもので、現代日本の監視システムと似たような造りになっていた。

 これは俺だけではなく、他のプレイヤーも使っているシステムでお互いに情報交換をしつつ、生産組に頼んで作ってもらったような魔道具も存在している。

 俺がいる世界の全てのダンジョンマスターが共通で使えるものもあれば、プレイヤーとして独自に用意したものもあったりする。

 

 そのシステムのモニターは、侵入者が各階層でどういう状況にあるかが克明に映るようになっている。

「お? 最初は数のごり押しで攻めていたようだが、今はチームを組んで攻略しているようだな。冒険者辺りから情報を仕入れたか?」

「ただの平面フィールドであれば軍隊での数のごり押しも通用しますが、狭い通路に入ってしまうと意味がないですからね。特に中層以降はそうなっていますから軍隊として行動するのは難しいでしょう。そういう意味では、冒険者からの意見を取り入れたことは英断といえるでしょう」

「まあな。俺からすれば今更かよと言いたところだが……それを言っても仕方ないか。どうせギルド辺りが忠告していただろうが、聞かなかったんだろうな」

「実際あちらの司令部では、そういう会話が行われていることは確認できております」

「やれやれ。軍の上層部で足の引っ張り合いをして現場で混乱するなんてことは古今東西どこにでもある話だが、それにしてもひどいな」


 俺からすればよくこんな状態で攻めて来たなと言いたいところだが、攻めて来た国家にも言い分はあるのだろう。

 こちらでも事前に情報収集をしたところによると、攻めて来た国家も致し方ない事情があったことも事実だ。

 災害やら何やらで国家の内政がズタボロになっていたところに周囲の国家も不穏なところしかないとなれば、多くの資源が得られるダンジョンに活路を見出したというのは悪くない手と言えなくもない。

 ただだからといってこちらが手加減をしてやる必要もないのだが。

 

 しばらく黙って複数の画面を見ていたが、特に大きな動きはなかった。

 この分だと下層どころか中層すら突破するのはしばらくかかるだろう。

 あるいは、ある程度ダンジョン内資源を回収したところで勝手に引き返して行くかもしれない。

 軍単位で動いているということは補給線がしっかりしているということなので、冒険者と違って資源の回収がスムーズにできるという特徴もある。

 

「――正直、今いる場所で荒らされても大した被害にはならないんだが……面白くないと思うのは我がままになるのだろうか」

「ご安心ください。私たちもそう思っております。ご許可いただければ、私たちが動きますが?」

「どうだろうなあ。出来れば下層にまで行ったらどうなるかを見てみたかったな。ただこのまま待っていても進展はなさそうな気もするな」

「このペースですと下層に行けたとしても一週間以上かかりますよ?」

「そうだよなあ。そこまで焦らされる意味もないか。軍単位で動けば稼げると思われるのも面倒だしな」

「今の国だけではなく、周辺各国の軍も動くでしょうね」

「よし、決めた。彼らにはお帰り願おう。眷属の誰か……二人ほど好きに選んで出して好きに暴れて来るように言ってくれ」

「畏まりました」


 俺がそう結論を下すと、美女エルフは丁寧に頭を下げて来た。

 俺にとっての参謀役である彼女は、直接の部下になる眷属に対する命令権も与えている。

 どこからどう見ても「良きに計らえ」と言っているのと変わらないような言い方だが、それが一番いい結果を出すと分かっているからこその指示でもある。

 彼女なら今の状況と俺の望みを汲んで、適切な指示を出してくれるはずなので安心して任せられる。

 

 久しぶりに大きな動きがあるかもと期待できるところがあったのだが、結局はダンジョン自体に大きなダメージは無く終わりそうだ。

 今多くのプレイヤーが試している世界全体での技術力向上に一役買ってくれればいいとは思うのだが、この分だと期待できそうにはない。

 いっそのこと他のプレイヤーと同じように、ダンジョンから飛び出て先頭集団でも育てようか。

 そんなことを考えつつ今も続いているとある国家の軍による攻略状況を見守っていた。




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