(12)色々準備
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お気に入りのお店での騒ぎは、やはりというべきか例の出入り禁止になっていた男たちが起こしているものだった。
しかも何故あんな中途半端なやり方になっているのかといえば、彼らが個人的な付き合いだけを利用して行っているからというお粗末な理由だった。
早い話があれだけ主張していた刀魔混流はほとんど関係がなく、それぞれの思惑でのみ動いているだけだと。
さらに付け加えると、下手に流派を強調しすぎて破門になると困るという及び腰も出ているようだから情けないと言われても仕方ないだろう。
そんな状態なので、いつかは飽きて立ち消えになるのではないかというのが今後の見通しになっている。
一応店長を始めとして店員さんが困っていたのでこっそりとそのことを教えてあげると、ため息交じりにしばらくはこのままで様子を見ると言っていた。
仕入れなんかに影響があると困るらしいがそれもないらしく、常連さんを含めたお客も来ているので即倒産ということにはならないらしい。
何から何まで中途半端な騒ぎではあるが、当事者にとってみれば迷惑であることには違いないので出来れば早く終わってほしいというのが本音だろう。
とはいえこちらから手を出すのも違う気がするので、今のところ深く介入するつもりはない。
店を見ている感じでは、男たちが諦めるまで周囲の者たちや常連さんで助け合うだろうという感じだったからだ。
これで抜き差しならないところまで来ているのであれば、直接手助けすることも考えたけれど今すぐには必要ないだろう。
このタイミングで状況を知れたことが良かったのか悪かったのかは、今のところ判断はつかない。
そんなことが起こりつつもマキムクの拠点は、最低限の生活ができるくらいにまで準備が整った。
あとは生活を続けていけば細かい生活雑貨なんかが必要になって来るかも知れないが、そこまで用意しているといくら時間があっても足りなくなる。
それにそろそろダンジョンに入らないと、折角あの雰囲気に慣れてきていた子供たちがまた一からやり直しなんてことになりかねない。
子供と大人の一日の感じる長さは違うらしいので、大人の感覚で動いたらだめだと思うことにしている
「子供たちのためにもできるだけすぐにというのはわかるけれど、どこまで深く潜るつもり?」
翌日に第十層以下の探索に行こうと決めた日の夜に、アンネリがそう聞いてきた。
「いや。今回はそこまで深くは行くつもりはないよ。引っ越しやら何やらで日が空いたから、馴らし程度に行くだけ」
「ということは、また十層以内に行くってこと?」
「それも違うかな。まずは俺たちの戦いを見てもらうつもりだから転移陣を使って一気に十層までは行くよ。もっともトムたちには見学は必要ないかも知れないけれどね」
トムたちはサポーターとして何度か強敵相手に戦うところを見ているので、全くの未経験というわけではない。
ただ自分たちが戦う能力を身に着けてから見るのは初めてだと思うので、それなりに強い相手は必要になると考えている。
「そう。それじゃあそこそこ強い相手と戦うってことね」
「そうだね。それに長居をするつもりもないしね。今回はあくまでも様子見だから」
本来なら遠征をするつもりで攻略する予定だったのだけれど、色々とあっていきなり長期遠征をする気がなくなってしまっている。
それは全員に確認したうえでの考えなので、今更奥まで潜りたいと言い出すこともないだろう。
引っ越し作業の息抜き――というと怒られるかもしれないが、気持ちとしてはその程度の探索になる。
あとは第十層からはダンジョンの雰囲気も変わるという話なので、どの程度変化するのかも一度確認しておきたい。
「私は残って作業をした方がいいでしょうか?」
「ハロルドはねー。正直なところどっちでもいいかな。皆で使うようなものは揃えたはずだから、残る必要もあまり無いよね?」
「確かにそうですが、このままだと執事とか家令というよりも冒険者一直線ですね」
「あら。結構楽しそうに戦っているからそっちの方がいいと思っていたからなんだけれど、もし不満だったら残っていてもいいよ?」
もともとハロルドは執事的な役目をしてもらうつもりで買った奴隷なので、ダンジョンに潜ってもらう必要はない。
これまで一緒にダンジョンに潜って貰ったりしていたのは、本人が割と楽しそうに見えたからだ。
正直なところ広い屋敷を持つつもりもないので、執事としてはあまり能力を発揮できる機会がないともいえる。
子供たちも魔物相手に戦闘できるほどに育ってきているので、比重がどうしてもダンジョンやフィールド戦闘に偏ってしまっているだけだ。
現状は子供たちの成長を最優先にしているので、大人組は腕が鈍らない程度の戦闘しかしていない。
それでも個人個人でできることはやっているので、腕が鈍るどころか成長していっているように感じる。
余談ではあるけれど、本来世界樹の巫女は魔物との戦闘ができるような力はないが、アイリがパーティに混じることが出来ているのはツガル家に生まれてしっかりと魔法の技術を身に着けていたからだ。
そのアイリに学んでいるクファもまた、年相応以上の魔法を使えていたりする。
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前回解放した転移陣を使って、第十層へと移動した。
ここから先については、ギルドで買った地図はあるもののパーティとしては初見になるので慎重に動くことにしている。
ダンジョンの雰囲気と出て来る魔物の殺意が高いので、たとえ格下だと分かっていても油断できるわけではない。
とはいえ緊張しっぱなしだと力を出せずに負けるということもありえるので、適度な緊張は保っている。
もっとも『適度な』というのが余所から見ると曲者のようで、緊張感なしに悪くいえば舐めた態度でダンジョンに潜っているパーティという評価になるらしい。
今のところマキムクダンジョンでは余所のパーティと組んで探索をする予定はないので、周囲からどう思われようがあまり気にする必要はないだろう。
とにかく今必要なことをするだけなので、周囲の評判を気にしても仕方ないと考えている。
第十層に潜って突進してきた魔物を相手にしながら考え事をしていると、ふととある思い付きが頭をよぎった。
「――集いの人たちを呼んでもいいかも知れないな」
「集いって、クランの? また突然ね」
ちょっとした思い付きで思わず呟いてしまったが、隣を歩いていたアンネリがその言葉が聞こえたのか反応してきた。
「いや。ダンジョンアタックしていると、他のところのを見る機会なんてほとんどないだろうなと思ってね」
「それはそうでしょうけれど、そもそも他のダンジョンに行くことなんてないわよ? 高ランクになったとかならともかく」
「それ、逆だと思わない? 高ランクを目指すんだったら色んな所のダンジョンに潜って、いろんな敵と戦えるようにならないと」
「そういわれてみれば、確かにそのとおりね。距離の問題が解決できれば、だけれどね」
「問題はそれなんだよなあ。まあ、だからこそ集いだけに限定しようかと思ったんだけれどね」
転移装置を使えば、距離の問題は一気に解決できる。
ただしそんなものがあると国家なりに知られると、大騒ぎどころではなくなってしまう。
とはいえユグホウラが転移に関する魔道具を使っているということは上層部辺りには知られているので、それを利用することもできなくはない。
少し本気で考えてみようかとダンジョンを歩きながら検討してみた。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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