キリングドールカンパニー!ー~不遇職『人形使い』でダンジョン無双!!~
鳴雷堂 哲夫
第1話 序章
あれはわたしがパーティーをクビになる数日前の話だ。
それはよく晴れた夏の日の昼下がりのこと。
夏の太陽が照り付ける草原の小高い丘の上で、わたしたちのパーティーは団長のラグナルの命令に従い、茂みに隠れ待機していた。
「いたぞ、ダイアウルフの群れだ。数は約二十頭といったところか…。平均レベルは15…。情報どうりだな。」
「気づかれやしませんかね?奴ら鼻が利きます。」
副団長のジョナサンさんが尋ねる。
「俺たちは奴らの風下にいる。匂いで気付かれることはないさ。」
ここはレムリア共和国の近隣の草原。
数日前、わたしたちのパーティー「朱の旅団」はギルドからの依頼で、隊商を襲うダイアウルフの群れの討伐を請け負ったのだ。
あの狂える狼たちによって既に三つの隊商が壊滅している。
奴らの討伐は急務といえるだろう。
「まだだ…。奴らが罠にかかるまで待て。」
団員の視線が、地面に仕掛けられた罠魔法の方にむく。
ライオンほどの大きさがある巨大な狼の群れが、進行方向に仕掛けられた罠に気付くことなく、風を切り
草原を突き進む。
ダイアウルフという獣は図体こそでかいが、一個体はそこまで強い生き物ではない。
一頭程度なら駆け出しの冒険者でもなんとか倒すことはできる。
しかし、群れが相手となると話は別だ。
洗練されたチームワークで冒険者をかく乱し、時に熟練者すら死地に追いやる難敵と化す。
わたしたちのような少人数のパーティーでは、真っ正面から戦いを挑んでも返り討ちに会うのがオチだろう。
そこで、罠魔法の出番というわけだ。
身動きの取れない相手を集団で嬲り殺しにするという実際卑劣極まりないやり方だが、わたしたちに手段を選んでいる余裕はないのだ。
「まだだ…3……2……1……掛かった!!」
群れの先導するリーダーらしき個体が、地面に貼られた呪符を気付くことなく踏みつける。
その瞬間、呪符から青白い稲妻がほとばしり、狼の群れを包み込む。
「アオォォォォォぉォォン?!」
苦痛と困惑に満ちた声を上げ、狼たちが倒れ伏す。
麻痺効果を持つ電流が体に纏わりつき、狼たちから自由を奪う。
この隙を逃すまいと団長がすかさず指示を飛ばす。
「エリー!火炎魔法で攻撃!」
「了解!ファイアレイン!」
魔法使いのエリーさんが火属性の範囲魔法を発動する。
樫の木の杖を絵筆のように動かし、虚空に魔法陣を描いてゆく。
空中に描かれた魔法陣から無数の火の玉がほとばしり、地面に倒れ伏す狼たちを焼き焦がしていく。
エリーさんの火炎魔法の威力は絶大だ。
それでも全ての狼を焼き殺すにはやや火力が足りなかったようだ。
生き残った数頭の狼たちが、よろよろと立ち上がり体勢を立て直そうとしている。
麻痺が解け始めているのだ。
「クソ!効きが弱いな!安物の呪符じゃこの程度か!」
「団長!」
エリーさんが不安げな顔で団長を見る。
「今だ、行け!ムーブムーブ!!生き残りたちを始末しろ!」」
団長が団員たちに激を飛ばす。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
団長の号令に応え、戦士たちが怒声を上げて丘の斜面を滑り降りていく。
戦士たちが、各々の武器を振りかざし、
剣で、メイスで、戦斧で、あるいは槍で、
体制を立て直し、襲い掛からんとする狼たちを打ち伏せていく。
「わたしたちもいくよ!ステラ!レオナ!ロボ美!」
わたしも皆に遅れまいと、背中のリュックの中の相棒たちに声を掛ける。
そう、わたしの職業……『人形使い《パペットプレイヤー》』にとっての最大の武器にして相棒、にんぎょうを。
わたしの声に応え、背中のリュックから三つの影が飛び出す。
まず先陣を切るのは箒にまたがった魔法少女のぬいぐるみ「ステラ」。
わたしが使役する三体の中で、一番機動力に優れた人形だ。
続いてゼンマイ仕掛けのブリキのロボット人形「ロボ美」。
最後に飛び出したのはライオンのぬいぐるみ「レオナ」。
三体は地面に着地し、見得を切る。
彼女たちこそ、共和国最強の「人形使い」であるこのわたし「ドロシー・ワイアーブラー」が使役する最強の人形部隊「キリングドール・カンパニー」なのだ!
「目標は3時の方向の狼!ステラは旋回しつつ魔導弾で攻撃!レオナとロボ美はステラを支援!」
「りょーかい!ますたー!」
ステラは上空を旋回しつつ、ジョナサンさんに死角から襲い掛かろうとする一頭の狼に狙いを定める。
「魔導弾まじっくぶらすと、ふぁいあ!」
詠唱とともに、ステラの小さな手の平から青白い魔導弾が連続射出される。
単発の威力こそ低いが、速射性と集弾性に優れた魔弾が、狼の肉を削り取る。
「ロケットパンチ発射するロボ!」
続けてロボ美がロケットパンチを発射!
高速で飛来する拳が狼の鳩尾に深くえぐりこむ。
「グルオォォォォォォォン?!!」
あらぬ方向からの奇襲に、苦痛と困惑の声を上げ、、もんどりうって狼が倒れる。
「がおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
その隙を逃さずレオナが飛び掛かり、鋭い爪で狼の喉笛を切り裂く。
鮮血をまき散らし、狼は絶命した。
「助かったぜ、人形ちゃん達!」
ジョナサンさんがサムズアップして礼を言う。
「こっちはもういいから他の奴らを助けてやってくれ!」
「ドロシー!こっちも支援を頼む!」
「こっちもだ!」
彼方から仲間たちの支援を求める声がする。
「了解です!みんないくよ!」
「「「おーーーーーーーーーーー!!!」」」
わたしと人形たちは次の戦場に向かって駆け出して行った。
☆★☆★☆★
「ふぅ、やっと全部片付いた……。」
わたしたちが全ての狼を討伐し終えたころには、既に太陽が地平線に沈みかけていた。
真っ赤な夕日が、だだっ広い平原を紅に染め上げる。
その広大かつ幻想的な光景に、わたしは思わず見惚れてしまう。
「みんなご苦労だった!ギルドへの報告が終わったら、いつもの酒場で宴会と洒落こもうじゃないか!」
「「「「うぉーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」」」
団長の労いの言葉にパーティーのみんなが歓声を上げる。
お互いの武勲をたたえながら、団員たちは帰路に就く。
わたしも人形たちを回収したあと、みなに続こうとしていた、その時だった。
「ドロシー、ちょっといいか?」
団長に呼び止められ、わたしは足を止めた。
「なんです?団長。」
振り返ると、団長は真剣な表情でこちらをみつめてくる。
「実は、お前に折り入って話がある。……ここじゃちと話しにくいから、明日事務所に来てくれ。」
「……?了解です。」
それだけ言うと、団長は皆の後を追って、早足で歩いて行った。
いったい何の用事だろう?
まぁいいや。わたしも早く酒場へと急ごう。
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